ビジネスジャーナルのファクトチェック
《粉ミルクに遺伝子組み換え原料が氾濫...メディアが報じない乳業メーカーの闇》
対象言説
そんななか、大切な赤ちゃん用の粉ミルクに、遺伝子組み換え原料が使われていることがわかりました。筆者はそれを元農林水産大臣の山田正彦氏のブログで知ったのですが、驚きを通り越してあきれてしまい、徐々に怒りを感じました。大手企業の製品には軒並み、遺伝子組み換え原料が使われています。
(中略)
筆者は、遺伝子組み換え原料を使用しているとして名前が挙がっている乳業メーカーの製品は、赤ちゃん用の粉ミルクに限らず絶対に購入しないと、固く心に決めました。自分で選択ができない赤ちゃんに代わって、大人たちはもっと怒るべきではないでしょうか。
日付 2020年2月10日
媒体 ビジネスジャーナル
見出し 粉ミルクに遺伝子組み換え原料が氾濫…メディアが報じない乳業メーカーの闇
総合評価
根拠を示すことなく、読者の不安を煽る記事です。
メディアにおいて個人的意見を述べて行動を呼びかけるからには、その科学的根拠を明確に示すべきですが、科学的根拠は示されていません。また、編集者は根拠を示すよう筆者に補筆を促すべきですが、そういう編集者としての責任を全く果たしていないことも、この記事の問題点として挙げられます。
評価項目①「科学的根拠が適切か」
問題あり(科学的根拠が示されていない)
筆者は記事で赤ちゃん用粉ミルクに遺伝子組み換え原料が使われていることを知って、「驚きを通り越してあきれてしまい、徐々に怒りを感じ」、「大人たちはもっと怒るべきではないでしょうか」と呼びかけています。
しかしながら、赤ちゃん用粉ミルクに遺伝子組み換え原料が使われていることが、なぜ怒るべきことなのかは一切説明されておらず、その科学的根拠にも触れられていません。
筆者が情報源に挙げている山田正彦氏のブログを見ると、「6種類の粉ミルク全てに遺伝子組み換えの原料が使われていた」と記載されており、該当する原料が大豆油、菜種油、デキストリン、ブドウ糖などであると分かる資料が掲載されています。
大豆油や菜種油は、それぞれ大豆や菜種を絞って、精製して得られる植物油です。精製される過程で元の組み換え遺伝子も、その遺伝子の情報をもとに作られるたん白質も除去されて残っていません。
デキストリンやブドウ糖は、トウモロコシ等から得られる澱粉を酵素で分解して得られます。これもやはり精製されるので元の遺伝子やたん白質は除去されて残っていません。
また、遺伝子組み換え作物は、食品としての安全性評価が義務付けられており、食品安全委員会によってその安全性が確認されています。仮に原料作物の遺伝子やたん白質が残っていても、人の健康に悪影響を与えるものではありません。すでに日本で流通している食用油のほとんどは組み換え作物を原料に作られており、大人も子供も食べていますが、健康への影響は何も出ていません。
メディアにおいて個人的意見を述べて行動を呼びかけるからには、その科学的根拠を明確に示すべきです。対象言説及びそれ以外の当該記事中にも科学的根拠は示されておらず、不適切と判定します。
評価項目②「事実関係に誤りがないか」
対象外
筆者の個人的体験や意見が述べられているのみであり、判定の対象外です。
評価項目③「見出しは適切か」
問題あり
大辞林によると「氾濫」とは「(好ましくないものが)ひろがりはびこること。」(大辞林)であり、遺伝子組み換え原料について、根拠を示さずに好ましくないものと決めつけています。
「乳業メーカーの闇」との表現も使われていますが、「闇」には「道義が行われないこと」(大辞林)等の意味があります。乳業メーカーは安全な原料を使っており、それを隠しているという事実はありません。「闇」という見出しは、乳業メーカーの名誉を傷つけるものであり、明らかに誹謗中傷に相当します。
以上より、「粉ミルクに遺伝子組み換え原料が氾濫…メディアが報じない乳業メーカーの闇」との見出しは、遺伝子組み換え原料を好ましくないものと決めつけ、乳業メーカーが道義に外れたことをしているかのごとく思わせる不適切なものです。
公開日: 2020年2月20日
訂正履歴: