毎日新聞への要望書

「風知草 豆腐から見たTPP」

2011年11月21日付の毎日新聞「風知草 豆腐から見たTPP」という記事に関し、同年11月29日付でFSINから要望書を提出しました。

2012年1月26日消印にて毎日新聞東京本社政治部 山田孝男様よりご回答をいただきました。FSINでは、このご回答についての見解を取りまとめ、同年2月28日付で再度要望書を提出しました。

<FSINからの要望書>

2011年11月29日

毎日新聞 編集局長殿

食品安全情報ネットワーク(FSIN)

http://sites.google.com/site/fsinetwork/

「風知草」での遺伝子組み換え作物に関する記事についての要望書


はじめてご連絡を差し上げます。

食品安全情報ネットワーク(FSIN)は、食品の安全に関する必要な情報を収集し、科学的な立場からこれを検証し、自らも科学的根拠がある情報発信をすべく日々活動している、学識経験者、消費者、食品事業者、メディア関係者等の有志による横断的なネットワーク組織です。

貴紙11月21日朝刊2面、「風知草」において「豆腐から見たTPP」というタイトルにて書かれた山田孝男氏の記事中で、遺伝子組み換え作物に関する記述がありますが、その内容に誤りがありますので、以下に記載いたします。

2段目、16行目に「自然界に存在しない、人為的に作り出されたたんぱく質だから、人体に入ればアレルギー反応を起こす恐れがある」とありますが、現在商品化されている除草剤耐性や害虫抵抗性の遺伝子組み換え作物のたんぱく質は、微生物由来の遺伝子から作られるたんぱく質で、自然界に存在しています。また遺伝子組み換え作物は商品化するにあたり、国により義務付けられている安全性評価基準に基づき、組み込む遺伝子のアレルギー誘発性がないことが科学的に確認されています。また、アレルギーの誘発性と自然界に存在するか否かは無関係であり、通常アレルギーの原因物質として知られているものの多くは「自然界に存在するたんぱく質」です。

2段目19行目から、「実際、80年代に日本の化学メーカーが開発した遺伝子組み換え健康食品で公害が発生、米国で死者が出た」とあります。これは米国で睡眠補助剤として使用されたL-トリプトファンを主成分とする健康食品の事件を指していると考えられますが、この事例はL-トリプトファン含有食品の製造工程で生成された不純物が健康被害の一因であったと言われており、厚生省(現・厚生労働省)の「必須アミノ酸等製品による健康被害に関する研究班」において、これらの不純物が組換えDNA技術と直接関連性があるとは言えないとされました。

遺伝子組み換え作物は国際的な安全性評価基準に基づき、各国の法律において科学的な安全性審査を経て、認可されたものだけが商品化されています。日本はトウモロコシや大豆などの穀物の多くを米国をはじめとする国からの輸入に依存しており、年間1,600~1,700万トンの遺伝子組み換え作物が輸入され、食品原料や飼料として消費されていると推定されています。3段目5行目に、「急性症状が表れないからといって、食べ続けて大丈夫か」という記述もありますが、1996年に輸入が認可されてからこれまで、一度も健康被害などは報告されておりません。なお、日本の遺伝子組み換え食品表示制度は、安全性が確認された遺伝子組み換え食品について、食品の内容を消費者に明らかにし、消費者の選択に資する観点から導入されたもので、表示が安全性を保障するものではありません。

こうした事実を伝えず、遺伝子組み換え作物が危険であるかのような誤った情報を読者に与えることは、日本を代表する全国紙である毎日新聞に対する読者の信頼を裏切るものと考えます。「風知草」において上記の点について訂正していただく、あるいは正しい情報を提供していただく、いずれかの対応をお願いいたします。ご回答よろしくお願いいたします。

なお、本質問状はFSINのホームページ等で公開いたします。また、貴紙のご対応についても公開したいと考えていることも予めお伝えいたします。

以上

<山田孝男氏からの回答>

食品安全情報ネットワーク御中

冠省 2011年11月21日付毎日新聞朝刊掲載の拙稿に対する貴重な御指摘、御意見をありがとうございました。以下、御要望書の論点に沿って私見を申し述べさせていただきます。

