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《平気で「スーパーの弁当」買う人が見過ごす事実 アスパルテームは幅広い食材に使われている》
日付 2023年7月21日付
媒体 東洋経済ONLINE
著者 渡辺雄二氏
見出し平気で「スーパーの弁当」買う人が見過ごす事実 アスパルテームは幅広い食材に使われている
総合評価
記事には誤った情報を根拠としている箇所があり、誤った結論を導いている。読者に誤解を与える記事である。
対象言説1
アメリカでアスパルテームの使用が認可されたのは、日本より少し早い1981年のことです。しかし、摂取した人たちから、頭痛やめまい、不眠、視力・味覚障害などに陥ったという苦情が相次いだと言われています。アスパルテームは体内でメチルアルコールを分離することがわかっています。
メチルアルコールは劇物で、誤って飲むと失明するおそれがあり、摂取量が多いと死亡することもあります。おそらく体内で分離されたメチルアルコールが、さまざまな症状を引き起こしたと考えられます。
さらにアスパルテームは、がんとの関係が取りざたされています。TBSテレビが1997年3月に放送したアメリカのCBSレポート『How sweet is it ?』の中で、がん予防研究センターのデボラ・ディビス博士は、「環境と脳腫瘍の関係を調べると、アスパルテームは脳腫瘍を引き起こす要因の可能性がある」と指摘し、またワシントン大学医学部のジョー・オルニー博士は、「20年以上前のアスパルテームの動物実験で認められたものと同じタイプの脳腫瘍が、アメリカ人に劇的に増えている」と警告しました。
また2005年にイタリアで行われた動物実験では、アスパルテームによって白血病やリンパ腫の発生が認められました。この実験は、同国のセレーサ・マルトーニがん研究所のMorando Soffritti博士らが行ったもので、8歳齢のオスとメスのラットに、異なる濃度(0~10%の7段階)のアスパルテームを死亡するまで与え続けて、観察したというものです。
その結果、メスの多くに白血病またはリンパ腫の発症が見られ、濃度が高いほど発症率も高かったのです。また、人間が食品から摂取している量に近い濃度でも異常が観察されました。
この実験結果や前の脳腫瘍との関係は、アスパルテームが、発がん性があることを示唆しているものであり、おそらくIARCの研究者たちは、これらのデータやその他のデータを検討して、今回の結論に至ったと考えられます。
対象言説1
評価項目①「科学的根拠が適切か」
問題あり(誤った情報が根拠とされている)
メチルアルコールはヒトの体内でも生成しており、アスパルテームに由来するメチルアルコールはその量に比べても少ない。従って、アスパルテーム由来のメチルアルコールが有害な影響を与えるとは考えられない。
アスパルテームの安全性に関する様々な問題提起はこれまで繰り返し検討されてきた(FDAのサイト参照:https://www.fda.gov/food/food-additives-petitions/timeline-selected-fda-activities-and-significant-events-addressing-aspartame)。既に否定されている古い主張を、否定されているという事実を提示しないで繰り返すのは誤情報の流布である。
対象言説1
評価項目②「事実関係に誤りがないか」
問題あり(事実関係に誤りがある)
「おそらくIARCの研究者たちは、これらのデータやその他のデータを検討して、今回の結論に至ったと考えられます」と記載されているが、IARCは2016年と2022年の二つの疫学論文を根拠に2Bとしたと明言しておりこれらの実験ではない 。
筆者は憶測で記事を書いており、IARCの報告を理解していないと思われる。
対象言説1
評価項目③「見出しは適切か」
問題あり(小さなリスクを過大に見せている)
対象言説部分の見出しは《体内でメチルアルコールを分離する》とされている。それ自体は事実だが、前述のようにアスパルテームから分離されるメチルアルコールは、ヒトの体内で生成されるメチルアルコールに比べて少ない量であり、アスパルテームについて論ずるにあたり重要な部分とは言えない。
十分な説明なく《体内でメチルアルコールを分離する》と書いてあれば、読者不安に感じる。実際には小さなリスクを、過大に見せる行為と判断される。
対象言説2
