目次
1.緒言
2.各レビューの特徴について
3.Abstract Collections
3.1 Control of Turbulence
3.2 Flow Control with Noncircular Jets
3.3 Coherent Structures in Transitional and Turbulent Free Shear Flows
3.4 Turbulence Management in Free Shear Flows by Control of Coherent Structure
3.5 Flow Control ?Fundamentals and Practices-
3.6 Mixing Enhancement in Supersonic Free Shear Flows
3.7 Management and Control of Turbulent Shear Flows
3.8 Feedback control of turbulence
3.9 Modern developments in flow control
3.10 Micro-Electro-Mechanical-Systems (MEMS) and Fluid Flows
3.11 Jet Flows and Turbulence Control
4.日本人による乱流制御レビュー
参考文献
第1報においては乱流制御の概略を述べた.第2報においては乱流制御に関するレビューについて取り上げる.乱流制御に関するレビューは数多く書かれているが,1980年代後半から特に多くなってきている.内容に関しても,初期の頃は境界層や自由せん断乱流(混合層・噴流・後流)の実験的な研究でかつパッシブ制御に関する研究がほとんどである.1990年代に入り数値シミュレーション手法の進展が乱流制御研究を加速させ,DNSによる乱流制御のレビューが散見されるようになった.
またアクティブ制御というとスピーカーによる励起などが主流であり,主に大スケールの渦構造操作などしか行えていなかったが,MEMS技術の発展により小スケールの運動に直接操作を加えることが出来るようになった.これにより大スケールから小スケールまで幅広いスケールが介在する乱流の制御手法に新たな展開が開けている.
著者の個人的な見解を述べると乱流制御に関するレビューは半分以上が境界層制御(boundary layer control)である.この理由としては,Kline et al.(1967)の研究により乱流境界層におけるバースティング現象の存在が明らかになり,秩序構造の解明が一番進んできたのが乱流境界層でありこれまでの物理的な知見の蓄積があるためと考えている.また流れ場の検知(sensing)と操作(manipulation or actuation)を加える際,境界層制御では壁面にセンサ・アクチュエータを設置できるという点もメリットとして挙げられるのではないだろうか.
本レビューでは現在所有している乱流制御に関するレビューについて,各レビューの特徴について触れ,それぞれのアブストラクトの邦訳を掲げる.この邦訳を読むことにより乱流制御に関して包括的な視点が得られるものと考える次第である.最後に日本人による乱流制御レビューについて紹介する.
1.緒言
Keywords:Turbulence Control, Turbulence Management, Sensor, Actuator, Active Control, Passive Control, Turbulent Shear Flows, Coherent Structures
Abstract
2.各レビューの特徴について
ここでは各レビューを概観し特徴について述べていく.[1]のLumleyによるレビューは,主に境界層の制御に焦点を絞って話を進めている.制御の概念,制御スキームについて事例を挙げて紹介している.乱流研究の第1人者による境界層制御の包括的なレビューと言える.
[2]は非円形噴流を用いた制御に関するレビューであり,噴流のパッシブ制御の中心的なトピックであった非円形噴流の流動構造などについて詳しく触れている.
[3]はcoherenet structure-秩序構造-に関するレビューであり,”熱流動現象の制御”シリーズの第4報にて詳しく触れる予定である.
[4]は自由せん断乱流研究の第1人者F.Hussainらの研究グループが著した乱流制御レビューである.Hussainは1983年にPhys.Fluidsに,1986年にJ.Fluid Mechに秩序構造に関するレビューを書いている.そのため本レビューも”秩序構造の操作”という観点から,特に自由せん断乱流の制御について述べられている.
[5]は論文ではなく,フランスで行われた乱流制御に関するシンポジウム”Flow Control: Fundamental and Practices”のレクチャーノートを本としてまとめたものである.近年における乱流制御に関する代表的な研究者の1人であるGad-el-Hakが編集しており,掲載されている内容も乱流制御に関する基礎事項から,境界層制御・自由せん断乱流の制御・燃焼の制御など幅広い分野にわたっている.現在,乱流制御に携わっている研究者必見の本であろう.
[6]は[2]と同じGutmarkらのグループによるレビューである.題吊が”Supersonic Jet・・・”となっているが,前半でsubsonic jetについて掲載されていたので,載せておいた.論文の大部分は超音速噴流についてであるが,Introductionの亜音速噴流(subsonic jet)に関する記述は詳しく書いてあり非常に参考になる.
[7]は境界層の制御に関するレビューである.著者らは他にもProg. Aerospace Sci.に80ページに及ぶレビューを投稿しているが,そちらの方は未入手なので今度手に入れたいと考えている.この論文ではcontrolとmanagementという単語を区別して用いており,controlは閉じたフィードバック制御系を指し,managementはある目的(抵抗低減,熱伝達促進など)を達するために流れ場を操作するという区分けをし,著者としてはその考え方には基本的に賛同できる.
[8]は近年のコンピュータ処理能力の向上や数値シミュレーション手法の発達により可能となった,乱流のフィードバック制御に関する包括的なレビューである.現在の乱流フィードバック制御に関する基礎的事項についてまとめられており,論文の最後のセクションではセンシングやアクチュエーションの方法について述べられている.
[9]は[5]の編集者Gad-el-Hakによる論文である.内容は[5]の第1章と第2章の抜粋であるので,近年の乱流制御について概観したい場合,[5]の第1章・第2章を読むよりこちらの方を薦める.
[10]は乱流制御におけるセンシングやアクチュエーション・マニピュレーションに欠かせないMEMS技術に関する包括的なレビューである.MEMSに関するあらゆることが載っており,乱流制御を違う側面から見ることが出来ると思う.
[11]は1980年代最後に書かれたものであるが,乱流制御の論文というよりは噴流に関する知見をまとめて,これからの展望について述べている.あまり乱流制御のレビューという観点から見ると参考にならない.
