読売新聞への質問状

「コンビニ弁当もチルド登場」

<概要>

2010年9月29日付け読売新聞朝刊に「コンビニ弁当チルドも登場」との見出しで、次のような記述のある記事が掲載されました。

「添加物減で健康志向」

「食品添加物は最大で半分以上減らせるといい、エコで健康志向の弁当と言えそうだ。」

10/8付でFSINより、この記事の科学的根拠や読売新聞の考え方を問うとともに、記事に間違いがあるならば訂正を要望する質問状を読売新聞編集局長宛に提出しました。

12/1に読売新聞東京本社編集委員 重田育哉様より文書を受け取りました。その内容は次のような趣旨でした。

「社会現象について報じたものであり、添加物の増減と人体への影響の科学的関係を論じたものではありません」

この文書は、社会現象を論ずるという看板を掲げれば、科学的な誤りがあっても許されるとも受け止められる内容です。また、編集局長宛に質問状を提出しているにもかかわらず、編集委員名義で文書が送付されてきた経緯についても説明がありませんでした。

FSINでは、12/9にこの文書が読売新聞社としての真意であるものかを問う二通目の質問状を提出しました。2011年1月14日に読売新聞社広報部より、「重田編集委員からの回答が読売新聞社としての最終回答である」との回答を得ました。

<経緯>

2010年9月29日

読売新聞朝刊に「コンビニ弁当チルドも登場」との見出しで当該記事が掲載された。

同年10月8日

FSINより読売新聞編集局長宛の公開質問状を送付した。

内容は、この記事の科学的根拠と読売新聞社の考え方を問うとともに、記事に間違いがある場合は訂正記事の掲載を要望するものである。

同年11月4日

FSINより読者センターに一回目の電話。

経済部で検討しているからしばらく待って返答なければもう一度電話して欲しいとのことだった。

FSINからは面談を打診したが、検討中なので待ってほしいとのことだった。

同年11月11日

FSINより読者センターに二回目の電話。

分かるものがいないからかけ直してくださいとのことだった。

同年11月16日

FSINより読者センターに三回目の電話。

検討中だが担当部署では判断できないので分かる部署と相談している。もうしばらくお待ちくださいとのことだった。

当方より、「経済部の記者様ということで科学的なことで判断しにくい部分もあると思う。面談してお互いに意見交換できれば良いのですが」と提案したが、必ず回答を

出しますのでそれまでお待ちくださいとのことだった。

当方としては、書面での回答が得られるものと考え、1週間程度待ってご回答なければ再度電話する旨を伝えた上で、電話を切った。

同年11月26日

FSINより読者センターに四回目の電話。

経済部と相談した内容とのことで、読者センターより口頭での回答を得た(回答趣旨は<読者センターの口頭回答に対するFSINの意見>を参照ください)。

なお、この際に、回答をホームページに掲載しても構わないことを確認した。

同年11月30日

FSINより読者センターへFAXを送付。

内容は、FSINホームページに回答を掲載するに先立っての文面確認を求めるとともに、読者センターの口頭回答に対するFSINの意見を述べたもの。

同年11月30日

読売新聞読者センターよりFSIN担当者宛に電話があった。

11/29に正式な回答書を文書で送ったので、それをHPに掲載しても構わない、とのことだった。

同年12月1日

読売新聞東京本社編集委員 重田育哉氏からの文書(11/29付け)を受け取った。

同年12月9日

FSINより読売新聞編集局長宛に二通目の公開質問状を提出した。

内容は、12/1付重田育哉編集委員の回答が読売新聞社としての真意であるか問うものである。

2011年1月14日

FSINより読売新聞東京本社の代表番号に電話し、編集局長の伝川様への取り次ぎをお願いした。広報部に電話をつながれ、後で折り返し電話するとのことだった。

同日、広報部から折り返しの電話があり、次のような趣旨の回答があった。

重田編集委員からの回答が読売新聞社としての最終回答であり、その中に言い尽くしてあるので、それ以上の質問には回答の必要はない。

<FSINからの公開質問状>

2010年10月8日

読売新聞社 編集局長殿

食品安全情報ネットワーク(FSIN)

http://sites.google.com/site/fsinetwork/

9月29日朝刊「コンビニ弁当チルドも登場」への公開質問状

はじめてご連絡を差し上げます。

食品安全情報ネットワーク(FSIN)は、食品の安全に関する必要な情報を収集し、科学的な立場からこれを検証し、自らも科学的根拠がある情報発信をすべく日々活動している、学識経験者、消費者、食品事業者、メディア関係者等の有志による横断的なネットワーク組織です。

