お客様ニーズが見える ID-POS分析。
今回の記事は生産性向上のご提案です。いつものID-POS分析の話は巻末に「香の物」程度に添えられているだけですので、全ての業種、全ての役職の”働く仲間”の皆様に楽しんで頂けるものと思います。
生産性向上というテーマは、「忙しい」から分析なんかしていられない、ウチのバイヤーには「難しい」から使いこなせないという理由でお断りされがちな、ID-POS分析と密接に結びついています。
お断りをされる度に、「忙しい/難しい(余力がない)」という小売業さまを取り巻く状況と、私たちの「(余力さえあれば)ID-POS分析でもっと『お金を生み出す』事ができるのに」という思いがすれ違っていることに、心中忸怩たる思いを抱えておりました。
生産性向上こそが、本来ID-POS分析の前にご提案すべき事案である為、口幅ったいようですが本稿にてご提案させていただきます。
以前、品揃えの絞り込み VS 豊富な品揃え の冒頭でも書かせていただいたように、対立に思える殆どの事象の背景には、仮定の誤り(あるいは言葉の定義の不一致)があります。
「品揃え」のケースでは、その「仮定の誤り」は売り手視点(「SKU」)と買い手視点(「ニーズ」)という立場の違いから生まれていました。それに対し、「生産性」という言葉がもたらす「仮定の誤り」は、物的生産性と付加価値生産性という二面性が、漠然と都合の良いように使われていることに起因します。この二つの生産性を簡単に言ってしまえば、前者が「モノを生み出すスピード」、後者が「お金を生み出すスピード」です。
近年「生産性」という言葉がかまびすしく叫ばれていますが、多くの企業が生産性という言葉を「モノを生み出すスピード」寄りに仮定しているようです。
不良在庫も生み出されたモノです。
お金を稼ぐ事を生業としている私達にとって重要なのは、あくまでも「お金を生み出すスピード」です。
次の図のAさんとBさんは、同じ生業を持つものとします。
Aさんは精力的にテキパキと働き、紙の資料をはじめとしたモノを生み出し続けています。Bさんはソファに座ってスマホを眺めています。
二人の前には山一つ分の同量のコインが置かれています。
これは二人の「お金を生み出すスピード」が同じである事※を示しています。
精力的にテキパキと働くAさん
スマホを眺めるBさん
※.モノを生み出すには経費が掛かります。また、多くのモノは在庫の増加、要らぬ炎上リスクの発生に繋がります。お金=儲けですので、実際には既にこの時点でBさんの方が生産的です。
次の図のBさんの前には、コインの山が四つ置かれています。
これは、スマホを眺めるBさんの「お金を生み出すスピード」が、精力的にテキパキと働いているAさんの四倍である事を示しています。
精力的にテキパキと働くAさん
スマホを眺めるBさん
勤労、それも目に見えるそれを美徳※と見る向きには、楽して儲けているように見えるBさんは受け入れ難いかもしれませんが、生産性を「お金を生み出すスピード」と定義した場合、その評価はプロセス(労働)ではなく結果(儲け)で決まります。ですから、単純にその定義から生産性を図示すれば、必然的にこの図のようになります。
実際に少子化、ワークライフバランス、AI等、私たちを取り巻く世の中の流れ自体が、大なり小なりBさん的な生産性を志向していますし、選べるのであれば、あなた自身もBさんのように働きたいのではないでしょうか?