3.Abstract Collections
3.1 Control of Turbulence (J.Lumley et al. Ann. Rev. Fluid Mech., 30 1998)
乱流のアクティブ制御の応用例について述べて,それら制御が経済的あるいは環境的にどのような影響を与えるかを議論している.制御(コントロール),センサー,アクチュエーターそして制御アルゴリズムについての基本的な考え方を示す.乱流制御は我々が現在知っている乱流についての知識よりもさらに詳細な知識が必要となるが,この論文では特に話を境界層制御について絞り,基本的な流動構造などを述べていく.境界層において考慮すべきことは様々あるが,秩序構造とバーストティング現象,バースト周波数と摩擦速度との関連,バースト周波数の変化,界面活性剤によるパッシブ制御や能動制御による抗力軽減の可能性,そしてバースト周波数へのその他の影響(流れの湾曲,圧力勾配,歪率)などが挙げられる.制御を行うためには流れの状態を壁面上でセンシングしなければならず,このセンシングした流動場の情報が上完全なものでエイリアス(偽の)情報であるとしたら,より卓越した計測技術がセンシングした信号処理のために必要となる.制御を達成するためには制御方法(アクチュエーション),アルゴリズムが必要であり,流動場で何が生じているかを解釈し,次の状態で流れがどのようになっているか予測するためには流れのモデルが必要である.壁面アクチュエーターは必要であるけれども,アクチュエータを流れ場に挿入することで流動場へどのような影響を与えるか考慮しなければならない.我々はDNSによってあるタイプのアクチュエーターを用いた際の乱流制御について驚くべき結果を示す.流動場を制御する前に,我々は流動モデルの制御をしようと試みた.我々はいくつかの流動モデルでの制御の結果を提示することにする.
3.2 Flow Control with Noncircular Jets (Gutmark et al. Ann. Rev. Fluid Mech., 31 1999)
非円形噴流はここ15年間で幅広く研究されてきたトピックといえる.この噴流は流れのパッシブ制御の有効な方法として認められている.このパッシブ制御というのは様々な実用的なシステムで比較的低コストでかなりの高い効果が得られる,というのは非円形噴流というのは主にノズル形状の幾何学形状の変化によって流動場の制御を行っているからである.(ノズル形状で渦構造を制御するということは,能動制御と異なりエネルギ *励起する* を与えずに制御するということである.だからエネルギを使わず効率的に渦構造を制御できる点で上記のようなことを言っているものと思われる)
このレビューで述べられている非円形噴流の応用例には,低レイノルズ数・高レイノルズ数流れにおける大規模・小規模混合の促進,燃焼効率の向上,燃焼の上安定性や望ましくない放射の低減による燃焼過程の促進,といったものが含まれる.加えて騒音低減,熱伝達,TVCといったのものについても紹介されている.
非円形噴流によって引き起こされる流れ場の様子は渦の成長・相互作用(干渉),流れ場の上安定性,そして細かいスケールの乱れ増進などといった様々なメカニズムが含まれている.安定性理論により初期運動量厚さ分布,アスペクト比,初期流れ場発達における曲率半径などの影響を特定できた.また実験によって,自己誘起的な要素と軸方向・方位方向の渦の相互干渉における複雑な渦の成長と相互干渉が明らかになった.以上のことから平均流れ場の軸転向(axis switching)が起こっていることが分かった.数値シミュレーションにより非円形噴流における渦の運動のメカニズム,熱の放出(heat release)の影響と反応が明らかになった.非円形噴流の研究結果が様々な工業上プロセスへ導入されている.アカデミックな興味*興味深い流れ現象*から出発したこの非円形噴流というトピックは実質的には様々な工業的な応用を獲得するに至っている.このレビューは実験的,理論的,数値計算,そして技術的な側面からまとめられている.
3.3 Coherent Structures in Transitional and Turbulent Free Shear Flows (J.T.C.Liu. Ann. Rev. Fluid Mech., 21 1989)
近年,乱流中における組織渦構造-coherent structures-についての研究に進展が見られる.組織渦構造とは乱流中での秩序だった運動である.CorrsinやTownsendの自由乱流における初期の実験により,このような秩序だった運動が偏在していることが発見されている.(以下省略-第4報にて詳しく触れる予定である-)
3.4 Turbulence Management in Free Shear Flows by Control of Coherent Structure (F.Hussain. et al. Int. Symp. Transport Phenomena in Turbulent Flows, ed. M. Hirata, N. Kasagi, 1988)
秩序構造研究によってもたらされるであろう結果は,乱流の予知だけでなく,乱流現象の効果的な操作などをもたらすであろう.これまで蓄積されてきた秩序構造に関する研究により,あらゆるせん断流に秩序構造が存在することが分かっている.同様に秩序構造が重要かつ尽きない興味を提供しているのは,その動的挙動の重要さであろう.つまりどの程度,熱・物質伝達,運動量輸送といった乱流現象が秩序構造に影響を受けているのか?この疑問に答えている研究(F.Hussain 1980,1983)によれば,たしかに乱流は様々な側面(スケール)で秩序構造によって支配されている.さらに,これまで秩序構造の生成,成長,相互干渉プロセスは秩序構造の上安定性により変化することが明らかにされている.これらの結論をリンクさせていくと,乱流現象は流れの中の秩序構造を操作することにより選択的に促進したり,抑制したりできることが分かる.しかしながら,このような乱流制御は秩序構造の動的挙動の面から見て乱流物理学の深い理解を必要とする.特に,秩序構造の様々なモードに関する知識,秩序構造の生成と相互干渉,そして構造の発達過程における構造の特性の詳細な位相関係などが必要である.