貴紙9月29日朝刊に掲載された、経済部 栗原守様による標記記事について質問いたします。

【質問】

1. 見出しの「添加物減で健康志向」、および本文中の下記部分について質問いたします。

「食品添加物は最大で半分以上減らせるといい、エコで健康志向の弁当と言えそうだ。」

    • 添加物を減らすと健康によいというお考えであれば、その科学的な根拠を教えて下さい。
    • 添加物はいろいろな物質の総称ですが、具体的にどの添加物を減らすことによって、健康に役立つのか、科学的根拠を教えて下さい。

2. 見出しの「長い消費期限 廃棄少なく」、および本文中の下記部分について質問いたします。

「コンビニで売っている従来型の弁当は通常、20度程度の棚に並べてある。これに対し、チルド弁当は3~5度の低温の商品棚に並んでいる。(中略)保存性がよいため、消費期限は従来型の弁当より2倍以上長い。(中略)長く陳列できるため、店舗側は売れ残りの心配がなくなる。顧客は、すぐに食べない場合でも、自宅などに持ち帰って、しばらく冷蔵庫で保管できる。」

    • 商品の廃棄量は消費期限の長さだけでなく、商品の発注量と販売量のバランスにもよりますが、チルド弁当が従来型の弁当よりも廃棄量が減っているという事実はあるのでしょうか。
    • チルドで流通・陳列することで消費期限が延びたとしても、消費者が条件温度を保持するとは限りません。その場合のリスクをどのようにお考えでしょうか。特別の注意喚起をせずに単純に「消費期限が2倍」と述べることは、腐敗・食中毒リスクを高めることにはならないでしょうか。貴紙の見解を教えて下さい。

【意見】

どのような化学物質の作用も、その量で決まります。食品添加物は、ヒトの健康に影響のない量で、食品において有用な効果を発揮するものだけが使用を許可されています。具体的には、ADI(一日摂取許容量:ヒトが一生食べ続けても健康への悪影響がないと認められた一日あたりの摂取量)に基づいて使用できる食品や量(使用基準)が定められています。実際に摂取されている量も調査されており、通常の食生活で食品添加物がヒトの健康に悪影響を及ぼすとは考えられません。このようなリスク評価や管理は、内閣府食品安全委員会や厚生労働省などにより科学的根拠に基づいて進められています。

食品添加物は多くの物質の総称です。一方、健康に影響する量は物質ごとに異なります。従って、健康影響に言及される場合には、食品添加物という呼称で一括りにすることは不適切と考えます。該当する添加物の名称と健康影響について具体的に述べるべきであり、科学的根拠による裏づけも必須です。なお、食品添加物として使用されている物質は天然の食品に成分として含まれているものが多く、ヒトが実際に摂取している量のうち99%を占めると報告されていることも申し添えます。

消費期限は、定められた方法により保存した場合において、腐敗、変敗その他の品質の劣化に伴い安全性を欠くこととなるおそれがないと認められる期限を示す年月日と定義されています。食品における最大のリスクは食中毒ですが、原因となる微生物の増殖は保存温度に大きく左右されます。チルド弁当は10度以下の保存を前提としており、従来の弁当とは大きく異なります。このため、報道される際には、メリットを強調するばかりでなく注意喚起もしていただきたいと考えます。

なお、20度程度と3~5度とでは流通・陳列に要するエネルギーが大きく異なるはずです。経済性や環境問題等を総合的に勘案すると、従来型の弁当よりチルド弁当の方が優れていると判断する根拠には乏しいのではないかと考えます。また、保存料等の添加物の利用によって、より温和な温度条件でもある程度の日持ちが確保できると考えられることにもご留意ください。

