目次
1.緒言
2.乱流制御の概略
2.1 受動制御と能動制御
2.2 制御パターン
2.3 操作量
2.4 操作方法
3.乱流制御研究を支えるツール
3.1 はじめに
3.2 乱流場の画像計測技術
3.3 数値実験(DNS=Direct Numerical Simulation)
4.DNSと乱流制御
4.1 はじめに
4.2 壁面せん断乱流に関する基礎知識
4.3 壁面せん断乱流制御のストラテジー
4.3.1 Schemes based on physical arguments
4.3.2 Schemes based on dynamical systems
4.3.3 Optimal control schemes
4.3.4 Adptive schemes
4.4 DNSによる壁乱流の抵抗軽減制御の研究例
4.4.1 Schemes based on physical arguments
4.4.2 Schemes based on dynamical systems
4.4.3 Optimal control schemes
参考文献
Abstract
Recently turbulence control has been paid attention by many researchers, which attributed to three aspects; expectations for the realization of turbulence control, the accumulations of knowlegds about coherent structures in turebulent flow, the developments of micro-electro-mechanical systems (MEMS). The subject of turbulence control is broadly introduced in this first report. Especially, the kinds of turbulence control are introduced in detail.
Keywords:Turbulence Control, Near-wall turbulence, Drag Reduction, Active Control, Optimal Control, Sub-optimal Control, Dynamical Systems Theory, Neural Network
1.緒言
オズボーン・レイノルズが乱流現象を発見して100年が経とうとしている.人間の生活は乱流に囲まれている.自然界での流体運動もほとんどが乱流である.産業分野においても伝熱,拡散,音,燃焼など乱流に付随して生じる様々な現象が利用されている.
近年注目を集めている乱流制御は決して新しいトピックではない.レイノルズ以来,乱流研究者の誰もが描いた夢に違いない.Gad-el-Hak[1]によれば,乱流制御を試みた最初の人物はプラントルである.彼は境界層理論を打ち立てた人物であり,境界層壁面において吸い込みや吹き出しを行うことにより境界層のはく離点の制御を試みている.しかしながら,乱流制御を実現するためには数多くの課題がある.なぜならば,流体運動を支配するNavier-Stokes方程式は非線形方程式であるために,自由度無限大の熱流動現象に対して例えばフィードバック制御回路を有するような能動制御が困難であったためである.
それにもかかわらず乱流制御が注目を集めている理由としては,以下の3点が挙げられる.
1つは,乱流制御の実現によってもたらされる新たな技術革新への期待.すなわち流れのはく離や流動構造の制御,騒音低減,伝熱・拡散制御,化学反応制御などの実現により可能となる新技術開発,環境問題の解決への大きな期待がある.
2つ目は乱流制御を実現するためのソフトウェアの発展がある.ソフトウェアとは,乱流構造に関する物理的知見の蓄積[2][3]や最適制御理論,ニューラル・ネットワークなどの流体力学への導入といった理論的基盤を指す.
そして3つ目として,乱流制御を実現するためのハードウェアの進歩がある.特にMicroelectromechanical System(MEMS),マイクロマシン技術の急速な発展[4][5]は,乱流制御を実現するための1つの要素技術として注目を集めている.
以上のような3つの側面により乱流制御実現への期待が高まり,乱流制御に関する研究も活発化してきたといえる. 第1報ではまず乱流制御の概略について述べ,次に乱流制御研究を支えている2つのツールについて触れる.その後,近年研究が進んでいるDNSによる壁乱流抵抗軽減に関する研究例について述べていく.
2.乱流制御の概略
2.1 受動制御と能動制御
乱流制御には大きく分けて2つある.1つは対象とする系にある種の初期的な加工や設定のみを必要とする方法で,受動制御(Passive Control)と呼ばれる.もう1つは系に外界との間でエネルギー物質の授受を必要とする能動制御(Active Control)である.受動制御は能動制御に比べ,外界からのエネルギー物質の授受を必要としないことから原理的には望ましいと言えるが,期待できる効果は能動制御に比べて小さい場合が多い.また流動場に応じて制御を行いたい場合には受動制御では対応しきれないという欠点もある.しかし能動制御においても,外界とやり取りするエネルギー授受量をはるかに上回る制御効果が出ないと,むしろエネルギーの無駄遣いに終わってしまう.