十分発達した乱流状態*特に噴流,せん断層,後流,そしておそらく境界層やチャンネル流,管内流れも同様に*では,秩序構造とコヒーレントではない乱れは比較しうる重要性があるように思われる.よって,前述した認識と対照的であるが,コヒーレントでない乱れも無視するわけにはいかない.しかしながら,熱伝達や物質伝達,運動量輸送や騒音発生などほとんどの技術的な応用は,噴流,せん断層,後流の近い領域を含んでいる.この領域では,流れの動力学は原理的には秩序構造によって支配されている.噴流やせん断層の近くに存在する大規模構造の優越性により,我々はほとんどの実用的な応用に適用されている重要な領域において,これらの構造を操作することによって乱流制御を成し遂げることができるのである.
秩序構造の操作による乱流制御は2つの明確なカテゴリーの分けることができる.
パッシブ(受動)制御・・・・・・・外部からエネルギーの注入を必要としない
アクティブ(能動)制御・・・・・外部からのエネルギーを必要とする
受動制御は流れ場の幾何学的形状,流れ場の初期条件,自己誘起のいくつかの形態,あるいはこれらの組み合わせたものにより,組織的な構造のある流れ場を利用する方法である.受動制御の一つの例として,ノズル形状を円形から非円形,例えば楕円形や長方形,三角形に変える方法がある.他の例として,円形噴流や非円形噴流の出口につば(カラー)を付けて―いわゆるホイッスラー噴流と呼ばれる―自己励起特性を利用する方法もある.秩序構造を生成するせん断層の初期上安定性はせん断層の開始点における速度分布と乱れ度に依存するので,初期条件は秩序構造の生成・成長において重要な役割を持っている.受動制御により乱れを制御することは初期条件を変化させること,つまり始めに縮流ノズルを用いて適度な厚さを有する層流または乱流境界層であったり,または鋭い先端のオリフィス・ノズルを用いてとても薄い境界層であったり,あるいは長い助走区間を持つ管路を用いて十分発達した層流速度分布であったり様々なものを含んでいる.
能動制御は流れの中へある周波数のエネルギーを加えることが必要である.この励起は,フラッピング・プレートなども用いられてきたが,しばしば音波(スピーカーなど)によって行われてきた.ある適切な周波数に設定して励起することにより,特定のモードの秩序構造が生成される.秩序構造の形成・発達などは周波数に依存するので,励起効果はペアリングの相互干渉プロセスを促進することができ,乱れの増加により渦合体を空間内の局所に集中させることもできる.また励起により渦の合体が抑制されたり,あるいは乱れの抑制による構造の崩壊を早めることもできる.秩序構造動力学の観点から乱れの機構を理解しようとする我々のたゆまない努力によって,興味深い結果を提供しつづけてきた.例えば流れの幾何学的形状の変化,初期条件の変化,秩序構造の生成・成長・相互干渉への励起の影響など・・・.我々が発見したもの―修正された秩序構造が乱流場に好ましい効果を生み出す可能性がある―からいくつかをここで議論してみたい.
3.5 Flow Control ?Fundamentals and Practices- (ed. M.Gad-el-Hak et al. Lec. Note Phys. Springer 1998)
Chap1-Introduction to Flow Control, M.Gad-el-Hak
流れの制御というトピックについて,個々の限られた話題ではなく幅広い見地からこの章において説明する.流れ場を望ましい状態にアクティブにまたはパッシブに制御することは工学的な見地からも重要であり,このことは流体力学において他のどのトピックよりも多くの科学者やエンジニアによって研究されているという事実からも説明できるだろう.この章では流れの制御における古典的なツールに焦点をあて,より最新の話題については後の章に譲りたい.遷移やはく離の遅延,揚力の増進,流体抵抗の低減,乱れの増進またはノイズ抑制などの制御の方法を考えてみる.内部流れに関するレビューはいくつか散見されるので,トピック主に外部境界層流れに置く.制御を達成する様々な方法により様々な結果が得られるということを統一した見地から説明するように試みたつもりである.コストや複雑さまたはトレードオフなど制御の際のデメリットについても詳しく述べたつもりである.
Chap2-Frontiers of Flow Control, M.Gad-el-Hak
1章とは異なり,この章では流れの制御に関する最新の話題について話していきたい.ほとんどは乱流の制御に関する話になる.私はここ数年における流れの制御における研究で得られた重要な進歩また今後発展する上で重要になると思われる事柄についてまとめようと思っている.前章のSection.2において,流れの制御における5つの基本的な時代区分については触れた.層流制御やはく離制御に比べて,乱流の制御はまだまだ挑戦段階であるといえる.流れの上安定性は流れの様子により急激に変化する,それゆえに遷移やはく離を遅らせることは比較的たやすいことだといえる.それと比べ,古典的な流れの制御手法はしばしば十分発達した乱流に対しては上十分なものであった.壁面摩擦抵抗の低減などの乱流制御は直接秩序構造を操作して秩序構造の変化を利用するという点に着目している.最近のカオス制御やマイクロ電子機器,ソフトコンピューティングツールの発展によって,乱流のリアクティブ制御―ここではセンサー等が発生した秩序構造を検出し,アクチュエータによりこれらの準周期的な事柄を望ましくなるように変化させる―が将来の実用できうる可能性を持った分野になっている.この章で,私はフルスケール化における航空機や潜水艦に発生する乱流境界層を制御するために必要なセンサーやアクチュエータアレイの数,サイズ,周波数,エネルギーコストなどについて述べていくつもりである.
Chap3-Some Notes on Drag Reduction in the Near-Wall Region, R.F.Blackwelder
ここ30年間で壁面上せん断流,特に壁面近傍領域の構造に関する情報が爆発的に得られた.Kline et al. (1967) は境界層流れにおける渦構造を検出し,流れの可視化を用いて流れの詳細を提供した研究者の一人である.彼らは低流速ストリークが偏在し,突如上昇し混合する様子をあらわした”バースト”という言葉を発案した.その後の30年ではこの領域についての詳細や壁面上せん断流の動力学における重要性が分かってきた.この領域における渦が境界層内の乱れの生成や抵抗を生み出していることはよく知られている.壁面近傍領域における渦構造やバースティング現象については,次のSectionにおいて壁面近傍領域と遷移領域間の相似性の議論により論じている.渦構造を制御・操作するために吸い込みや湧き出しを用いる方法をその次のSectionで紹介している.