以上、この記事の科学的根拠と貴紙の考え方をお示しいただきたく、記事に間違いがある場合は訂正記事の掲載を要望します。

ご多忙のこととは存じますが、事の重要性に鑑みて折り返しのご回答をお待ちします。

なお、本質問状はFSINのホームページ等で公開いたします。また、貴紙のご対応についても公開したいと考えていることも予めお伝えいたします。

以上

<読者センターの口頭回答に対するFSINの意見>

11/26に読売新聞読者センターが口頭で行った回答は、「学術的な意見を書いているわけではなく、一般の原稿としてよくある書き方として、添加物のより入っていないものは健康志向であるということを書いたものである。入っていると悪いということでなく、食べても問題ないことを理解しているが、一般的通念として認められている範囲内で書いている。」との趣旨でした。

これに対して、FSINでは11/30に次のような意見をFAXで送信しました。なお、FAXとしたのは読売新聞読者センターの指定によります。

貴社ご回答へのFSINからの意見を次のようにお伝えします。

  • 一般的通念は必ずしも科学的に正しくなく、誤解のある場合もあります。そのような誤解が消費者に不利益に働く場合もあります。新聞には一般的通念を基準とするのではなく、科学的に正確な情報を記載するように要望いたします。
  • 今回の回答では、「添加物を減らすと健康志向」であるとの記述が一般的通念から認められるとのご趣旨でした。確かにそのように考える一般消費者は多いものと推察されます。しかし、実際には食品に含まれる食品添加物の量は微量であり、通常の食生活においてこれらが健康に悪影響を及ぼすリスクは極めて低いことが科学的に証明されています。従って、この記事は一般消費者の誤解を増幅する恐れのある、不適切な記述であると考えます。
  • 食品添加物のリスクは、厚生労働省や内閣府食品安全委員会等が科学的根拠に基づいて評価・管理していることは、10月8日付の質問状でお伝えしたとおりです。今回のご回答は、このような枠組みが国民の健康を守るのに役立っていないとの指摘を内包しています。今後、貴社がどのような食品安全政策を提言されるのか注目してまいります。

<重田編集委員からの文書>

2010年11月29日

食品安全情報ネットワーク(FSIN)御中

読売新聞東京本社

編集委員 重田 育哉

10月8日付けでいただきました「9月29日朝刊『コンビニ弁当チルドも登場』への公開質問状」について、回答いたします。

記事は、コンビニエンスストアで「健康志向の消費者に訴求したい弁当」として販売されるようになった「チルド弁当」の人気が高まっているという社会現象について報じたものであり、添加物の増減と人体への影響の科学的関係を論じたものではありません。

その他のご質問・ご意見に対しては、回答の必要はないと考えます。これをもって最終回答とさせていただきます。

以上

<FSINからの二通目の公開質問状>

2010年12月9日

読売新聞社 編集局長殿

食品安全情報ネットワーク(FSIN)

http://sites.google.com/site/fsinetwork/

9月29日朝刊「コンビニ弁当チルドも登場」への公開質問状に対する

貴社編集委員からの回答に対する質問状

食品安全情報ネットワーク(FSIN)は、貴紙9月29日朝刊に掲載された表記記事について、見出しおよびその内容に食品安全の科学から見て誤った内容があることを指摘し、別紙1のように貴社の見解をお尋ねしました。

これに対して、貴社の重田育哉編集委員から、別紙2のように、「記事は社会現象について論じたものであり、添加物の人体への影響を論じたものではないので、回答の必要はない」とのご連絡をいただきました。

貴社は「社会現象を論ずるという看板を掲げれば、科学的な誤りをあたかも科学的真実であるがごとく記述し、食品添加物に対する根拠がない不安をさらに広げることが許容される」とお考えなのか、そして「回答をしない」という態度が貴社の公式のご返事なのかお尋ねします。

なお、本質問状はFSINのホームページ等で公開いたします。また、貴社のご対応についても公開する予定であることも予めお伝えいたします。

以上