① 「自然界に存在しない……アレルギー反応を引き起こす恐れがある」という記述に対する御批判は拝承しました。

② 御指摘の通り、昭和電工トリプトファン事件を念頭においています。安田節子さんの著作を参考にしましたが、私自身は1次資料で確認していなかったため、具体的な記述は避けました。あらためて事件に関する専門家2氏(内山充・元国立衛生試験所長、戸田清・長崎大教授)の論文に目を通しましたが、L-トリプトファン含有食品で死者が出、昭和電工が賠償に応じたことは事実であり、L-トリプトファンが原因か、他の不純物が原因かは分からないということであると考えます。

③ 「1995年に輸入が許可されて以来、1度も健康被害の報告はない」というお申し越しですが、放射線被曝の問題に似て、将来にわたって安全であることの証明にはならないと考えます。「食べ続けて大丈夫か」と書いたから読者の信頼を裏切ることになるとは思いません。

毎日新聞東京本社政治部

山田 孝男

<FSINからの要望書2>

2012年2月28日

毎日新聞 編集局長殿

毎日新聞 政治部 山田 孝男殿

食品安全情報ネットワーク(FSIN)

http://sites.google.com/site/fsinetwork/

「風知草」での遺伝子組み換え作物に関する記事についてのご回答について


食品安全情報ネットワーク(FSIN)は、貴紙11月21日朝刊2面に掲載された「風知草 豆腐から見たTPP」という記事において、内容に誤りがあることを指摘し、別紙1のように、訂正あるいは正しい情報の提供をお願いいたしました。

これに対して、執筆者である山田孝男様ご本人から、別紙2のようにご回答いただきました。ご回答ありがとうございます。これについて再度以下の点を述べさせていただきます。

①について

アレルギー誘発性について、「現在商品化されている除草剤耐性、害虫抵抗性の遺伝子組み換え作物の発現する導入遺伝子のタンパク質は微生物由来で自然界に存在すること」、「遺伝子組み換え作物は商品化前にアレルギー誘発性がないことが確認されていること」、「タンパク質のアレルギー誘発性と自然界に存在する、しないは関係がないこと」の3点の指摘について、ご了承いただけたものと理解いたしました。

「遺伝子組み換え作物の何が危険か。自然界に存在しない、人為的に作り出されたたんぱく質だから、人体に入ればアレルギー反応を起こす恐れがある」の箇所は誤りです。上記を踏まえ訂正をお願いします。

②について

昭和電工トリプトファン事件について、FSINは、その死亡の原因が、遺伝子組み換え技術を使用したことに由来するものではないということを指摘しております。「L-トリプトファン含有食品で死者が出、昭和電工が賠償に応じたことは事実であり、L-トリプトファンが原因か、他の不純物が原因かは分からない」とご説明いただきましたが、FSINが問題にしているのは、L-トリプトファンという成分が原因か不純物が原因かということではありません。山田様の記事は、遺伝子組み換え技術によって死者が出たと明らかに読者に誤解を与えており、それを問題視しております。正しい情報の提供をお願いいたします。

③について

遺伝子組み換え作物は、科学的な安全性審査を経て認可されたものだけが商品化されています。安全性審査では、組み換えDNA由来のタンパク質が消化器官中で速やかに消化・分解され、長期蓄積による慢性毒性の懸念がないこと、急性毒性や食物アレルギーの原因とならないことが科学的に確認されています。

今は健康被害がないとしても、「放射線被ばくの問題に似て、将来にわたって安全であることの証明にはならないと考えます」とご説明いただきましたが、放射線はある線量以上を一度に被ばくすると人体に危害(ハザード)を与えることが科学的に立証されています。したがって、将来のリスクについて放射線と同列に扱うのは妥当ではないと考えます。

なお、「食べ続けて大丈夫か、と書いたから読者の信頼を裏切ることになるとは思いません」とのことですが、「大丈夫か」と問うことではなく、事実ではない報道をすることについて、読者の信頼を裏切ると指摘させていただきました。

以上を踏まえ、先の質問状でお願いしましたように、訂正、あるいは正しい情報を提供していただくよう改めてお願いいたします。

以上