Fig.1-Clasifications of flow control strategies.
2.2 制御パターン [6]
乱流を制御するといっても,制御対象をしっかりと特定しなければいけない.主な制御対象としては以下のものが挙げられる.
時空間制御
分布制御
動的制御
平均制御
これまでは主に定常的な現象を対象にした平均量の制御が行われてきた.しかし,今後は非定常な現象に対する熱伝達率分布や濃度分布の分布制御や,伝熱量の動的制御,そしてそれらを組み合わせた時空間制御へと展開が図られていくと思われる.
2.3 操作量[6]
乱流制御を実現するためには,制御対象だけでなく何を操作量とするかが重要となってくる.操作量を特定するためには,乱流中に間欠的に発生する組織渦構造といった準秩序構造に関する知見を十分に得る必要がある.ここでは概念的に以下の5つを挙げる.
熱伝達・混合・拡散形態
非定常量
流動パターン
構造長さ
発達過程
2.4 操作方法
2.1節で述べたように乱流制御には大きく分けて2つ,受動制御と能動制御がある.
まず受動制御としては,流路形状の加工がある.流路状にLEBU板(Large Eddy Break-Up)や乱流促進体等の構造を設置,噴流であればノズル形状を非円形にすることで流動構造を変化させる方法がある.また作動流体中に機能性を有する流体粒子を混入する方法があり,特に界面活性剤水溶液を用いることで乱流抵抗が低減するToms効果を利用した方法などがある.
能動制御としては,音波等を用いた流動場の励起,磁性流体を作動流体に混入し磁場をかけることで制御する方法,また導電体を作動流体に混ぜ電場により流動場を制御する方法がある.その他にも超音波を用いたり,壁面の振動を用いる方法がある.特に乱流構造に関する知見の蓄積が著しく乱流制御の対象として大きな注目を集めている壁乱流では,壁面上に微細な切込み(リブレット)を入れ,それを微小振動させる方法や壁面上で吸い込み・吹き出しを行う方法など数多くの方が提案・研究されている.
3.乱流制御研究を支えるツール
3.1 はじめに
乱流研究の分野では近年強力な研究ツールが開発され,乱流制御の研究を支えている.1つは画像処理による乱流場の3次元計測手法の確立,もう1つは乱流のダイレクト・シミュレーション(DNS)である.以下において2つのツールについて説明する.
3.2 乱流場の画像計測技術[7]
LDV(レーザードップラ流速計)[8]などの速度計測手法は点計測であり,乱流場全体の空間的な構造を捉えるのは困難であった.従来の流速計や温度計に対して,近年開発の進んでいる粒子画像流速計(PIV)[9]や粒子追跡法(PTV),レーザー誘起蛍光法(LIF)などは,テレビカメラ画像データから流体の速度ベクトル,温度,濃度の空間分布をコンピュータ処理によって求めることが出来る.乱流場を2次元または3次元的に捉えることが可能になった結果,せん断乱流中に時空間的に間欠的に生起する乱流機構を中心的に担っている準秩序構造(coherent structures)に関する詳細な知見も飛躍的に豊富になるつつある.
3.3 数値実験(DNS=Direct Numerical Simulation)[10][11]
流体の運動を支配するNavier-Stokes方程式を忠実に数値的に積分するDNSは,計算できるレイノルズ数に限界があるが,実験的には求めることが困難な流動場の速度・温度・圧力等やその微分・積分値の空間分布の時間発展を詳細に解析することができる.せん断乱流中に存在する準秩序構造に関する知見も,上記の計測技術の進歩による側面もあるがDNSを応用することによって解明されてきた部分も多い.
