週刊新潮5月24日号他《食べてはいけない「国産食品」実名リスト》

201861

週刊新潮 編集長
宮本 太一 様

食品安全情報ネットワーク(FSIN
http://sites.google.com/site/fsinetwork/

週刊新潮524日号他《食べてはいけない「国産食品」実名リスト》
と題した記事についての意見書

  食品安全情報ネットワーク(FSIN)は、食品の安全に関する必要な情報を収集し、科学的な立場からこれを検証し、自らも科学的根拠がある情報発信をすべく日々活動している、学識経験者、消費者、食品事業者、メディア関係者等の有志による横断的なネットワーク組織です。

  貴誌「週刊新潮」(524日号他)に掲載されている《食べてはいけない「国産食品」実名リスト》と題した記事においては、食品添加物の安全性試験のうちネガティブな一部のみを取り上げ、結論としてヒトの健康には影響がないと評価されていることを伝えていない箇所が散見されます。

  食品添加物に限らずどのような物質でも、ヒトの健康への影響は「量」で決まります。食品添加物は、ヒトの健康に影響のない量で、食品において有用な効果を発揮するものだけが使用を許可されています。

ヒトへの健康影響評価に際しては、試験管内や実験動物でのデータが集められます。どのくらいの量を食べても大丈夫か確認するための試験ですから、大量に食べさせて有害影響を観察します。従いまして、有害影響が観察されたという試験結果があることは当然であり、添加物に限らず食品素材であっても試験すれば有害影響が出るものは多数あるはずです。

肝心なのは、ヒトで有害影響が出ない量において管理して使われているということです。貴誌においてはこの部分を十分に伝えず、有害影響が出たという試験結果を強調して、〈食べてはいけない「国産食品」実名リスト〉を掲載されています。

貴誌のような広く読まれている媒体においては、正確な情報提供をしていただくこと、適切な情報源を伝えていただくことが消費者にとっての利益となります。FSINでは正確な情報提供のできる専門家を紹介することができますので、今後の紙面づくりに協力させていただければと思います。

 以下、いくつか事例を挙げて意見をお伝えします。

 

【意見1】

 週刊新潮524日号の以下の部分では、食品安全委員会の添加物評価書から特定のネガティブな実験結果のみを引用し、結論としてヒトの健康には影響がないと評価されていることを伝えない紙面となっています。

 同号には〈いたずらに恐怖を煽る意図はいささかもない〉と記載されていますが、このような偏った情報提供をされた上に、<毒の相乗効果で発がん性の「ハム」「ウィンナー」〉といった見出しを付けられることは、読者の恐怖をいたずらに煽る行為に他ならず、適切な情報提供とは言えないものと考えます。 

実際、内閣府の「食品安全委員会」の添加物評価書には、こんな記述が。

〈ソルビン酸が広範に使用される一方、亜硝酸塩も食肉製品の発色剤として多用され、両者がしばしば共存するという事実と、両者の加熱試験反応によりDNA損傷物質が産生されることが報告されている〉

〈マウスへのソルビン酸単独(15 mg/kg体重/日)の30日間経口投与による染色体異常試験において、最終投与後24時間後に染色体異常は有意に増加しないが、亜硝酸ナトリウム単独(2 mg/kg体重/日)で有意に増加し、ソルビン酸と亜硝酸ナトリウム同時(7.5 + 1 mg/kg体重/日)ではさらに増加している〉

 まず前段の〈ソルビン酸が広範に使用される一方、~〉の部分については、食品安全委員会の添加物評価書[1]では同じ段落において、《しかしながら、この結果は特別なin vitro[2] における実験条件下で得られたもので、ソルビン酸と亜硝酸ナトリウムが食品中に共存した場合に実際に形成されることを意味するものではないとされている。(参照15)》との記載がされています。

 参照15の論文の特別な実験条件とは「亜硝酸ナトリウム溶液をソルビン酸懸濁液に室温で加え、90℃の湯煎で1時間加熱した。」というものであり、食品中や生体内では起こりえない条件下での試験結果です。

  後段の染色体異常試験の結果についても、食品安全委員会の添加物評価書には、《SCF[3]では、ソルビン酸またはソルビン酸カリウムと亜硝酸塩の共存下における遺伝毒性[4]物質の生成に関する試験結果の一部が相互矛盾のために信頼できず、また、通常条件下ではヒトの健康に対するハザードがないとしている。(参照53)》と記載されており、食品安全委員会としてもこれを妥当と判断されています。

  なお、食品安全委員会も、「食品健康影響評価書を引用した週刊誌記事について」と題して、食品健康影響評価書の特定箇所のみ抽出して判断するのは適切ではないことを指摘しています。[5]

  

【意見2】

 週刊新潮524日号の以下の部分では、食品添加物の過剰摂取によるリスクのみを繰り返し説明して、実際には過剰摂取に注意を要する状況ではないことを説明されていません。

 同号では<正確な情報を元に正しく怖れ>ることが必要と書かれていますが、このような記事内容は、読者が〈正確な情報を元に正しく怖れ〉ることを妨げるものと考えます。 

「リン酸塩には体内にあるミネラルと結合して排出されるものもあり、摂りすぎると重篤な健康被害を引き起こす可能性があります。」

(中略)