発がんは、細胞中の遺伝子の変異によって起こります。現在は、各種の遺伝子の変異が何段階にもわたって起こり、その結果、がん細胞が発生するという考え方、すなわち「多段階発がん」が有力視されています。
この変異は、遺伝子に作用する物質が1分子でも起こり得るのです。ですから、発がん性物質がごくごく微量であっても遺伝子の変異は起こるのであって、その観点からすると、「これ以下なら安全」という量はないということです。
したがって、アスパルテームに発がん性があるということであれば、「しきい値」は存在しないということになります。ですから、微量であっても摂取し続ければ、遺伝子を変異させて、細胞をがん化させる危険性があることになるのです。
対象言説2
評価項目①「科学的根拠が適切か」
問題あり(科学的根拠から導かれる結論が誤っている)
「アスパルテームに発がん性があるということであれば」との前提に立って、「微量であっても摂取し続ければ、遺伝子を変異させて、細胞をがん化させる危険性があることになる」と結論付けている。しかしながら、この結論はIARC及びJECFAのどちらの発表も無視したものである。
IARCはアスパルテームをグループ2Bに分類した。これは発がん性の根拠の強さに応じた4分類のうち下から2番目のものであり、発がん性についての根拠が弱いことを示している。具体的な根拠については食品安全委員会がQ&Aを公開しており、試験方法に疑義があるなど限定的な根拠しかない中で2Bに分類されたことが分かる。しかしながら、対象言説においては発がん性があるという前提に立って危険と結論付けており、IARCによる分類を適切に理解できていない。
https://www.fsc.go.jp/foodsafetyinfo_map/aspartame.html#a1-4JECFAは許容一日摂取量(ADI)を変更する理由はないと評価した。つまり、遺伝子を変異させてがんを引き起こす物質ではないと評価しているのであり、対象言説においてはこのことを無視している。
https://www.fsc.go.jp/foodsafetyinfo_map/aspartame.html#a2-1
対象言説2
評価項目②「事実関係に誤りがないか」
問題あり(不正確な表現がある)
「発がん性があるということであれば、『しきい値』は存在しない」との記述は、アスパルテームに関しては事実ではありません。
発がん物質には、遺伝子を傷つけることでがんを発生させる遺伝毒性発がん物質と、遺伝子を傷つけない非遺伝毒性発がん物質があります。そのような作用の違いから、前者は、これ以下なら影響がない『しきい値』が設定できませんが、後者であれば『しきい値』が設定できます。
IARCはアスパルテームを非遺伝毒性発がん物質「かもしれない」と判定しました。非遺伝毒性発がん物質であれば、『しきい値』すなわち無毒性量を設定でき、それをもとに1日許容摂取量(ADI)を決めることができます。
対象言説2
評価項目③「見出しは適切か」
問題あり(本文の内容と合っていない)
対象言説部分の見出しは《アスパルテームに「しきい値」は必要か》とされている。「しきい値」は科学的評価から導かれるものであり、必要かどうかを論じる意味が分からない。本文の内容も「しきい値」が必要かどうかを論じているものではない。よって不適切と判断する。
なお、対象言説の掲載されている記事全体のタイトルは《平気で「スーパーの弁当」買う人が見過ごす事実 アスパルテームは幅広い食材に使われている》である。スーパーの弁当については対象言説以外の部分で触れられており、その適否についてここでは評価外とする。
参考資料
「Timeline of Selected FDA Activities and Significant Events Addressing Aspartame」 U.S. Food & DRUG ADMINISTRATION
https://www.fda.gov/food/food-additives-petitions/timeline-selected-fda-activities-and-significant-events-addressing-aspartame
「アスパルテームに関するQ&A」 内閣府食品安全委員会https://www.fsc.go.jp/foodsafetyinfo_map/aspartame.html
公開日:2023年8月9日
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