誤解を恐れずに言うならば、生産性を高めるという事は、あなたとあなたのチームが「如何に楽して儲ける状態に近付けるか」です。
※.顧客に貢献する気高さこそが美徳であって、忙しい事が美徳な訳ではありません。
図ではBさんが「楽して儲けている」ように見えますが、Bさんがこのような状態になれた裏には、Aさんには無い(場合によっては既存の市場に留まらない)「アイデア」とその生産があったはずです。また、仕事のお金は市場からしかもたらされませんので、そこには確実にAさん以上の市場からの評価があります。
ここまでの生産性の定義上、それが運であったのか、天賦の才であったのか、脳みそから汗をかくようにして絞り出したものなのかは、関係ありません。
しかし多くの場合、市場に評価されるアイデアを生み出し続けることは、それ自体が極めて困難な生産活動です。
いずれにせよ、Bさんが一つのアイデアにかまけ、余力を新たなアイデアの創造に使わなければ、いずれAさんのように勤勉な競合に模倣され、過当競争に陥ってしまうことでしょう。
過当競争、すなわち生み出すモノの価値が、市場から見て競争相手と大差ない、もしくは真似がし易い安直なものの場合、モノを生み出すスピードが(利益率の低下により)お金を生み出すスピードに近づき、(付加価値の競争よりも)物的生産性の競争が優勢を占めるようになります。
簡単に言ってしまえばこれは、物的生産性 ≒ 付加価値生産性という状況ですから、生産性という言葉を明確に区別できていない企業は過当競争下にあります。
そしてその根底には、過当競争から抜け出せないアイデアの欠如、もっと言えばビジネスモデルの浅薄さがあります。
過当競争に追われる事となったBさん
過当競争下でモノを生み出す事に追われるばかりでは、市場から見て競争相手との間に差を生み出す、競争相手にとって真似がし難いアイデアはいつまで経っても生まれません。過当競争を脱するアイデアを生み出すためには、大きな余力が必要なのです。
その意味では、生産性を高める事の本質は「余力を生み出す事」※と言えます。
※.解説は避けますが、TOC(Theory Of Constraints:制約条件の理論)の観点からすれば、物的生産性にすら余力は必要です。
「余力を生み出す事が本質」といっても、日々の「モノを生み出す事」に追われている現場では、その「余力」をどうやって最初に生み出せばよいのか?「言うは易し」ではないか、という反論もあるかと思います。
しかし、余力を生み出す方法は、驚くほど単純です。
まずは、あなたの会社、もしくはあなた個人の仕事を棚卸しして、大雑把に次の図の通り「お金を生み出す仕事」と、「法令を遵守するための仕事」、「どちらにも関係ない仕事」の3つに仕訳してみることです※。
※.具体的には、例えば「会議」がどれに分類されるのか?と考えるのでは無く、現に存在する幾つかの会議を「お金を生み出す会議」、「法令を遵守するための会議」、「どちらにも関係ない会議」に仕訳して下さい。
法人に必要な仕事の三分類
法令を遵守しつつ、お金を生み出すのが法人である以上、答えは明確です。
すなわち、「どちらにも関係ない仕事」を『やめる』ことです。次いで「法令遵守」への過剰な反応が無いかを確認し、それが認められれば、それもやめる対象となります。
たったそれだけでも、企業にはずいぶんな余力が生まれるはずです。
「人間は機嫌よく働いている時が最も生産性が高い」というのはよく言われる言葉です。売る人が売ることに、作る人が作ることに集中できれば、お金を生み出すスピードがより一層速くなるであろうことは言うまでもありません。
「お金を生み出す仕事」、「法令を遵守するための仕事」、「どちらにも関係ない仕事」を仕訳すること無く効率化へと邁進すれば、やめるべき事を効率化し、コストをかけて存続させ続けるという茶番になるのですから、目も当てられません。
例えば、かつて隆盛を誇ったチェーンストアを思い浮かべてみてください。規模を拡大して仕入れ量を増やし、原価を下げることで「圧倒的な低価格で提供できる」事がチェーンストアのビジネスモデルのはずです。しかし、日本最大級のチェーンであっても「圧倒的という程安くない」という肌感覚を持ちませんでしたか?それは、前図でいうところの「どちらにも関係ない仕事」が肥大する事で、規模のメリットを上回り、規模のデメリットとなってしまったからに他ならないのではないでしょうか?