「結着剤として加工肉の多くに使われるリン酸塩は過剰に摂取すると成人病や腎臓疾患を引き起こすという研究結果が出ているので注意が必要です。」

 過剰量の摂取により健康被害を引き起こす可能性があるのは、どんなものでも同じです。ヒトにとって塩分は必要なものですが、過剰に摂取すると高血圧や胃がんなどを引き起こす可能性があることは広く知られているところです。

 重要なのは過剰に摂取される状況にあるかどうかです。食品添加物由来のリン摂取量については、マーケットバスケット方式での摂取量調査に基づいて、5060 mg//日とする推算が報告されています。[6]

 日本人の食事摂取基準(2015年版)[7]では、リンの摂取量及び耐容上限量[8]は次のように記載されており、一般的に摂りすぎて重篤な健康被害を引き起こすような状況ではないと考えられます。

 摂取量          944mg/日(H23年国民健康・栄養調査 中央値)

 摂取量          1,019±267 mg/日(高齢女性対象の陰膳法調査)

 耐容上限量    3,000 mg/

  

【意見3】

週刊新潮524日号には次のような記載があります。 

(前略)冠動脈疾患のリスクを高めることが分かっているトランス脂肪酸についても日本とアメリカで対応に「温度差」がある。

「植物油脂の多くでは、元々の液状の油脂を水素添加などの加工で硬化する処理が行われるのですが、その生成工程でトランス脂肪酸が副産物として出来ます」

と、安部氏は続ける。

「そのため、アメリカでは水素添加加工はすでに全面禁止されている。一方、日本にはそうした規制は何もない。」

 アメリカでは2018618日以降、部分水素添加油脂の使用が原則として禁止となります。但し、同日より前に製造された食品については202011日まで流通可とされています。一部の食品については2019618日まで部分水素添加油脂を使用して製造可能、かつ202111日まで流通可能とされています。[9] また、完全に水素添加された油脂[10]は対象外です。従いまして、〈水素添加加工はすでに全面禁止されている〉との記載は事実と異なります。

 アメリカでの措置は、部分水素添加油脂の製造工程において副生するトランス脂肪酸の摂取抑制を目的としています。なお、トランス脂肪酸は牛肉等の天然の食品中にも含まれているものですが、これらも禁止の対象外です。

 トランス脂肪酸の過剰摂取は冠動脈疾患を増加させる可能性が高いこと等から、WHOはトランス脂肪酸摂取を総エネルギー摂取量の1%未満とすることを目標にしています。

 トランス脂肪酸の平均摂取量はアメリカと日本とでは大きく異なり、アメリカでは2.2%、日本では0.3%とされています(いずれも総エネルギー摂取量比)。[11]  しかも日本国内で流通するマーガリンやショートニングなどに含まれるトランス脂肪酸は、製造方法の改善などで過去約10年間で10分の1前後に減少しています。[12]

 日本ではむしろ飽和脂肪酸の摂取量に注意が必要とされており、トランス脂肪酸低減により飽和脂肪酸含有量が増加する傾向にあることも考慮されて、部分水素添加油脂への規制は導入されていません。

 このような状況に触れることなく、アメリカでは禁止されているが日本では規制は何もないとだけ述べることは、日本の食の安全について過剰な不安を与えるものです。読者への適切な情報提供とは言えないものと考えます。

  

【意見4】

 週刊新潮524日号では、トランス脂肪酸との関連で植物油脂が取り上げられ、下記引用部分に至ります。 

植物油脂の含有率が高いチョコレートは食べたくない、という方には、商品の原材料表示をしっかり確認していただきたいが、
「現在、添加物を全く摂取せずに生きていくことは難しい。大事なのは、食品を買う際にしっかりと裏の原材料表示を見ることです」
と、安部氏は語る。

 植物油脂は食品素材であって添加物ではありません。それにも関わらず〈現在、添加物を全く摂取せずに生きていくことは難しい〉とのコメントにつなげられており、根拠なく添加物のリスクを過大に感じさせる内容となっています。 

本レターは、FSINのホームページ等において公開しますので予めご了承ください。また、メディア記事を読み解き、判断する上で有用な情報として広く共有を図りたく、貴社のご対応についても公開させていただきます。

以上

食品安全情報ネットワーク(FSIN)

代表              
 唐木 英明(東京大学名誉教授)
 小島 正美(毎日新聞編集委員)

連絡先             
 080-4864-6080(小島)
 FSINmail@gmail.com(事務局)

[1]  食品安全委員会 食品安全総合情報システム
http://www.fsc.go.jp/fsciis/evaluationDocument/show/kya20070320001

[2]  「試験管内で」の意。

[3]  欧州連合食品科学委員会

[4]  物質がDNAに変化を与える性質のこと。毒性が遺伝するという意味ではない。

[6]   「日本人の食事によるリン摂取量」石田淳子、加藤明彦、日本透析医会雑誌、Vol. 30, No. 3, pp 512-518 (2015)

[8]  健康障害をもたらすリスクがないとみなされる習慣的な摂取量の上限を与える量。

[9]  https://www.fda.gov/Food/NewsEvents/ConstituentUpdates/ucm608076.htm

[10]  完全に水素添加された油脂では、不飽和結合がないためトランス脂肪酸は含有されません。

[11]  食品に含まれるトランス脂肪酸の食品健康影響評価の状況について 平成27年6月19日更新
http://www.fsc.go.jp/osirase/trans_fat.html

[12]  報道関係者との意見交換会 資料2:脂質の摂取~トランス脂肪酸を理解するために~
http://www.fsc.go.jp/fsciis/meetingMaterial/show/kai20180524ik1

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