町田市消費生活センターとの意見交換

<要約>

2010年7月2日に町田市消費生活センターにおいて、安部司氏講演会「なにを食べたらいいの?~食品添加物は魔術師~」が開催された。

安部司氏は公の機関の講師として適切とは考えられないが、同センターにおいては直近に適切な講演の期待できる講師を招いていたことや、「今回もじっくりお話を聴いて、大いに悩み、大いに考えてみてください」とホームページに記載があったことなど、その活動方針が興味深く感じられた。そこで、7月23日付で問合せをし、8月9日に面談が実現した。

面談においては、当該講演会はイベントの一部であったため、集客を期待して安部司氏を選定したことなどが説明された。FSINからは、参加者を間違った方向に誘導する懸念があること、正確な情報提供のためにはできる限りの協力をさせてもらうことを伝えて、友好的に面談を終了した。

以下に今回の活動を報告する。

<質問状>

2010年7月23日

町田市消費生活センター所長殿

食品安全情報ネットワーク(FSIN)

http://sites.google.com/site/fsinetwork/

7月3日講演会「なにを食べたらいいの?~食品添加物は魔術師~」についての問合せ

はじめてご連絡を差し上げます。

食品安全情報ネットワーク(FSIN)は、食品の安全に関する必要な情報を収集し、科学的な立場からこれを検証し、自らも科学的根拠がある情報発信をすべく日々活動している、学識経験者、消費者、食品事業者、メディア関係者等の有志による横断的なネットワーク組織です。

貴センターが7月3日に開催された講演会「なにを食べたらいいの?~食品添加物は魔術師」について、参加することはできませんでしたが、どのような趣旨で開催されたのか大変興味深いと考えております。

食については、消費者自身が適切な判断のできる力を身につけることが大切とされています。適切な判断をするには、正確な知識が基礎となります。

7月3日の講師である安部司氏は著書や講演内容に誤りが多く、不適切であることが多くの記事等で指摘されています1,2,3。また、実際に著書や講演を拝見して、内閣府食品安全委員会や厚生労働省等が取り組んでいる正確な情報提供を否定する活動であると考えています。

  1. 「食品添加物を巡る諸問題 その1」長村洋一、健康食品管理士認定協会会報(2007年)
  2. 「メディア・バイアス」松永和紀、光文社新書(2007年)
  3. 「食品添加物をめぐる社会情勢」大谷丕古磨、月刊フードケミカル(2007年)

従いまして、私どもとしては安部司氏は消費生活センターのような公的機関が講師に招くには不適切な人物と考えています。これまでにも安部司氏を講師に招いた自治体との意見交換等も行ってきました。詳しくは私どものホームページをご覧ください。

今回の問合せは必ずしも貴センターへの抗議ではありません。私どもにとって貴センターの取り組みは、次の2点から興味深く、可能ならばご面談いただいて意見交換したいと考えております。

1点目は、5月27日に実践女子大学教授の西島基弘先生が講演されていることです。西島先生は私どもも存じ上げており、科学に基づいた正確な情報を聴講者に提供される方です。このような講演会の後に、安部司氏を選定された理由を知りたいと存じます。

2点目は、貴センターがホームページ上で、「受講者のみなさんは、異なる先生の様々な見解を聴いて、大いに考えさせられたようです。今回もじっくりお話を聴いて、大いに悩み、大いに考えてみてください」と述べられていることです。私どもは、正確な情報を基礎として、様々な見解があることは健全だと考えておりますが、そもそも間違った情報をもとに大いに考えることについてどのような効果を期待しておられるのか、貴センターのお考えを伺いたいと存じます。

なお、本質問状はFSINのホームページ等で公開いたします。また、貴センターのご対応についても公開したいと考えていることも予めお伝えいたします。

以上

<面談概要>

日時: 2010年8月9日(月)11:00-12:10

場所: 町田市消費生活センター(東京都町田市、町田市民フォーラム3階)

出席者(町田市側): 町田市 市民部 市民協同推進課 男女平等・消費生活担当課長、他2名

出席者(FSIN側): 蒲生幹事、佐仲幹事、荒井幹事

まず町田市側から、講演会は市民による運営協議会で企画されていること(面談には運営協議会の会長も同席された)、および次のような趣旨が説明された。

  • 当該講演会は、くらしを守る市民の集い実行委員会主催、町田市共催の「くらしを守る市民の集い」というイベントの一部として開催されたものであり、定員が188名と大規模であったことから、集客を期待して安部氏を講師に選定した。
  • 消費生活入門講座では西島先生や板倉先生を招いており、参加者にはリピーターが多い。
  • 何が正しいかの結論は行政から示すことではなく、行政の出す情報といえども聞き手は無批判に受け入れるべきでない。
  • 安部氏の講演のうち「そんなに心配なら自分で作ったら」などは科学ではなく心の問題であること。 など

これに対してFSINから、次のような理由により参加者を間違った方向に誘導する懸念があると述べた。

  • 開催時期や規模が異なり参加者には比較が難しい(消費生活入門講座は5月、定員40名で開催された。安部氏講演会は7月、定員188名である)。
  • 多数の人を呼んでいることから必ずしも判断の素地がない方もおられたと推測される。
  • 通常は、行政の出す情報は信頼度が高いと考えられている。
  • 手作りがよいと伝えることに異論はないが、食品添加物に発がん性がある等の事実と違うことを話している。

町田市側からは、いろいろな切り口で活動している一環であり、科学的に正確な情報提供をする講師も採用していること、しかし今回のような大規模イベントでは集客が悩みであるという趣旨が述べられた。

最後にFSINから、いろいろな切り口での活動は素晴らしいが、事実と異なる情報提供は市民の勉強の妨げとなること、正確な情報提供のためにはできる限りの協力をさせてもらうことを伝えて、友好的に面談を終了した。

<提供資料の一覧>

資料① 「食品添加物を巡る諸問題 その1」(長村洋一、健康食品管理士認定協会会報2007年)

資料② 「メディア・バイアス」(松永和紀、光文社、2007)p110-129「添加物バッシングの罪」の一部

資料③ 「食品添加物をめぐる社会情勢」(大谷丕古磨、月刊フードケミカル2007年8月号)

資料④ 「日本の食は危険なの?」(唐木英明、読売新聞掲載予定原稿2010年)