研究不正が認められなかった場合の情報公開はどうあるべきか

2018年1月15日

岡山大学 田中 智之

研究機関が研究不正の疑義に対する調査において不正はないことを結論した場合、科学研究行動規範委員会はどの程度審議内容の情報開示に応じるべきかについて、総務省の情報公開・個人情報保護審査会の答申が公表されています。対象は東京大学です。私が以前の記事でふれていた現行のガイドラインの問題点について、法曹の専門家からも見解が公表されたことは重要です。結論としては、東京大学が不開示とした決定について、理由の提示に不備がある違法なものであり、取り消すべきとしています。

全文は以下のリンクで公開されており、下記サイトをお読みいただきたいです。ここでは私が重要な指摘と考える部分を抜粋します。

「平成26年度科学研究行動規範委員会資料等の一部開示に関する件」東京大学に対する情報公開・個人情報保護審査会(総務省)の答申(リンク、PDF)

・貴大学として,発言者が特定されないとしても,将来予定される審議において委員の意見等が公表されることを前提にすると,委員が部外の評価等を意識して素直な意見を述べることを控えるなど,意思決定の中立性や独立性が不当に損なわれるおそれがあると主張されるかもしれない。しかし,発言者が特定されないのであれば,委員の意見等が公表されたとしても素直な意見を控えるとは到底考えられない。もし意思決定の中立性や独立性が不当に損なわれるなどと主張するのであれば,発言者が特定されないにもかかわらず,素直な意見を述べることができないような調査委員を選任することを前提としており,専門家としての各調査委員を愚弄するのみならず,調査委員会の適正さそのものに疑義を生じさせる主張と言わざるを得ない。一連の資料の開示を拒むことは,研究不正を真摯に取り扱おうとする姿勢に真っ向から反するものである。さらに審議が終わった研究不正調査に関する議事の公開は,将来他の研究不正事案を審議する場合の参考となりうるものであり,貴大学の対応は,社会的に評価されるものではあれ,非難されることはありえない。

・また,審議,検討の内容を公にすることにより,調査にあたっての考え方,主張等が明らかになり,今後の同種の調査にあたり,正確な事実の把握を困難にするおそれ又は不当な行為を容易にするおそれがあるという主張についても,同様に事案ごとに内容や性質が異なるため懸念は当たらない。逆に「何が不正に当たるのか」といった考え方などはむしろ公開することで不正の防止につながる情報で,これらを不開示の理由とすることは調査の正当性に疑念を抱かせるだけでなく,研究機関として不正に真撃に対応できているのか,その姿勢を問われかねない事態にもつながると考える。

・独立行政法人は,原則として保有する情報を公開しなければならず,不開示はあくまで例外規定である。個別具体的な事情なく漫然と不開示とするのであれば,世間に対し,情報公開をする気がない大学であることを表明するに等しい。また,調査方針・手法自体は,調査委員会の判断の公正さを担保するために開示は必須であると考えられるのみならず,開示を拒むことは,逆に調査委員会の判断に対する疑義を生じさせるものであり,不開示とすることによりあたかも不正があったかのように流布されるおそれもある。