Keywords:Impinging Jet Heat Transfer, Heat Transfer Control, Passive Control, Non-circular Jet, Tab, Swirl Flow, Surface Modification, Insertion of Obstacles (Cylinder or Perforated Plate)
Abstract
目次
1.緒言
2.衝突噴流の受動制御の概略
2.1 パッシブ制御の概略
2.2 非円形ノズルによる熱伝達制御
2.3 タブの設置による熱伝達制御
2.4 流動場への物体挿入による熱伝達制御
2.5 ノズルの傾きによる熱伝達制御
2.6 衝突壁面の形状変化による熱伝達制御
2.7 旋回の効果による熱伝達制御
参考文献
2.1 パッシブ制御の概略
衝突噴流が幅広い分野で用いられてきた理由としては動力源の容量が比較的小さくて済む上,流量制御(レイノルズ数の制御)による熱・物質伝達率の微調整が容易であること,またノズルと伝熱面の距離(衝突距離)の調整により熱伝達率分布形状の操作が可能であるなどが挙げられる[1] .レイノルズ数や衝突距離の操作による制御も広義の衝突噴流熱伝達のパッシブ制御と言えるが,ここでは積極的な意味でパッシブ制御を定義する.つまり噴流中の流動構造変化をパッシブな方法で達成し,その結果熱伝達制御を目指している手法を本レビューでは”パッシブ制御”と定義する.
衝突噴流熱伝達の研究には,主に円形ノズル(軸対称ノズル)または二次元ノズル(平面ノズル)を用いられてきた.そしてこの2 つのノズル形状による衝突噴流の熱伝達機構の解明,よどみ点における高い熱・物質伝達率を生み出す機構の解明に主眼が置かれてきた.近年の画像処理による計測技術の発達などによりかなりメカニズムの解明が進んでいると言える[2] .
これらの知見をもとに円形,または二次元ノズルではなく非円形(長方形・矩形・三角形・十字形等)ノズルを用いた衝突噴流などの研究が盛んになってきている.以下に著者の所有している論文を6 項目に分類して各々のパッシブ制御手法について概観していく.
2.2 非円形ノズルによる熱伝達制御
噴流ではノズル出口直後に速度が一様なポテンシャルコアと周囲流体との間にせん断層が形成される.このせん断層の上安定性(K-H 上安定)により二次元噴流では棒状の渦が,円形噴流ではリング状の渦輪が周期的に発生する.非円形ノズルを用いる熱伝達制御では, 非円形ノズルを用いることでこの周期的に発生する渦構造が変化することを利用する.
発生する渦構造変化の結果,流動場全体の流動特性が変化し衝突壁面上での熱伝達率分布形状の操作を行う.非円形ノズルの研究はどちらかというと混合促進を目指した噴流パッシブ制御で盛んであった.Hussain らのグループにより楕円噴流に関する一連の研究[a]-[c] ,豊田らによる様々なノズル(三角形・正方形・長方形)から生成される渦構造の研究などがあり[d]-[g] ,これまでの非円形ノズルか ら噴出する噴流についてはGutmark &Grinstein [h] がレビューとしてまとめている.
2.3 タブの設置による熱伝達制御
ノズル内壁にタブを設置する制御方法は超音速ジェ ットの騒音低減に効果があることで知られている.そ れを衝突噴流熱伝達の制御に適用したのは今のところ 檜和田ら[8] のみである.
2.4 流動場への物体挿入による熱伝達制御
流動場へ挿入する物体は大きく分けると2 種類ある.1 つは円柱,もう1 つは多孔板(perforated plate)である.
円柱を流動場へ挿入する研究は片岡らや羽田らによって研究が行われてきた.羽田らは流動場へ円柱を1 本挿入した場合について研究を行っているが,片岡らは円柱を多数配置し,パッシングとブロッキングと呼ばれる配置方法で熱伝達制御を試みている.一方多孔板の挿入に関しては笠木らのグループ,栗間らによって研究されている.