私たちが目にして来た時代の寵児とも言える企業の凋落の原因の一端は、まさにここにあるのかもしれません。
完全に客観的な棚卸しをしていただければ実感できるかと思いますが、現に「どちらにも関係ない仕事」は存在しています。
なぜそのような仕事が存在できるのかと言えば、それが「必要」だと信じられてきたからです。しかし、それこそが「仮定の誤り」なのです。
多くの場合、こうした「仮定の誤り」は、企業の成功体験に基づいた「フィロソフィー」と密接に紐付いています。
チェーンストアで言えば、「価格破壊」「ゼネラル・マーチャンダイズ・ストア」「ワンストップショッピング」「単品管理」「エブリディ・ロープライス」といった、仕訳の目すらも曇らせる企業の代名詞、必殺技たる自負を持ったフィロソフィーです。
これらの強力なフィロソフィーが、いつしか思考を差し挟む余地のない組織の「パラダイム(物事の見方)」を醸成し、「仮定の誤り」を強固に支えているのです。
そして更にたちが悪いのは、そのような「パラダイム」を持った、前図のAさんのように勤勉な社員がどの組織にも存在し、そのような社員ほど上層部から評価され、影響力を持つ立場になることです。その結果、彼らは、フィロソフィーをより徹底すべく、「手段が目的化している」事に気付かないまま、「どちらにも関係ない仕事」をどんどん増やして行くという事態を招くのです。
そういった根深いフィロソフィーの少ない中小企業にこそ大手を出し抜くチャンスはあるはずですが、こういった“代名詞”、“必殺技”の形だけを模倣してしまい、みすみすそのチャンスを逃してしまっているケースも多く見受けられます(個人的には、例えば中小企業が在庫評価の方法を、税務に適い簡便な売価還元法から、現場に複雑なオペレーションを強いる移動平均法に変えることが、「お金を生み出すスピード」にどの位影響しているのかを問いたいものです)。
往々にして最大の制約条件、まさに「言うは易し」はここにこそあります※。
※.ボトルネックの探索と特定という意味では、驚くほど簡単とも言えます。
成功者のフィロソフィーは、かつては「お金を生み出すアイデア」であったのかもしれません。
しかし、もしもそのフィロソフィーが、今現在、従業員の余力を奪い、「お金を生み出すスピード」の足枷となっていたならば、それこそが数々の「どちらにも関係ない仕事」の根っこ、「お金を生み出す仕事」「顧客貢献」への最大の制約条件です。
これは、Aさん的な勤勉な社員が、フィロソフィーを徹底しようとした結果、無自覚に増やしてしまう「手段の目的化」の具体的な痕跡です。あなたの会社にいくつ当てはまりますか?
会議の目的化: 意思決定に不要な「一応参加しておいた方がいい人」が多すぎる会議。
数字合わせの会議の多発: 既に決まった予算や目標に対し、現場の数字を無理やり合致させるための調整会議が多く、議論自体が新しい価値を生んでいない。
過度に細かいExcel書類の多さ: 意思決定に必要な本質的な情報ではなく、形式を整えるための書類作成に時間がかかっている。
「報告のための報告」の要求: 使用されない定型レポートの提出を義務付けている。
過剰な承認フロー: 承認者が多すぎる、または承認フローが複雑すぎ、決裁に時間がかかる。
マニュアル・ルールブックの肥大化: 例外処理が一切許されない硬直したプロセスになっている。
内向きな評価: 目標設定が「売上(お金を生み出す結果)」ではなく、「〇〇の実施件数」など「手段」の達成度になっている。
「受注ヒーロー」の弊害: 短期的な実績(受注)を優先し、無理な要求や非効率な条件を飲むことで、製造・提供プロセス全体に非効率と過剰な負荷(忙しさ)を残す。
私たちが提供するID-POS意思決定支援クラウドサービスBiZOOPeは、「市場のニーズに応える」事で競争相手との間に差を生み出す、まさに「お金を生み出す」ことに特化したツールです。
余力がなく「忙しい」からやらない、「難しい」からやらないと考える企業には、到底実行不可能な「競争相手にとって真似がし難い」という、うってつけの特性も備えています。
余力を生み出すアイデアである本稿と、お金を生み出すアイデアである「BiZOOPe」の組み合わせによる生産性向上という私たちのご提案に「仮定の誤り」は無いでしょうか?もしよろしければ、ぜひ皆様の職場で“査読”していただけましたら幸いです。