Chap4-Large-Scale-Structure Identification and Control in Turbulent Shear Flows, J.Deville et al.
乱流せん断流れを制御することは流れ場に存在する大規模渦構造を制御することにより達成できる.確かに十分発達した乱流せん断流れでさえ,これらの大規模渦構造が流れ場を特徴付けている際に最も重要であることが知られている.実用的な面や工業的な見地から言うと乱流の性質のために,大規模構造の検出や分析,予測や制御は極めて複雑である.この章でわれわれはこれらの大規模構造を認識・検知(detect)するためのいくつかの現在利用可能なツールを述べていく.非条件抽出,確率的方法,相関に基づくものを中心に詳細を述べていく.特にProper Orthogonal Decomposition (POD) とLiner Stochastic Estimation について述べていく.これら確率的な方法の潜在的な有用性を認識してもらうために,この章では乱流平面混合層を題材として用いる.この章の最後のChapterで,平面混合層の閉じた制御ループ(closed-loop)内でPODを用いて構造の低次元モデルを抽出できる方法に焦点をあてる.この抽出方法は決定論的カオスと深く関連しているため特にしっかりと解説する.この章で乱流のクロージャー問題(平均流れ・乱流)について触れる.この章の最後のSectionでこれら確率的なアプローチについての特異性や重要性について言及する.流れが発達する際にこれらのモデルがどのように表すことができるかという限界について述べなければならない.この流れの発達を考慮することの出来る方法がとても重要であり現在急速に発展している.
Chap5-Multi-scale Active Flow Control, P.C.Pierrier
流れ場のマルチスケールに渡る物理学について最初のSectionで触れ,流れの制御についての分析の基礎を述べる.そして所与のアプリケーションに関連した自然流の特性を改良するためにパッシブな方法を用いた制御法と,コスト関数を最適化するためにロバスト・アクティブ制御を用いた制御法の違いを挙げる.流れに依存した工学的システムのパフォーマンスを向上するためにパッシブな方法またはアクティブにコントローラーやセンサー,アクチュエータなどを用いてかく乱を導入する.このようなアクティブ制御・パッシブ制御や上安定性の抑制・増進を考慮することは,乱れまたはカオス的な振る舞いをするような高レイノルズ数流れは,主に工業的アプリケーションにおいて見られ,続くSectionでの主な主題となっている.これらはより複雑な制御へと進歩を遂げている.具体的には,流れ場の均一性を高めるために流れのあちこちに乱れやカオスを発生させる,増進させる単純な方法から,そのような増進を減じることを狙ったより複雑な方法まで多岐にわたっている.この問題に対して実験的方法と数値計算的な方法の両面から解決しようとする方法論が複雑な流れ場の制御を伴うような困難なレベルを解決するために求められている.最後のSectionは具体的なアプリケーションに関する問題に割いており,より発展した航空機システムの作動中に求められる安全性を,実際に流れのコントロールシステムを構築・デモンストレーションし,実用性を証明するときのことを具体例としてあげている.
Chap6-Control of Free Turbulent Shear Flows, H.E.Fiedler
この章におけるトピックは,自由せん断乱流の制御方法や制御の可能性について説明することである.始めのSectionでは自由せん断乱流の一般的な特徴や,なぜ,またどのようにして自由せん断乱流の制御を行うのかについてまとめる.その後の2つのSectionでは3つの代表的な流れ場―噴流,後流,混合層―に焦点をおいて述べる.というのはこれら3つの流れ場においては制御の目的や目的に対する流れの制御方法がある程度確立されているからである.4つ目のSectionではこれまで述べてきた3つの古典的な流れが組み合わさった場合と自由流れと壁面に束縛された流れの組み合わせ―最近実用的な側面からも需要が増えてきた―について取り扱っている.それらの流れ場の特徴についていくつか述べ,流れの制御の方法や可能性について示している.
Chap7-Near-Wall Turbulence Control, A.Pollard
壁面近傍乱流の制御が,この”Flow Control”という短いレビュー内での本論文の主題である.乱流境界層流れの構造や壁面近傍乱れ領域について特に考慮し,いかにパッシブまたはアクティブに構造を変化させて抵抗軽減するかについて述べる.この論文はこの流れ構造の様々なパッシブまたはアクティブ制御法,例えばリブレットの挿入やhumplet,スパン方向の壁面の振動,選択的干渉(selective interference),境界層内にすでに存在しているのとは異なる様々なスケールの乱れの導入などについて検討する.
Chap8-Combustion Enhancement by Active Control, E.Haile et al.
アクティブ制御は燃焼の分野において多くの潜在的な応用を秘めている.燃焼上安定性のアクティブ制御は様々な研究室レベルでの燃焼器において成功を収め,その実用レベルでの利用が現在模索されている.アクティブ制御は燃焼システムの最適化にも適用できるようになってきている.例えば外部コントローラーをシステムの安定性限界を拡張するために用いたり,排気ガス中の温度分布を修正するために用いられたりしている.この論文では燃焼器の改良に向けたアクティブ制御の実用例について述べ,特に汚染物質排出の低減に焦点を絞って話を進める.燃焼のアクティブ制御の背景について,NOxの低減,外部かく乱に対する火炎の相互干渉実験のレビューの順で述べていく.アクティブ制御の1つであるリアクティブ制御の分野に関しての実用可能性についても述べている.アクティブ制御の応用例は近年得られた様々な実験結果を引用して提示している.