4.DNSと乱流制御
4.1 はじめに
ここではDNSを用いた壁面せん断乱流の制御に関する研究例を紹介する.まずはじめに壁面せん断乱流に関する基礎知識について述べる.壁面せん断乱流中には準秩序構造が存在することが分かっているが,その秩序構造と乱流摩擦抵抗の関係について現在までに分かっていることを述べる.次に壁面せん断乱流の抵抗軽減制御を行うためのいくつかのストラテジーについて紹介する.ここでは最適制御理論や準最適制御理論,ニューラル・ネットワークなどの流体力学への適用について述べる.そして最後に以上のストラテジーを用いてどのような乱流抵抗軽減効果が得られたのか,研究結果についてまとめる.
4.2 壁面せん断乱流に関する基礎知識
流体抵抗は摩擦抵抗,圧力抵抗,造波抵抗に分類することが出来る.そのうち摩擦抵抗は亜音速の航空機で50~60%、大型船舶で70~80%と大きな割合を占めており,この摩擦抵抗の低減は工学上大きな意義を持つ.
これまでの実験的研究に加え,近年のDNSによる数値実験より境界層乱流の準秩序構造の解明が進んできた.壁面せん断乱流では,平均せん断と壁面効果との複雑な相互干渉によって壁面近傍にバースティング現象が生じることがKline et al.[12]などの研究により分かっている.バースティング現象は,低速ストリークの揺動とその崩壊から構成されている.近年のDNSを利用した研究から,低速ストリークの形成が縦渦構造によること,その揺動と崩壊が縦渦構造の新たな生成過程と結びついていることが明らかにされた.さらに,新たな渦構造が古い渦構造のスイープおよびスプラッティングと関連して起こることが指摘されている.低速ストリークや縦渦構造についての詳細な幾何学や,その生成機構については現象論の範囲内でかなり進展があった.このような知識の蓄積が基となって壁面せん断乱流の能動制御への試みが積極的に成されている.なお近年の壁面せん断乱流に関してはRobinson[13]がレビューを発表している.
Fig.2-境界層乱流のDNS の可視化から得られた渦構造の概念図-緩和(遷移)領域では単一の縦渦,後流領域ではアーチ渦が支配的で,対数領域ではそれら混合となっている.
4.3 壁面せん断乱流制御のストラテジー[14]
壁面せん断乱流では,吸い込みや吹き出しあるいは壁面変形,体積力といった人工的な外部入力を流動場へ付与する必要がある.4.2で述べたような流動構造を有することから,壁面摩擦係数と縦渦構造や低速ストリークとが強い相関関係を持つことは乱流研究者にとって広く知られた事実である.
4.3.1 Schemes based on physical arguments
Schemes based on physical argumentsとは,対象とする系の力学機構,つまりせん断乱流固有の構造に関する知見を基にして制御側を決定する方法である.
Choi et al.[15]は壁面からある距離における壁に垂直方向の速度成分をセンシングし,その逆位相の吹き出しや吸い込み速度を壁面上の制御入力として与える,いわゆるアクティブ・キャンセレーション法(Fig.3)を用いて抵抗軽減の乱流制御を試みた.アクティブ・キャンセレーション法とは,壁面近傍の流動構造と逆位相に壁面の吸い込み・吹き出しを行うことにより摩擦抵抗を生み出す高せん断領域を壁面から離す方法である.
Satake&Kasagi[16]は壁面近傍のスパン方向速度成分をセンシングし,それらに比例した抑制力がスパン方向に加わるチャネル乱流のDNSを行った.
Fig.3-An active cancellation scheme applied to turbulent flow, from Choi et al.(1994). [14]
4.3.2 Schemes based on dynamical systems
Schemes based on dynamical systemsとは非線形力学理論を基にした能動制御手法であり,自由度無限大のNavier-Stokes方程式系をより低い自由度の力学系によってモデル化し,乱流の力学や構造を解析する.この手法の背景としては,乱流の動力学が秩序渦構造のような限られたモードの運動に主に担われているという事実がある.