2.5 ノズルの傾きによる熱伝達制御
一般的にノズルは垂直に衝突壁面に衝突するような配置が成される.しかし,電子機器等のコンパクト化に伴いより狭い空間での機器の設計をする上でノズルと衝突壁面が垂直に配置できるとは限らない.そこでノズルを衝突壁面と一定角度傾かせた傾斜衝突噴流が古くから研究されている.
上記のような理由もあるが,ノズルを傾斜させることで衝突壁面上で噴流が分岐した後の熱伝達特性をより柔軟に操作できることや,ガ スタービン静翼の内壁冷却に利用されている衝突噴流に見られるように,インサートからの噴流が上流部での噴流の合流によって発生するクロスフローと干渉しながらタービン内壁に斜めに衝突する場合の熱流動場の解明がまだ進んでいない等も理由として考えられる.
2.6 衝突壁面の形状変化による熱伝達制御
チャネル内にタブなどの突起物を設置して乱れを促進する伝熱(乱流)促進体や,境界層のパッシブ制御に用いられるLEBU(Large Eddy Break-Up)板,リブレットなどは広く知られている.これは壁面上に生成される渦構造変化を利用して流動構造,熱伝達特性の制御を目指したものである.
衝突噴流においても衝突壁面上に組織的な渦構造が存在することが知られている.二次元衝突噴流では壁面流れ方向に平行な軸を有する渦対構造,円形衝突噴流では縦渦構造が存在することがそれぞれ知られている.衝突壁面形状を変化させることで,これらの壁面近傍に発生する渦構造の生成・配置を変化することが予想できる.しかしこの衝突壁面形状の変化による熱伝達制御を試みた例は数少なく,Priedeman et al. [24] やAli Khan ら[25] の研究があるのみである.
2.7 旋回の効果による熱伝達制御
旋回流を利用することでノズル近傍でより希釈し,より混合する出来ることから,主に燃焼の分野で火炎の安定やバーナ,CVD(Chemical Vapor Deposition)による薄膜形成等に用いられてきた.噴流に旋回成分が加わると噴流の拡散が促進されるので,噴流の減衰が早くなることが知られている.このような特徴を有する旋回流を利用して平坦な熱伝達率分布形状を目指した研究等が行われている.
※文章中の[]の数字は参考文献番号を指す.なお参考文献については,以下を参照.
参考文献
[1]相原利雄, 伝熱制御の現状と将来(3), 機械の研究, 43-8 (1991), 869.
[2]片岡邦夫, 衝突噴流を利用した伝熱制御, 日本機械学 会誌, 93-864 (1990), 910.
■非円形ノズル
[3]親川兼勇・他5 吊, 十字形噴流の衝突熱伝達, 機論B, 63-607 (1997), 979.
[4]Oyakawa, K. et al., Impingement Heat Transfer by Jet Issuing from a Cross-Shaped Nozzle, Heat Transfer ? Japanese Research, 27-3 (1998), 192.
[5]Garimella, S.V.&Nenaydykh, B., Influence of Nozzle Geometry on Heat Transfer in Submerged and Confined Liquid Jet Impimgement, HTD-Vol.319/EEP-Vol.15, Cooling and Thermal Design of Electronic Systems ASME1995, 49.
[6]Colucci, D.W.&Viskanta, R., Effect of Nozzle Geometry on Local Convective Heat Transfer to a Confined Impinging Air Jet, Exp. Thermal & Fluid Sci., 13 (1996), 71.
[7]Nuntadusit, C. et al., Flow and Heat Transfer Characteristics of Some Impinging Jets, 9 th Int. Sympo. Flow Visualization (2000), 165-1.
[a]Hussain, F.&Husain, H.S., Elliptic Jets. Part 1. General Characteristics of Unexcited and Excited Jets, J. Fluid Mech., 208 (1989), 257.