Chap9-Chaos, Coherence and Control, Troy Shinbrot
1976年,ウェルナー・ハイゼンベルグは死の床についた.彼は死に際においてこう言ったと伝えられいる.「私は神に対して2つの疑問をもっている.なぜrelativity(相対性-電子量子力学についての疑問-)なのか,なぜturbulenceなのか.神は始めの質問に対しての答えを持っているかもしれないと私は確信を持って思う」と.この章では2つ目の質問について焦点を当てたい,”なぜturbulenceなのか”.特に,我々は乱流を制御できるのか,またどのように乱流を制御するのかという疑問に対して十分理解できるように努めたつもりである.これは野心的な試みであり,学ぶためにはいくつかの扱い易いトピックに分割する必要がある.そこでこの論文では2つの問題について議論したい.始めは低次元で時間的にカオス的挙動を示す際の制御に関するここ10年の進展についてレビューすること.2つ目は空間的にはカオス的挙動を示すが,時間的には規則的なシステムをいかに操作するかについての最新の研究を示すこと.我々は時間的にも空間的にも予測上可能な真の乱流の制御についての研究の予測を非常に短い検討してまとめる.
3.6 Mixing Enhancement in Supersonic Free Shear Flows (Gutmark et al. Ann. Rev. Fluid Mech., 27 1995)
1.1 Large-Scale Structures in Subsonic Shear Layers
Brown&Roshko(1976)の平面混合層に関する研究により過去20年に及ぶ大規模渦構造研究への関心が高まり,全てのせん断層流れ(平面混合層や噴流-平面噴流・軸対称噴流・楕円噴流・矩形噴流-,後流)の動力学を支配するのは大規模秩序構造であるとの考え方が支持されている. これら2次元構造は非圧縮せん断層におけるエントレインメントや混合プロセスにおいて重要な役割を果たすことが分かっている.この分野に関する研究は数多く行われてきており,包括的なレビューがHo&Hurre(1984),Hussain(1986),Wygnanski(1987),Liu(1989), Fiedler(1988),そしてRoshko(1992)らによって書かれている.ここでは大規模秩序構造に関する基礎概念を要約する.
せん断層における秩序構造の形成は非粘性流れのレイリー方程式によって支配されているケルビン・ヘルムホルツ上安定にその端を発する.速度変動と渦度変動の指数関数的な成長が非線形過程をもたらし,最終的にせん断層の渦へのロールアップを引き起こす.初期の渦放出周波数f-また最も増幅される周波数-は,出口流速分布やその形状,乱流構造,初期せん断層厚さ,そして噴流出口流速などによって決定される.初期増幅(無次元化)周波数(ストローハル数)は,線形安定性理論により0<Stq<0.04の範囲内であるとMichalke(1965)によって予測されている.
初期せん断渦はせん断層内で成長し,下流に移流されるにつれて"pairing"と呼ばれる過程において合体する.渦の融合やエントレインメントによりせん断層は広がり,大規模渦に関連した周波数は減少する.大規模渦構造による非回転エントレインメントは,渦の存続している間,本質的には混合していないエントレインメントされた流体を放出する.しかしながら,強い混合が渦合体過程や他の融合過程において生じる.区切り板のいくらか下流において,2次的なspanwise方向の上安定性が現れ,流れ方向渦の発達を導く.これらの渦が現れると混合過程が促進される.この過程は,Breidenthal(1980)によって"混合遷移"と呼ばれている.
組織だったリブ構造を形成するこれらの流れ方向(streamwise)渦は,spanwise構造と相互干渉を起こす.下流方向へ進むにしたがって,相互干渉はせん断層内で3次元的構造を増幅し,小規模スケールが支配的流れへの遷移や高次の上安定性をもたらす.
噴流のせん断層においては,平面混合層では存在しないノズルの幅(または直径)が新しい長さスケールとしてを導入される.渦相互干渉の数は,ノズルとポテンシャルコアを取り囲むせん断層の間に限定される.ポテンシャルコア終端領域での噴流特性は,噴流コラム上安定により決定される(Crow&Champagne(1971)).
この領域での速度変動が,prefferd modeと呼ばれる特徴的な周波数を有することが発見されている.このprefferd mode周波数は典型的には,初期せん断層の上安定周波数の2~3?低調波である.噴流出口流速とノズル直径によりこの周波数スケールが,prefferd modeストローハル数として定義できる.このストローハル数の範囲は過去の研究(Ho&Huure)により0.25から0.5の範囲内であることが発見されている. 噴流と平面混合層の違いとしては他に,噴流は方位方向上安定モードの強度を補うことが出来ることがある.spanwiseモードと方位方向モード間の相互干渉は,初期大規模秩序構造の小規模乱れへの崩壊をもたらす.
1.2 Role of large-scale structures in subsonic mixing enhancement
せん断層において大規模秩序構造が存在し,この構造が流れの上安定性と関係を持っていることはせん断層の発達過程をコントロールでき,せん断層の持つ混合特性に影響を与えられることを示している.
一般的に,大規模秩序構造はバルク混合の促進にとって有益であるが小規模混合や分子混合を妨げる.この小規模混合や分子混合は,例えば反応流れにおけるアプリケーションにおいては必要なものである.大規模での混合と小規模での混合の両方を促進することは,上安定モードの組み合わせて励起することで達成することが出来る.
コントロールを適用するためには基本的に2つのアプローチ方法がある.1つはパッシブ制御,これは流れの基本的な幾何学的形状を利用して,せん断層の上安定特性を変化させるために流れのはく離を起こさせる方法である.この方法の適用例としては,平面混合層にトリッピングワイヤーを挿入したもの,渦巻き型のスプリッター壁を取り付けたもの,正方形噴流や矩形噴流,楕円噴流のような非円形噴流を用いたもの,抵抗軽減を狙って円柱の後方にスプリッター壁をおいたものなどが挙げられる.他に非反応流・反応流中のパッシブ制御の例は,Schadow&Gutmark(1989)によってレビューが出版されている.
