日刊ゲンダイへの訂正要望

「GM作物の毒性は2年間の実験で分かるのに行われない不可解」

2020年1月29日

日刊ゲンダイ

藤田学殿

食品安全情報ネットワーク(FSIN)

http://sites.google.com/site/fsinetwork/

GM作物の毒性は2年間の実験で分かるのに行われない不可解》

と題した記事についての訂正要望

食品安全情報ネットワーク(FSIN)は、食品の安全性に関する情報を収集し、科学的な立場から、これを検証し、自らも科学的根拠のある情報発信をすべく日々活動している、学識経験者、消費者、食品事業者、メディア関係者等の有志による横断的なボランティア・ネットワーク組織です。

【訂正要望の要旨】

日刊ゲンダイDIGITAL・2020年1月17日に公開された奥野修司氏の《GM作物の毒性は2年間の実験で分かるのに行われない不可解》と題した記事は、科学的観点から見てあまりにも誤りが多く、いくら言論の自由があるとはいえ、看過できない記述に満ちています。奥野氏の記事は読者を惑わすフェイクニュースに近い内容です。このままでは読者に誤った情報が伝えられたままです。改めて正確な情報を読者に届けることが言論機関としての使命・責任だと考えます。貴媒体において、ぜひ訂正を掲載していただきますようお願い申し上げます。


――訂正要望事項 その1――

【奥野氏の記事の誤りの部分】

「・・通常、食べ物の毒性はラットに食べさせて実験する。これは遺伝子組み換え食品でも同じだ。ただし毒性試験は90日間。これを人間に当てはめれば、通常はわずか10年にすぎない。・・・・2012年、フランス・カーン大学のセラリーニ教授だ。世界で初めて遺伝子組み換えトウモロコシの毒性を確かめる長期実験を行った。・・・これをラットに2年間食べさせた。・・・」

↓ ↓ ↓

■上記の下線部は明らかに誤りです。

セラリーニ教授が世界で初めて長期実験を行ったという記述は事実ではありません。

2012年以前にも、いくつもの長期実験が行われています。

【記事が誤りだとする根拠】

「世界で初めて」という記述が誤りだと考える4つの理由を以下にあげます。

2004年に公表された「農林水産技術会議事務局研究成果第422号集」によると、動物衛生研究所は遺伝子組み換えトウモロコシ(害虫抵抗性)を用い、5世代にわたる長期試験を2000年~2004年、マウス(1群45匹)を対象に行っています。遺伝子組み換えトウモロコシを食べた第3世代のマウスの生存日数は、雌で最長1111日(3年以上)、雄で最長1023日あり、組み換えではないえさを食べたマウスと差はなかったという結果が出ています。

(解説=すでに、この時点でセラリーニ氏の実験よりもはるかに長い多世代長期実験が行われていたことになります)

https://www.naro.affrc.go.jp/project/results/laboratory/niah/2004/niah04-24.html

2008年、イタリアの研究者たちが羊に対して、3年間、遺伝子組み換えトウモロコシを与えた長期実験の結果を公表しています。悪影響はありませんでした。

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1871141307002442?via%3Dihub

2010年、ドイツの研究者が25カ月間にわたり、遺伝子組み換えトウモロコシを乳牛に与える実験を公表しています。従来のトウモロコシと栄養学的な差はなく、乳牛の健康状態にも悪影響は認められませんでした。

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/j.1439-0396.2010.01003.x

こうした各種研究文献を総合的に解析した評価結果(システマティック・レビュー)が2012年に出ています。

シェルシー・スネル氏ら7人は「Food and Chemical Toxicology」(食品と化学的毒性学)において、それまでに世界各国で実施された12件の長期実験(90日~2年)と12件の2~5世代にわたる多世代投与実験を総合的に分析し、発がん性など毒性学的な悪影響はなかったと結論づけています。もちろん、こうした実験でマウスなどに与えられた飼料の中には遺伝子組み換えトウモロコシも含まれています。

