Asagei Bizへの訂正要望

東大大学院教授が警鐘「日本で7200万人が餓死する!」(1)》

2023年7月12日

Asagei Biz 編集長殿

 

食品安全情報ネットワーク(FSIN)

http://sites.google.com/site/fsinetwork/

 

AsageiBiz(6月25日)「東大大学院教授が警鐘「日本で7200万人が餓死する!」(1) に対する訂正要望

 

メディアチェック集団「食品安全情報ネットワーク(FSIN)」は、食品の安全に関する記事やニュースを科学的な立場から検証し、自らも科学的根拠に基づく情報発信をすべく日々活動している、学識経験者、消費者、食品事業者、メディア関係者等の有志による横断的なボランティア・ネットワーク組織です。

 

【訂正要望の要旨】

AsageiBiz(2023年6月25日)に掲載された鈴木宣弘氏のインタビュー記事においてある論文が引用されていますが、一部のみしか引用されていないことや論文にはない記述を追加していることなど、読者に誤った印象を与える内容となっています。論文の趣旨が正しく伝わるよう訂正を求めます。鈴木氏の述べた論文の紹介と原論文の違いが分かるよう、鈴木氏の語った記述(A)とそれに相当する私たちの説明(B)を以下に挙げます。下線部が論文にはない記述です。

 

A《鈴木氏の語った記述》

 米国ラトガース大学の研究チームが世界的学術誌「Nature」の姉妹誌「Nature Food」に〈国際物流停止による世界の餓死者が日本に集中する〉との研究結果を発表したのです。

この画期的な論文では、局地的な核戦争が勃発した場合、直接的な被爆による死者は2700万人だが、「核の冬」による食料生産の減少と物流停止による2年後の餓死者は世界全体で2億5500万人に上るとされ、そのうちの約3割が食料自給率の低い日本に集中すると記されています。

(引用元:《東大大学院教授が警鐘「日本で7200万人が餓死する!」(1)
「真の食料自給率」は10%以下》Asagei Biz、2023年6月25日)

  

B《鈴木氏の語った記述に相当する表現を原文に照らし合わせて書き直すと以下のようになります》

米国ラトガース大学の研究チームが世界的学術誌「Nature」の姉妹誌「Nature Food」に〈国際物流停止による世界の餓死者数の推定値〉との研究結果を発表したのです。

局地的な核戦争が勃発した場合、ある推定条件ですと,直接的な被爆による死者は2700万人ですが、「核の冬」による食料生産の減少と物流停止による2年後の餓死者は世界全体で2億5500万人に上るとされ、そのうち日本での餓死者は世界全体の約3割にあたる計算となります。

 


【FSINの見解と要望】

記事中では、「食料生産の減少と物流停止」による世界全体と日本の餓死者数が説明されていますが、同論文では「物流が停止しない場合」も試算されています。その場合には、同規模の核戦争であれば日本の餓死者は0.0百万人とされています。

論文の一部だけを切り取って伝えることはリスクを過剰に煽ることに繋がり適切とは言えないのではないでしょうか。

また、同論文には「食料自給率の低い日本に集中する」など日本に特に言及する記述はありません。

同論文は世界160カ国・地域について、核戦争が起きたときのさまざまなシナリオを推定したものです。記事内容では、日本に特に警鐘を鳴らす論文が出たかのようになっており、読者に誤解を与えるものです。

当該記事はインタビューにより構成されており、今回指摘の部分は鈴木宣弘氏が語ったことになっています。自論に合う部分だけを恣意的に引用して、さらに論文にはない記述を「記されています」として追加して伝える行為は、適切でないと申し添えます。

また、鈴木氏は研究者という肩書でインタビューを受けているわけですから、学術論文を読み違えて記事にすれば、その発言の信頼性が失われます。そして同時に間違った情報を読者に伝えることになります。これが学術論文であれば、引用の読み違えにより、投稿論文がリジェクトされる可能性さえあります。論文の中から自分の都合のよい事実だけを取り出し、事実と意見を混同して伝えるのは学者として許されません。

読者に的確な情報を提供するのが言論メディアの役割です。訂正を掲載していただくようお願い申し上げます。

 

御忙しいとは存じますが、7月20日までにご回答をいただきたく思います。回答は電子メールでお願いいたします。なお電話での問い合わせにも応じます。

 

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