コントロールのもう1つのアプローチ方法として外部励起を伴うものがあり,これはアクティブ制御と呼ばれる.この方法は,考慮している中間値に対して最大限の受容性(receptivity)を達成するように選ばれる.流れは変動フラップや振動リボン,ピエゾ(圧電性)表面,音響励起などの方法によって励起することが出来る.流体力学的な方法としては吸い込みや吹き出しがあり,熱的な方法としては加熱ストリップや電気放電,等が挙げられる.また自由流れの調節などもある.効果を最大限にするために,外部かく乱は流れの自然増幅を利用することの出来る流れの上安定性に合わせるべきである.Crow&Champagne(1971)は,乱流円形噴流のアクティブ制御を行った.彼らは噴流の成長率を高め,より秩序だった渦構造を生成するために,噴流のprefferd modeを用いて音響励起を行った.適切な周波数を選択することにより,せん断層の成長率やエントレインメント特性は促進することも出来れば抑制することも出来るのである.
3.7 Management and Control of Turbulent Shear Flows (Fernholz, H.H., ZAMM, 73 1993)
この論文ではまず始めに歴史的な側面についていくつか触れて,その後パッシブ制御,アクティブ制御について書いていく.またleading edgeにおけるはく離の制御の研究について検討している.他には自由せん断乱流の制御に重要ないくつかの典型的な流動現象のについても触れている.はく離制御については,まずはく離のアクティブ制御を始めに述べて,続いて再付着や閉じた逆流領域の形成を制御するためにはく離境界層を励起した研究結果について紹介する.最後に流れ場の制御について何点か述べて終える.
3.8 Feedback control of turbulence (Moin, P.& Bewley, T., Appl. Mech. Rev., 47 1994)
近年,乱流制御の分野において数多くの重要な進展が見られる.これらについてのレビューとしては,Bandyopadhyay(1986),Bushnell&McGinley(1989),Blackwelder(1989),Fiedler&Fernholz(1990),そしてGad-el-Hak(1989,1993)などが挙げられる.この論文は特に乱流制御のアクティブフィードバックについて焦点を絞って取り上げている.
アクティブ制御とは流れ場に対して外部からエネルギーを注入する方法である.外部からのエネルギーとしては非定常に壁面を操作したり,指定した動きをするアクチュエータを利用する方法がある.パッシブ制御はこれとは逆に,流れ場へエネルギーを注入しない方法を言う.パッシブ制御としてはリブレットを用いた壁面抵抗軽減を狙った研究 (Choi et al.(1993), Walsh (1990))や,層流境界層を安定化させるために流れ場に対応した壁面を設置する(Riley et al.(1988))などの方法がある.
アクティブ制御において外部から加えるエネルギーは前もって決められているか,流れ場をリアルタイムに計測しその計測結果を用いて出力を決める方法(closed-loop または feedback controlと呼ばれる)がある.噴流の分岐や開花を促すために円形噴流に周期的な励起を与える方法(Lee&Reynolds(1985))や,壁面近傍において流れ場の乱れを再構築するために電磁流体のローレンツ力を用いたものなどは乱流における効率的なopen-loop制御の代表的なものである.しかしながら,すでに乱流中に存在する変動成分も考慮して制御を行う場合は,この変動成分のランダムな性質のためにopen-loop制御の効果が減少してしまう.このような場合,我々は流れ場に存在する乱流諸量の状態を計測した上で時空間的な分布が変化する制御入力を求める”フィードバック制御則”を構築する必要がある.どのように乱流諸量をセンシングし,どのような制御入力を与えればよいか,その数学的な関係については体系的にこの論文で議論していく.本論文中でフィードバックという言葉を用いる場合は,Ho&Huerre(1984)によって議論されているような,下流の流れ場の状況が上流へ影響を及ぼすという意味のフィードバックではないことに注意して欲しい.
アダム・スミス『労働の分割』(1776)
始めのころのエンジンでは,1人の少年がピストンが上昇するか下降するかによって,ボイラーとシリンダーのつなぎ目を交互に開けたり閉めたりするために常に近くにいる必要があった.会社で働くことの好きな少年達の中の1人が,紐をバルブの取っ手から機械の他の場所へつなぐことによって,バルブが少年の手を借りずに勝手に開いたり閉まったりすることを発見した.それにより彼は仲間と遊ぶ時間を得ることが出来た.
本論文ではバルブがアクチュエータであり,我々が機械に近づくためのポイントがセンサー,そして紐がフィードバック制御則となる.機知に富んだ少年のように,我々は一番良いベストな紐の構築を追求する必要がある.
乱流中に存在する秩序構造の重要性は,乱流能動制御を行う上で物理的な基礎として重視されてきた.フィードバックを通じて,制御入力がこれらの構造を操作すると思われる.ここで乱流のフィードバック制御には数学的な困難さが生じる.乱流の幅広い時空間的なゆらぎによって,乱れの再生成を担う上安定な秩序構造や望ましい効果をもたらすような制御入力分布を特定するのが難しいのである. 流動場全体の特性をセンシングして流れ場のある特定の点の流れを変化させるような大スケールの流れの制御が研究されている.1つのアプリケーションがICエンジンである.これは噴射される燃料の量を化学量を一定の保つような線形2次レギュレータ用いることでアクティブに制御し,汚染物質の排出の抑制かつ効率アップを目指したものである.他の例としては,燃焼の最適化がある.この研究では様々なオープンループのアクチュエータ(スピーカーや渦発生ジェット)をパラメータとし,圧力変動成分を最小にし熱の拡散を最大とするような最適制御アルゴリズムに基づいてゆっくりと変化させている.この論文の目的は現在の技術上最もチャレンジングな問題である”乱流変動成分である小スケール運動の制御”についての最近の動向について研究する.
乱流のフィードバック制御は鳥と魚のように相容れないものであった.鳥の羽やサメの肌のように境界条件を変化させることで流動構造の変化をもたらすものから,流れに逆らうように泳いでいる魚が抵抗が最も減るように体を曲げるような形状の変化まで幅広い.人類はつい最近になってようやくアクティブ制御により乱流を変化させるための十分な知識を得た.ここ数年のこの分野における数学的な発展もあり,乱流の性質についてレビューが書かれたりしている.我々はどのようにしたらこれらの新しい知見がこれまでに発見されてきた現象と一致するのかを調べるつもりである.
