現在私がしようとしているのは,工業分野で広く利用されている噴流(JET)の混合・拡散・騒音を制御する手法の研究です.まず,噴流の制御にはどういう種類があるのか,眺めてみましょう.
噴流の制御には大きく分けて2つの種類があります.アクティブ制御(能動制御)とパッシブ制御です.
パッシブ制御というのは,制御しようとする対象(ここでは噴流)にエネルギーを注入せずに制御をしようという方法です.具体的には,
非円形ノズルを使用する
ノズルの内壁に突起を設ける(乱流促進体)
噴流の流下方向に物体(円柱や金網)を置く
流体中に界面活性剤を添加する(機能性流体)
など挙げられます.このパッシブ制御は,"噴流中の渦構造を変化させる"ことに大きな特徴があります.普通の円形噴流では,ノズル付近で渦輪と呼ばれるドーナッツ型の渦が形成されます.それが下流に行くに従い,変形していきます.この渦構造が噴流の挙動を決定する大きな要因となっています.
非円形噴流では,ノズルの形状が円形ではありませんから,渦輪がひしゃげた形で形成されます.当然のことながら,下流に行くに従い,円形噴流の渦輪とは異なった変形過程を示します.この円形噴流とは異なった変形過程を利用したものが,パッシブ制御(特に"非円形ノズルの使用")です.
上に書いてきたのは,自由噴流・衝突噴流の区別がありませんが,特に衝突噴流に限っていえば下の2つの研究が有名です.
衝突壁面から少し離れた所に多孔板を置く
-M.M.Ali Khan・笠木・平田,第17回伝熱シンポジウム(1980),pp37-39,40-42, M.M.Ali Khan・笠木・平田,第18回伝熱シンポジウム(1981),pp199-201,208-210
流れ場に円柱列を挿入する
-片岡・浜野・南浦・指江・李,第26回伝熱シンポジウム(1989),pp662-664
一見するとそれほど熱伝達が促進できるようには思えませんが,かなりの効果があります.Khanらの多孔板を置くのは,衝突壁面近くで乱れを誘起することで熱伝達率upを図っています.片岡らのは円柱列を挿入することで,円柱間を通過する流体が縮流されて速度が増し,その結果熱伝達がupします.
このようにパッシブ制御に関しては様々な研究が行われています.が,パッシブ制御にも限界があります.パッシブ制御は流れ場に対して何か操作を加えて(ノズルの形状を変えたり,突起を設けたり)も,一度操作をしてしまうとその後はそのままにするしかありません.つまり,不可変なわけです.
それに比べてアクティブ制御は,非常にcontrolable(容易にコントロールすることが出来る)です.アクティブ制御の代表的な例としては,
音波で噴流を励起する
ノズル出口付近に突起を設けて,それを振動させる
などがあります.特に音波励起して噴流制御を試みた研究例は非常に多く,僕の尊敬するF.Hussain先生も数多くに論文を書かれています.音波励起や振動させるということは,そこでエネルギーを注入しているわけです.エネルギーを注入することで,流体の運動(特に渦構造の変形)に変化を与えて制御しよう,これがアクティブ制御の特徴です.
現在,私が研究しているのはアクティブ制御の範疇であり,音波励起を利用しています.下の図のように,波形発生装置(function synthesizer)で正弦波を発生させて,それをアンプで増幅しスピーカーにつなぎます.スピーカーの膜面振動を,注射筒・チューブを介して,ノズル付近に設けたスリットから噴流に伝えます.
図.本研究の噴流励起システムの概略
アクティブ制御の利点は,何といっても上で述べたようにcontrolableであることです.例えば,噴流のある地点の速度情報を読み込んで,そこから励起信号の周波数を変化させたい,といったフィードバック制御もアクティブ制御ならではのものです.
私の研究でも,最終的には衝突壁面上の熱伝達分布を読み込んで,それを基に励起信号の周波数を変化させたいと考えています.