これを基礎として乱流を決定論的なカオス力学系として扱うことによって制御理論との融合を図るアプローチが複数提案されている.つまり系が取り得る様々な軌道のうち望ましい状態になる(例えば摩擦抵抗が減少する)軌道上に安定化させる方法である.一般にカオス制御と呼ばれ,OGY法[17]が代表的である.OGY法の基本的な考え方は,カオス挙動を示す系に対してフィードバック制御を行って軌道の安定化を図ろうとするものである.その際,Fig.4(a)に示す従来の制御法のように位相空間の全ての方向に対して同じように安定化させるのではなく,Fig.4(b)に示すように上動点(fixed point)近傍に軌道が入り込んできたときのみ制御力を作用させて安定方向を通過する軌道へ収束させる方法を取る.
Fig.4-Comparison of control methods. [17]
4.3.3 Optimal control schemes
最適制御は制御対象であるプラント(ここではNavier-Stokes方程式系)のモデリングとコントローラ構築により成立する制御手法であり,何らかの望まれる値を含む評価関数を数学的に記述し,この評価関数にNavier-Stokes方程式を直接適用して評価関数が最小となるようにする.
最も簡単なLQ(線形2次形式)問題では,状態方程式がプラントのモデル,リッカチ方程式の解がコントローラに対応する.乱流制御問題においてはNavier-Stokes方程式がプラントモデル,随伴方程式の解がコントローラに対応している.
Moin&Bewley[18]は流量一定のチャネル乱流の抵抗軽減をねらいとして制御効果を定量化する評価関数を,制御入力としての壁面上での吹き出し・吸い込みΦの運動エネルギと壁面の速度勾配δu1/δx2の和の壁面上および時間に対する二重積分として以下のように定義した.
ここでlは重みであり,制御効果に対して制御入力の相対コストの比を表すパラメータである.制御に関わ るコストが高いほどこの係数は大きな値を取る.評価関数の第2 項は最小化すべき壁面速度勾配,すなわち 摩擦抵抗である.
以上より状態方程式を満足しつつ評価関数を停留化するΦの時空間分布(最適な制御入力)を求めることが命 題となる.この評価関数の停留化には汎関数の微分であるフレッシェ微分[19] を求め,その停留条件を与える 制御分布を数値的に求めることになる.しかし上記の最適制御法ではNavier-Stokes 方程式を時刻0 からT ま で解いた後に,その時刻から負の時間方向に随伴方程式を解くことを繰り返すことを要する.そのため制御 力を算出するための計算量が大きく実用化するには難しい.
このような時間積分による計算負荷を回避するためにChoi et al. [20] は,Abergel&Teman [21] が示した最適制 御理論を数値シミュレーションにおいて可能とする準最適制御(suboptimal control)を示し,それをバーガーズ 方程式に初めて適用しその有効性を示している.準最適制御では現時刻のプラントの状態から次時刻におい て評価関数を最小化へ向かわせるための制御入力の最適な空間分布を決定する.よって先ほど示した評価関 数の時間積分が上必要となる.準最適制御では現在のプラントの状態のみから次時刻の制御入力の最適分布 を決定できるので,実用の可能性が高いが各時刻ごとに最適な分布を決定するための計算方法やパラメータ に制御成績が依存してしまう.
4.3.4 Adptive schemes
適応型制御とは制御入力に対するプラントの応答をニューラル・ネットワーク(NN)や遺伝アルゴリズム(GA)などに学習させ,訓練を通じて成績の良いコントローラを構築しようとする方法である.Lee et al.[22]やJacobson&Reynolds[23]などの研究によりNNを用いた壁面せん断乱流の制御の可能性が示されているが,以上の手法は制御入力のコストを考慮しておらずより優れた制御成績を得るためには最適制御の適用が期待される.
長門・吉田[24]の手法(Fig.5)では,システムNN・NNコントローラと呼ぶ2種類のNNを用いる.システムNNは制御対象のモデルとして流れの挙動を模擬するために用いられ,系の状態量および制御力を入力とし,一定時間後の状態量変化の予測を行う.NNコントローラは入力された系の状態から評価関数に基づいて最適な制御量を演算するように構築される.2つのNNの学習が完了すると,NNコントローラ内部の順方向伝播のみによって系の状態量から直ちに最適な制御量が算出される.制御の手順は,システムNNの学習,NNコントローラの構築,制御の適用の3つの段階から成る.まず最初に制御対象とする系の出力とNNの出力の2乗誤差が最小となるようにネットワークの重みの訓練を行い,系のダイナミクスをシステムNNに学習させる.次に状態量xと制御量fの関数の時間積分で定義される評価関数Jに対して最急勾配法を適用し,NNコントローラの重みを訓練する.この際,評価関数の状態量,制御力に対する微係数を学習信号とし,これらをシステムNNおよびNNコントローラの内部に逆伝播させることによって重みの訓練を行うことが特徴である.2つのNNの学習が完了すると,NNコントローラ内部の順方向伝播のみによって系の状態量から直ちに最適な制御量が算出される.