この論文は被制御対象の流動場の支配方程式より導かれた数学的な関係式を検討することにより,フィードバック制御の現在行われている研究について分類する.1つ目は適応型制御についてまとめる.この制御方法は流動場の詳細を知らなくても学習アルゴリズムなどを使用することにより乱流変動に対応したコントローラを構築するというものである.続いて物理的な知見に基づいた制御方法について触れる.この方法は秩序構造が定性的に明らかにされている流動場において一定の成功を収めている.ダイナミカルシステム制御についても述べる.この方法では乱流をいくつかの代表的なモードに分解して,これらのモードのダイナミクスについて検討することによって制御則を決定する.最後にナビエ-ストークス方程式に適用された最適制御理論に基づいた方法を紹介する.この制御方法は最小にしたい物理量を数学的にコスト関数として記述して,そのコスト関数が最小になるように制御入力分布を決定する.
流れ場の小スケール運動を直接センシングし,駆動するようなデバイス(アクチュエータ)について,この論文の最後の部分で触れる. 線形安定性理論は流れの制御問題を考える際,非常に役立つ.例えばある流れ場では全ての撹乱が成長しながら下流方向に運ばれる.このような場合,流れ場は対流上安定であるという.これとは逆にいくつかの成長波が上流へ戻ってきて初期撹乱が中立化した後でも流れ場を乱すような場合がある.これは絶対上安定と呼ばれる.対流上安定である流れ場では,撹乱の発生する地点付近でアクティブ制御を適用すると非常に効果が大きい.
安定性問題に密接に関連している受容性(receptivity)の問題もまた特別な流れ場において安定なモードと上安定なモードが特定することにより得られた制御則を構築する上で指針となる.制御に関連した話題ではあるが,この原稿においては安定性や受容性については割愛した.
3.9 Modern developments in flow control (Gad-el-Hak, M., Appl. Mech. Rev., 49 1996)
流れ場を望ましい状態に操作することは非常に工業的に重要なことである.学問的にも工業的にも,近年流れ場の制御は流体力学・流体工学の分野においておそらく一番注目を集めている分野であろう.本論文の著者は7年前にこの話題についてレビューを書いたが,今回Applied Mechanics Reviewsのチーフエディターとしてこの話題についてもう1度書かせていただく機会をいただいた.
Bushnell&McGinley(1989),,Fiedler& Fernholz(1990),Gad-el-Hak&Bushnell(1991),Moin& Bewley(1994),Gad-el-Hak(1994)など1989年以来数多くの乱流制御に関するレビューが書かれている.いくつかの有益な話題についてはBushnell&Henfner(1990)によって編集された本の中に書いてあるので参照して欲しい.
3.10 Micro-Electro-Mechanical-Systems (MEMS) and Fluid Flows (Chih-Ming Ho et al. Ann. Rev. Fluid Mech., 30 1998)
1980年代の後半から発展してきたマイクロマシニング技術によってマイクロ・オーダーのセンサーやアクチュエータを構築することが出来るようになった.これらのマイクロ・トランスデューサをリアルタイムで制御を行えるMEMSとして組み立てることで信号の調節や処理を行える.一方で,マイクロ・スケール下で制御を行う場合幅広く敷き詰めなければ成らないことから,このようなマイクロデバイスを用いる際に表面形状の影響を流れ場において考慮しなければならない.我々は運動量方程式からこの表面力について再検討する必要がある.デバイスが小さいために,作動流体が気体である実験の場合クヌーセン数が大きくなり,それゆえ境界条件を修正する必要がある.MEMSの技術的応用に加えて,MEMS技術により流体力学研究の基礎的な分野において数多くのチャレンジングな研究が進むものと思われる.
3.11 Jet Flows and Turbulence Control (Kibens, V. AIAA Paper 89-1051 1989)
噴流は,幾何学的形状の複雑性やマッハ数・レイノルズ数の影響など様々な因子が絡み合った現象であり,その構造を的確に表現するためにはさらなる流動構造に関する情報が必要である.いかなる計測機器・計測装置を用いてもその計測限界があり,それゆえに計測されたデータから有用な情報を引き出すためには流れ場が十分特徴付けられていなければならない.適切な流動場の記述と十分特徴付けられているかの区別はおいておき,これまで用いられてきた計測装置で複雑な流れ場を計測しても流動場全体の平均量しか得られないことは明らかであり,より細かい流動構造に関する情報はいまだ未解明である.逆に現在ある計測装置を用いると,ある一定の解像度までの流動場であれば情報を抽出できる.現在の解像度では見ることの出来ない重要な特徴を持った構造が存在するかどうか,また何がその構造を構成しているかなどは,推測の域を出ない.現象を解明できうる解像度のレベルにより,その流動構造を制御することが出来るかどうかのレベルも決定される.
この論文は噴流の流動場を現在の実験機器・計測機器により得られた新たな情報から検討し,かつより高レイノルズ数流動場においても適用できる研究ストラテジーを推定することが目的である.
4.日本人による乱流制御レビュー
ここでは,日本人によって書かれた乱流制御のレビューを紹介する.これまで発表されているレビューの中で圧倒的に数が多いのが笠木[12]-[17]である.包括的なレビューとしては[13][14]が挙げられる.[12][17]については主に壁乱流(乱流境界層)の制御をメインターゲットとして解説している.[12]は乱流境界層のパッシブ制御についてよくまとめられており,1980年代までの主な境界層のパッシブ制御に関する知識を得ることが出来る.また,乱流境界層の構造についても触れている.DNSを用いた乱流制御レビューは,[15][16]である.[15]では制御スキームの話題について詳しく触れており,物理的知見を元にした制御(physical argument based control)・非線形力学理論を基にした制御(dynamical system theory)・(準)最適制御(optimal control or sub-optimal control)・適応型制御(adaptive control)などについて説明している.[8]の論文の抜粋版としても読めるであろう.[16]では前半でDNSの発展について解説し,後半でアクティブ制御について触れている.笠木研で行ったデータを元に話を進めている.笠木研では能動制御の研究と並行して,乱流中の構造をセンシングするためのマイクロセンサの開発も進めている.[17]の論文は笠木研とマイクロセンサの開発を共同で行っている(株)山武の技報に載せられたもので,壁面マイクロセンサの開発について詳細が載っている.笠木研では,アクティブ制御に対して実験的・数値的にアプローチを行っており日本における能動制御研究のリード役となっている.
