噴流とは何か?
衝突噴流冷却とは何か?
なぜ衝突噴流冷却が用いられるか?
衝突噴流冷却はどこで用いられるか?
なぜ我々は二次元衝突群噴流冷却に関して研究しているか?
流れ場の可視化とは何か?
渦とは何か?
レイノルズ数とは?また衝突距離H/Dとは?
熱伝達の研究って何?
ここで説明する噴流(ジェット)とは航空機などではありません.噴流というのはある速度を持った流体(気体や液体)が狭い空間-ノズルやオリフィス-から放出される流れのことです.ピンと来ないかもしれませんね.でもあなたも簡単に噴流をつくることが出来ます.思いっきり息を吸って,口をすこし尖らせて息を勢いよく出してみてください.噴流の出来上がりです.この場合は,あなたの(すぼめた)口がノズルの役割を果たしています.
私たちが実験を行っている噴流は液体噴流で水を用いています.2つの二次元ノズルから水を噴出し水槽内へ放出しています.しかしながらノズルの形状には様々なタイプがあります.一般的に用いられているのは,円形軸対称噴流(円形ノズルから放出される噴流)と二次元平面噴流(二次元ノズルから放出される噴流)の形状です.
衝突噴流冷却は,噴流が直接加熱された壁面(衝突壁面と呼びます)に衝突することです. もしも噴流の温度が壁面の温度よりも低ければ,つまり壁面温度の方が高く,壁面に衝突した噴流の温度の方が低ければ,この両者の間に対流熱伝達が生じます.対流熱伝達とは表面上の暖かい流体粒子から温度の低い噴流への熱の移動です.噴流の速度が速ければ速いほど,対流熱伝達も促進されます.
衝突噴流冷却は工業的に幅広い分野で用いられています.例えば部品の冷却・加熱,紙の乾燥,電子デバイスの冷却(CPUファンなど)などなど挙げきれないほどです.なぜこれほど噴流冷却が用いられるかというと,噴流が衝突したときの熱伝達が,噴流を衝突させない場合(緩やかに熱源の周囲に流体を流すなど)に比べて非常に良いからです. 簡単に言ってしまえば,風での冷却みたいなものです.みなさんも体験したことあると思いますが,扇風機の前に座っていると涼しく感じますね.しかも風量を強くすればより涼しく感じます.それと同じことなのです.衝突噴流冷却もこれと同じことです.今の例で言えば,衝突壁面があなた,風を当てられている存在=冷やされている存在です. もしもこのように衝突噴流を用いることで熱伝達が促進できるのであれば,高い温度を有している所に噴流を衝突させることで冷却し,高温を発しているデバイス等の効率を高めることが出来るのです.
衝突噴流冷却は非常に単純な原理(上で見てきましたように必要なものは速度の速い流体とその流れを作り出すためのノズル)なので,多くの工業的アプリケーションがあります.繰り返しになるかもしれませんが,またいくつか例を挙げてみると,繊維やフィルムの乾燥,ガスタービンブレードや燃焼室内(エンジン等)の冷却,そして電子デバイスの冷却などがあります.最近とみに注目されてきたアプリケーションとしては, 凍結治療中に細胞などを凍らせておく,といった医療分野での使用が挙げられます.
衝突噴流冷却が工業的に幅広く用いられているのは上に述べたとおりですが,これまでの研究というのは"いかによく冷やすか"という視点から研究が行われてきました.しかし,ノートパソコンの普及から分かるように,これからはより小さな発熱体をより効率的に冷やす方法が求められています.同時にいかに安定して冷やすか,つまり噴流の中には乱れというものがあり冷えている最中でも衝突壁面上の温度は揺らいでいます.この揺らぎを抑えていかに安手した熱伝達を実現するか.このようなニーズに応えるために,人間の方で衝突壁面上での熱伝達を制御出来るようにしよう,というところに焦点を置いています.
それではなぜ"二次元衝突群噴流"なのでしょうか?工業的には単独衝突噴流はあまり用いられておりません.大規模なプラントなどになると,ほとんどが群噴流です.このような工業的な観点から見て,群噴流の熱伝達制御を実現することは有意義なものなのです.
流れ場の可視化とは基本的には読んで字のごとく,流れ場を見えるようにするものです. 可視化の方法には様々な方法があります.例えば噴流中に煙を混ぜる(スモークワイヤ法),噴流中に染料をまぜる(染料法),などなど. 私たちは噴流中にトレーサー粒子(トレースする=追いかける)を混ぜて,そこへレーザーを照射することで流動場を可視化しています.詳しく言えば,可視化というよりもPIVという手法を用いて速度場を算出するためにそういうことをしています.
渦は静止流体中をある速度を持った流体が流れると形成されます.このようなことはノズルのエッジ部分で生じます.静止流体中と速度を持った流体粒子の界面では,速度を持った流体粒子は速度が遅くなり(静止流体に引っ張られて),静止流体をエントレイン(巻き込み)します. このエントレインメントにより流体粒子の円運動が生じます, 渦巻き(whirlpool)と似たようなものです. あなたも排水溝へ流れ落ちる水がバスタブの流体を引き込んで,渦が形成されるのを見たことがあると思います.
コヒーレント構造(coherent structure)と呼ばれる渦構造があります.乱流というと全く乱れた流れという風に捉えられてきましたが,実はこのコヒーレント構造と呼ばれる秩序だった構造にその流動特性が支配されています.コヒーレント構造とは,つまり秩序だった渦構造のことです.この秩序だった渦構造によってエントレイメントや騒音の発生,レイノルズ応力の生成などが引き起こされていると考えられています.
コヒーレント構造が乱流の特性を支配しているということは,このコヒーレント構造を操作(manipulation)することにより乱流の制御が可能ではないか?ということが示唆されています.私たちの研究ではこのコヒーレント構造に着目して,微小攪乱によるコヒーレント構造の操作・制御を通じて熱伝達制御を成し遂げようとしています.
基本的にレイノルズ数は流体の速度を計測すれば分かります.レイノルズ数が大きくなればなるほど,流体粒子は速く動きます. 例えば管内流れ(管の直径:D)の場合には,レイノルズ数は流体の速度に管の直径Dをかけたものを,動粘性係数νで割れば出てきます.このレイノルズ数が同じ場合には,異なった流れ場(例えば管の直径が違う)でも,幾何学的に等しい流れ場として取り扱うことができます.
H/D は衝突噴流のノズル直径Dとノズル-衝突壁面間の距離Hの比です.例えばH/D=2といった場合,衝突距離Hはノズル直径Dの2倍,つまりノズル直径が30mmだとしますと衝突壁面とノズルの間は60mm(6cm)離れているということになります.
熱伝達の研究においては,研究者はどのような因子が熱伝達に影響を及ぼしているか,またその因子の値が異なると熱伝達はどのようになるのかということを突き止める努力をしています. 衝突壁面上からの熱の出入りを,様々な条件下で調べて比較するわけです. 私たちの研究の場合は単独噴流と群噴流の熱伝達の違いや微小励起の効果などを調べて,衝突壁面上での熱・物質移動制御が実現可能となる条件の絞込みを行っています.もちろんレイノルズ数やH/D,励起周波数が熱伝達率分布に与える影響も考慮しなければいけませんが・・・
衝突壁面上からの熱の出入りを調べると書きましたが,この熱の出入りを調べるために私たちは衝突壁面上に熱電対を13個設置して衝突壁面上の温度測定を行っています.熱電対のほかに熱伝達研究に良く用いられるものとしては,感温液晶が挙げられます.