適応型制御ではプラントの特性をブラックボックスとして扱うので,システムNN,NNコントローラの双方に関して学習時に経験した範囲外の入力に対しても適切な応答が得られるという保証はない.
Fig.5-Optimal control with neural network controller proposed by Yoshida&Nagato (1992) [24] .
4.4 DNSによる壁乱流の抵抗軽減制御の研究例
4.4.1 Schemes based on physical arguments
Choi et al.[15]はアクティブ・キャンセレーション法を用いることにより抵抗軽減のための乱流制御を試みて,y+=10での速度情報を用いた場合に最も制御効果が大きく,抵抗軽減が20%に達することを示した.また速度情報をセンシングする位置をy+>25とすると制御効果が得られない. 彼らは壁面上における諸量と壁面垂直方向速度との相関関係を調べたが,驚くべきことに壁面圧力は垂直方向速度とは高い相関関係になかった.またテイラー展開と連続の式を用いることで,壁面近傍のある一点における垂直方向速度と瞬時壁面せん断を関連付ける関係式を導いたが,この関係式から見積もった垂直方向速度の寄与による抵抗軽減は6%にしかならなかった.この6%という数字はリブレットなど受動制御で得られる値とほぼ同じである.
Satake&Kasagi[16]は壁面近傍のスパン方向速度成分に比例した抑制力をスパン方向に加えたDNSを行い,最大15%程度の摩擦抵抗軽減が得られることを示した.また,彼らは壁面からy+=10以内で抑制を与えることによって,より少ない投入仕事でより顕著な効果が得られることを確認している.しかしながらy+=10での速度情報をセンシングするというのは現実的には無理であるが,壁面近傍の薄い層が壁乱流の維持に必要上可欠であるという事実は興味深い.
摩擦抵抗軽減を狙った研究ではないが,Thomas[25]はアクティブ・キャンセレーション法を境界層遷移制御に適用した例についてレビューを出している.境界層の遷移は上流において自然発生した撹乱によりもたらされるが,フィードバック制御則において振幅・位相を調整することにより遷移を遅らせることが出来るを示している.
4.4.2 Schemes based on dynamical systems
Keefe[26]はカオス制御の代表的な手法であるOGY法を用いてチャネル乱流のDNSに適用し,壁面のごく近傍(y+<1.67)に制御入力を限定した場合においても摩擦抵抗が60%低減することを示している.
4.4.3 Optimal control schemes
Bewley et al.[27]はChoi et al.[20]が示した準最適制御理論をチャネル乱流に適用し,壁面上の吹き出し・吸い込み流量分布を最適化によって,乱流摩擦抵抗を著しく低減させることが可能であることを示した.
Satake&Kasagi[28]はスパン方向速度の抑制力分布の決定に準最適理論を導入し,チャネル乱流の摩擦抵抗軽減を試みた.評価関数には縦渦構造の力学作用を考慮し,壁面乱流特有の縦渦の剛体回転および純歪み成分を表現する項を導入している.制御を加えると制御開始直後から顕著な抵抗低減が観察され,層流の下限に近づくほどの効果が得られたケースもあった.また準最適制御とSchemes based on physical argumentsによる制御の制御に要するエネルギーを比較し,準最適制御の方がはるかに小さいエネルギーでSchemes based on physical argumentsと同等の効果が得られることを示した.
※文章中の[]の数字は参考文献番号を指す.なお参考文献については,以下を参照.
参考文献
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作成日:2001年6月7日