[18]の論文は機論の特集「せん断乱流の制御」の冒頭記事である.題吊の通り乱流境界層の抵抗低減制御(著者は制御と呼ばず,操縦と呼んでいる)に関する論文であり,前半で境界層を物理的視点から解説し,後半でパッシブ制御であるLEBU板・リブレットについて述べている.前半の物理的考察の部分は学ぶべきところが多い.
豊田は噴流の制御,特に非円形噴流を用いた際の渦構造の変化について数多くの研究を行っており,[4]のF.Hussainらとの共同研究もある.[19][20]は自由せん断乱流の中でも特に噴流に焦点をあてて制御について解説している.豊田の論文の特徴は,渦構造の変化に着目し論を進めている点であろう.
[21]の論文は”ながれ”に掲載された見開き1ページものであり,学会の同吊セッションのレビュー記事であるので詳しい解説はない. これまでの乱流制御レビューは主にせん断乱流に関するものが多かったが,[22]-[24]は乱流遷移の制御,熱・物質移動の制御に関するものである.元々乱流制御に関しては層流-乱流遷移過程の制御が主なトピックであった.[22]はその乱流遷移の制御に関するレビューである.遷移過程の制御に関する基礎的な事項についてまとめられている.[23]は主に相変化伝熱の制御について,[24]は衝突噴流伝熱の制御に関するレビューである.それぞれ包括的なレビューとは言いがたいが,各分野に関する受動・能動制御の基礎的な知見が得られるものと思われる.
※文章中の[]の数字は参考文献番号を指す.なお参考文献については,以下を参照.
参考文献
[1]Lumley, J.&Blossey, Control of Tuebulence, Ann. Rev. Fluid Mech., 30 (1998), 311.
[2]Gutmark, E.J.&Grinstein, F.F., Flow Control with Noncircular Jets, Ann. Rev. Fluid Mech., 31 (1999), 239.
[3]Liu, J.T.C., Coherent Structures in Transitional and Turbulent Shear Flows, Ann. Rev. Fluid Mech., 21 (1989), 285.
[4]Hyder,S.H.,Bridge, J.E.&Hussain, A.K.M.F., Turbulence Management in Free Shear Flows by Control of Coherent Structure, Int. Symp. Transport Phenomena in Turbulent Flows, ed. M. Hirata, N. Kasagi, 1988, 111.
[5]Gad-el-Hak, M., et al., ed., Flow Control ? Fundamentals and Practices, Lecture Notes in Physics, m53, Springer, 1998.
[6]Gutmark,E.J., Schadow, K.C.&Yu, K.H., Mixing Enhancement in Supersonic Free Shear Flows, Ann. Rev. Fluid Mech., 27 (1995), 375.
[7]Fernholz, H.H., Management and Control of Turbulent Shear Flows, ZAMM 73 (1993) 11, 287.
[8]Moin, P.&Bewley, T., Feedback control of turbulence, Appl. Mech. Rev., 47-6-2 (1994), S3.
[9]Gad-el-Hak, M, Modern Developments in Flow Control, Appl. Mech. Rev., 49 (1996), 365.
[10]Ho, Chih-Ming., Tai, Yu-Chong, Micro-Electro-Mechanical ?System (MEMS) and Fluid Flows, Ann. Rev. Fluid Mech., 30 (1998), 579.
[11]Kibens, V., Jet Flows and Turbulence Control, AIAA Paper 89-1051, 1989.
[12]笠木伸英, 乱流現象の制御-その展望-, 日本機械学会
[No.920-75]セミナー教材, 乱流の制御とその応用 (1992), 1.
[13]笠木伸英, 乱流のスマート・コントロールに向けて,日本航空宇宙学会誌, 48 (2000), 155.
[14]笠木伸英, 知的乱流制御の展望, 乱流の解明と制御に関するシンポジウム, 航空宇宙技術研究所特別資料36号 (), 133.
[15]笠木・佐竹, 乱流制御とDNS, ながれ, 16 (1997), 188.
[16]Kasagi, N., Progress in direct numerical simulation of turbulent transport and its control, Int. Heat Fluid Flow, 19 (1998), 125.
[17]鈴木・笠木, 壁乱流の知的能動制御, セーブメーション・レビュー「マイクロフローセンサ特集号」, (株)山武技報, (2001), 50.
[18]大坂英雄, 流れの制御と操縦(境界層の抵抗低減操縦), 機論B, 63-605 (1997), 2.
[19]豊田国昭, 噴流・後流(大規模渦構造と制御), 日本機械学会第67期通常総会講演会資料集 (Vol.D) (1990), 251.
[20]豊田国昭, 流れの中の渦とその操作, 可視化情報, 13-51 (1993), 12.
[21]本橋龍郎, せん断応力の構造とその制御, ながれ, 14 (1995), 140.
[22]西岡通男, 乱流の発生とその制御, 日本機械学会
[No.920-75]セミナー教材, 乱流の制御とその応用 (1992), 11.
[23]土方邦夫, 乱流における熱・物質伝達の促進と制御, 日本機械学会
[No.920-75]セミナー教材, 乱流の制御とその応用 (1992), 29.
[24]片岡邦夫, 衝突噴流伝熱の促進と制御, 熱流体フォーラムシリーズ1「熱流体とエネルギー」, 日刊工業新聞社, 1996.
作成日:2001年6月28日