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0278691511006399?via%3Dihub

【訂正の要望について】

■上記の一連の研究結果はインターネットで見つけることができます。奥野氏が少し労を惜しまずに調べれば、セラリーニ氏以前にも数多くの長期実験があった事実を入手できたはずです。そうした労力を欠いた奥野氏の記事はあまりにも、杜撰であり、読者を大きくミスリードする内容です。

参考までに、遺伝子組み換えトウモロコシではありませんが、東京都でも2008年に「食品衛生学雑誌」(49巻第4号)に、遺伝子組み換え大豆を104週間(2年間)にわたり、ラットに与えた長期実験の結果を公表しています。

これらの理由から、以下のような訂正内容を奥野氏の次回の記事に記していただくようお願いいたします。

《求める訂正》=「2012年、フランス・カーン大学のセラリーニ教授が、世界で初めて遺伝子組み換えトウモロコシの毒性を確かめる長期実験を行ったという記述は誤りでした。それ以前にも長期実験はありました」

――訂正要望事項 その2――

【奥野氏の記事の誤りの部分】

「論文を批判する前になぜ追試験をしなかったのか。誰もが疑問に思うはずだが、誰も追試験をしなかった。お金がかかるから。人間の安全よりもコストなのだ」

↓ ↓ ↓

■下線部は明らかに誤りです。セラリーニ氏の実験が正しかったかどうかを検証するプロジェクトが欧州連合(EU)自身の手で行われ、すでにその結果が公表されています。

「誰も追試験をしなかった」という記述は誤りです。


【記事が誤りだとする根拠】

すでに説明しましたように、2012年以前にも長期の実験が行われており、セラリーニ氏の実験を批判する根拠は十分にありました。セラリーニ氏の実験がいかに不備で、杜撰なものだったかは、その後の先進国のリスク評価機関の見解を見れば明らかです。

さらに、セラリーニ氏は自らの実験を公表する際、「他の専門家には取材しない」という機密保持契約に署名したお気に入りの記者だけに論文を見せるという、およそ学者としてあるまじき行為をとり、批判されています。

その上、最も重要なことは、セラリーニ氏の実験を検証するための追試プロジェクト「G-TwYST」(GM Plant-Two Year Safety Testingの略)があり、その結果が2019年2月に公表されているという事実です。https://www.g-twyst.eu/

このプロジェクトは、EU(欧州連合)の政策執行機関である欧州委員会(EC)が資金を投じ、ドイツやオランダなどの大学の研究者らが協力して実施した非常に客観的な試験です。実験は2014年4月から2018年4月まで、欧州食品安全機関(EFSA)などの厳しい実験指針にのっとって行われました。セラリーニ氏の実験は1群あたりわずか10匹のラットでしたが、このプロジェクトでは1群あたり50匹を使い、セラリーニ氏と同様に2年間飼育するという長期実験でした。

この誰も文句のつけようのない精密な実験で発がん性は完全に否定されました

【訂正の要望について】

上記で説明したような最新の実験結果を、事実を深く追及するはずのノンフィクション作家である奥野氏が知らないはずはないと考えます。なぜ、こういう最新の実験結果が公表されているにもかかわらず、その事実を記事に反映させなかったのでしょうか。

さらに、なぜ、科学界では否定されたセラリーニ氏の実験を、さもいまなお根拠があるかのように記事で紹介するのでしょうか。こうした科学的事実を軽視した記述は、読者に正確な情報を届ける責任のある科学ジャーナリズムの精神を踏みにじるものではないでしょうか。

これらの理由から、以下のような訂正内容を奥野氏の次回の記事に掲載していただくようお願いいたします。

《求める訂正》=「『誰も追試験をしなかった』は誤りであり、削除します。2019年2月、セラリーニ氏の実験を再現して検証する欧州委員会主導の長期実験プロジェクトの結果が公表され、発がん性は否定されました」

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以上の2点につきまして、貴デジタル面の奥野氏の今後の記事の中で訂正記事を出していただけますようお願い申し上げます。もし面談が必要であれば、いつでも面談に応じます。奥野氏の再反論をうかがいながら議論することもやぶさかではありません。

誤りは素直に認め、的確な情報を読者に伝えることが報道機関の使命だと認識しております。私たちの指摘に真摯に対応していただけることを願っています。