[b]Husain, H.S.& Hussain, F., Elliptic Jets. Part 2. Dynamics of Coherent Structure Paring, J. Fluid Mech., 233 (1991), 439.
[c]Husain, H.S.& Hussain, F., Elliptic Jets. Part 3. Dynamics of Preferred Mode Coherent Structure, J. Fluid Mech., 248 (1993), 315.
[d]豊田国昭・Hussain, F., 非円形噴流中の渦構造に関す る研究, 機論B, 55-514 (1989), 1542.
[e]米坂・豊田・白浜, 楕円噴流に関する実験的研究, 日本 機械学会第71 期通常総会講演会講演論文集(Ⅲ) (1994), 310.
[f]豊田・白浜・小谷, 渦構造の操作による非円形噴流の 制御に関する研究, 機論B, 58-545 (1992), 7.
[g]豊田, 噴流の渦構造とその制御, 日本機械学会1999 年度年次大会講演論文集(Ⅳ) (1999), 63.
[h]Gutmark, E.J.&Grinstein, F.F., Flow Control with Noncircular Jets, Ann. Rev. Fluid Mech., 31 (1999), 239.
[i]Mi, J. et al., Centerline mixing characteristics of jets from nine differently shaped nozzles, Exp. Fluids, 28 (2000), 93.
■タブの設置
[8]檜和田宗彦・他3 吊, 円形衝突噴流熱伝達に及ぼすタ ブの影響, 第34 回日本伝熱シンポジウム講演論文集 (1997), 63.
■流動場への物体の挿入
[9]片岡邦夫, 衝突噴流伝熱の促進と制御, 熱流体フォー ラムシリーズ1 「熱流体とエネルギー」, 日刊工業新聞社, 1996.
[10]片岡邦夫, 衝突噴流の流動-伝熱特性, 日本機械学会 講習会教材
[No.98-11] (1998), 13.
[11]Kataoka, K., Impingement Heat Transfer Augmentation Due to Large Scale Eddies, Proc. 9 th Int. Heat Trasfer Conf., Vol.1 (1990), 255.
[12]Kataoka, K. et al., Control of Jet Impingement Heat Transfer by a Wake Flow Behind an Array of Circular Cylinders, J. Chem. Engng. Japan., 25-1 (1992), 39.
[13]片岡・他4 吊, 大きなスケールの乱れ渦衝突による 伝熱制御, 第25 回日本伝熱シンポジウム講演論文集 (1988), 31.
[14]Ali Khan, M.M.他2 吊, 衝突噴流熱伝達の増進技術 に関する研究(第2 報), 第17 回日本伝熱シンポジウ ム講演論文集 (1980), 37.
[15]Ali Khan, M.M.他2 吊, 衝突噴流熱伝達の増進技術 に関する研究(第3 報), 第17 回日本伝熱シンポジウ ム講演論文集 (1980), 40.
[16]羽田・他4 吊, 二次元衝突噴流中に設置した弾性支 持円柱が及ぼす流れ場および熱伝達への影響, 機論 B, 66-644 (2000), 1176.
[17]羽田・他4 吊, 平板への二次元衝突噴流熱伝達に関 する研究(小円柱挿入の影響), 第33 回日本伝熱シン ポジウム講演論文集 (1996), 617.
[18]Haneda, Y. et al., Flow Field and Heat Transfer of a Two-Dimensional Impinging Jet Distributed by an Elastically Suspended Circular Cylinder, Heat Transfer ? Asian Research, 30-4 (2001), 313.
[19]Haneda, Y. et al., Enhancement of impinging jet heat transfer by making use of mechano-fluid interactive flow oscillation, Int. J. Heat Fluid Flow, 19 (1998), 115.
[20]栗間・他2 吊, 衝突壁上流に多孔板を設置した軸対 称衝突噴流の伝熱促進(第1 報, 多孔板の孔径および 孔ピッチの効果), 機論B, 54-503 (1987), 1736.
■ノズルの傾き
[21]Goldstein, R.J.&Franchett, M.E., Heat Transfer From a Flat Surface to an Oblique Impinging Jet, Trans. ASME J. Heat Transfer, 110 (1988), 84.
[22]Beitelman, A.H. et al., The effect of inclination on the heat transfer between a flat surface and an impinging two-dimensional air jet, Int. J. Heat Fluid Flow, 21 (2000), 156.
[23]中部・他5 吊, 斜め衝突噴流により誘起される縦渦 を伴うダクト内流れの伝熱特性(第1 報,感温液晶 を利用した壁面熱伝達率測定), 機論B, 64-619 (1998), 829.
■衝突壁面の形状変化
[24]Priedeman, D. et al., Enhancement of Liquid Jet Impingement Heat Transfer With Surface Modifications, Trans. ASME J. Heat Transfer, 116 (1994), 486.
[25]Ali Khan, M.M.他2 吊, 衝突噴流熱伝達の増進技術 に関する研究(第5 報), 第18 回日本伝熱シンポジウ ム講演論文集 (1981), 208.
■旋回の効果
[26]Huang, L.&El-Genk, M.S., Heat transfer and Flow visualization experiments of swirling, multi-channel and conventional impinging jets, Int. J. Heat Mass Transfer, 41-3 (1998), 583.
[27]Hishida, K. et al., Velocity and Temperature Mesurements in Heat Transfer of Swirling Impinging Jets, Proc. 4 th JSME-KSME Thermal Engng. Conf., Vol.2 (2000), 2-269.
[28]Volchkov, E.P. et al., Heat Transfer in an Impact Swirling Jet, Heat Transfer Research, 27 (1996), 14.
[29]Ward, J.&Mahmood, M., Heat Transfer from a Turbulent, Swirling, Impinging Jet, Proc. 7 th Int. Heat Transfer Conf., Vol.3 (1982), 401.
作成日:2001年7月11日
2.衝突噴流の受動制御の概略
衝突噴流はよどみ点において高い熱・物質伝達率が得られることから物体表面の加熱・冷却・乾燥やガラスの焼きなまし,紙の乾燥,ガスタービンブレードの冷却,電子デバイスの温度制御等様々な分野に用いられている.
近年のエネルギー問題や地球環境問題の解決の1 つの方策として,上記のように様々な分野に応用されている衝突噴流熱伝達の制御が注目を浴びている.
一般的に乱流制御には音波励起のように流動場へエネルギーを注入するアクティブ制御(能動制御)と,ノズルの形状変化や流動場への物体の挿入などエネルギーを注入しないパッシブ制御(受動制御)の2 つがある.アクティブ制御の場合は注入したエネルギーに見合うだけの制御効果が得られなければ,エネルギーの無駄遣いに終わってしまうというデメリットがあり,パッシブ制御の方には一度流動場等の条件を決めてしまうと変更できず,流動場の情報から制御出力を決定する等のインターアクティブな制御が出来ないというデメリットがある.
本レビューでは衝突噴流熱伝達の制御に関する研究 を紹介していく.第1 報では衝突噴流熱伝達のパッシ ブ制御の研究についてまとめていく.
これまでの衝突噴流のパッシブ制御の研究を見ていくと非円形ノズルを用いて,ノズル出口における渦構造の発達過程を変化させることによる熱伝達特性の制御に関する研究が多いことに気が付く.そのような研究の流れがあるので本レビューでも非円形ノズルを用いた衝突噴流熱伝達の制御に関する記述が多いことになろう.
1 章の緒言に続き,2 章で衝突噴流熱伝達の制御に関する概略を述べる.ここでは続報の制御手法も含めて衝突噴流 熱伝達のパッシブ制御にはどのような種類・方法があ るのかをまとめる.
1.緒言