ブランドスイッチの技術と実務

非常に人気のある検索ワード「ブランドスイッチ」ですが、大きな問題が2つあります。

1)マーケティングの原則として、それは顧客が喜ぶ( ≒ 小売が喜ぶ)三方よしの政策か?
  相対的に”良くない”ものを販促しても、相対的に”良くない”事を顧客に認識させ、がっかりさせるだけです。
  顧客をがっかりさせる事は、小売にとってもプラスになりません(とは言え何が”良い”かの価値観メリット認識の組み合わせは様々です)

2)仮想敵と戦力差を(思い込みや願望では無く)正しく認識できているか?

ここでは1)については満たしている事を前提に、戦場は何処にあるのか?まず撃破すべき敵は誰か?BiZOOPeTapir_MK を使ったID-POSによるブランドスイッチについて記します。

以降簡単の為とは言え大変物騒恐縮至極ではあります、国や民族と戦争状態を例えに使わせて頂きます。

分析条件についてはID-POS分析の勘所 に準じます(最大パターン棚割採用店舗群での分析が基本となります)。

何故そうなるかの理由、用語、ロジック等については別途 【ロジック】実際には大量の計算が必要なのでBiZOOPeが計算します をご覧下さい。

1.戦場は何処にある?(マーケット・セグメンテーション)

図はサブカテゴリー = 小型炭酸飲料のマーケット・セグメンテーション結果から、スパークリングウォーターが集まった説明し易そうな部分を抜き取って来たものです(古いデータですみません)。

定義上、目立った併買は同一コードのseg_f内に限定され、同一コードのseg_n内では平均以上の併買が起こっています。

これは顧客の選択購買行動から導き出された選択が起こり得る二種類の範囲です。

ところがメーカー視点では、ひとたびこの範囲内に他ブランドが入って来ようものなら選択=競合ですから戦争が起こり得る二種類の範囲、ブランドスイッチの”戦場”と化します



そうなるとseg_fの境界線を競合が発生し辛い大洋を挟んだ大陸間の国境、seg_nの境界線を大陸内で一触即発の地続きの国境、その中に存在する各ブランドを民族のようにイメージすると分かり易いかと思います。

この世界(スパークリングウォーターマーケット)の覇者に最も近いのは、「採用順」2位の1stレコメンド「サントリー天然水スパークリングレモン」ですが、その国内(seg_n=f5_n8)に反抗勢力を抱えた内戦状態にあり、大陸内(seg_f=f5)についても国境を接する統一国家(seg_n=f5_n9)「コカ・コーラいろはすスパークリング」連合、中でも採用順8位の2ndレコメンド「スパークリングれもん」の脅威を拭い切れない消極的平和状態にあります。

「サントリー天然水スパークリングレモン」が強者とは言え、このような情勢の中、海洋を超え他の大陸に侵攻する事が愚策であるのは誰の目から見ても明らかです。

与する事が出来ない相手がいる以上、まずは国内(seg_n)、ついで大陸(seg_f)を平定して行くというのが戦略上のセオリーです(あくまでもメーカー視点であり、その平定を顧客が喜ぶかどうかは別問題とします)。

マーケットを絞り込んで戦う事は常套手段なのですが、通常我々にこのようなマーケット状況=戦況は見えていません。

その為しばしば戦う戦場そのものを見誤り、ブランドスイッチが起こる筈も無い大陸を跨いだ仮想敵との一人相撲、消耗戦へと突入して行ってしまうのです。

2.まず倒すべき敵は誰なのか?(各個撃破の原則)

「並び順」は隣合っているもの同士程(特に国境内において)併買=競合が多い事を示しています。

その為例えば「アサヒ飲料ウィルキンソングレープフルーツ」が倒すべき敵は、隣り合う「コカ・コーラザ・タンサン・レモン」「サントリー天然水スパークリングレモン」となります。

後者にいきなり挑戦するには現時点での戦力差(ID数:592 VS 3,408 )が余りに開き過ぎている為、まずは戦力差の小さい(ID数592 VS 842)「コカ・コーラザ・タンサン・レモン」を各個撃破する事で、その顧客を自軍に取り込んでしまう事を目指します。

原則は、1対1の状況を作るという事、相対的に弱い方を狙う事で力を増してから次を狙うという事です。



前門の虎後門の狼に挟まれ苦しい立場に見える「アサヒ飲料ウィルキンソングレープフルーツ」ですが、相互に併買が多いという事は、やり方次第で相手から大きな流入も期待できるという事ですから、「コカ・コーラザ・タンサン・レモン」の842人、「サントリー天然水スパークリングレモン」の3,408人という自前のものよりも広大なマーケットが眼前に広がっているとも言えます。

余談ながら戦場におけるこのような関係性を認識する事は、商品開発やPR方法にも大いに参考になるのでは無いでしょうか?

戦場に立たずして勝利する事はできない(陳列位置)

強い敵を目の前にして、こっそり隠れて生き長らえたくもなるものですが、戦場に立たずして勝利する事はできません。

「アサヒ飲料ウィルキンソングレープフルーツ」の立場としては、まずは「並び順」通り「コカ・コーラザ・タンサン・レモン」「サントリー天然水スパークリングレモン」の間に陳列してもらう事によって、より多くの人の目に触れ、比較検討してもらえる広大なマーケット=チャンスに身を置く事がスタートです



あなたに棚割の作成権があるとするならば、援軍を切り離し各個撃破を確実なものする為に「サントリー天然水スパークリングオレンジ」については離れた場所に陳列しておきたいところです(あくまでもメーカー視点であり、それが顧客にとってプラスかは別問題とします)。

戦力の増強(フェイシング数のからくり)

ランチェスター(第一法則)では”戦力 = 武器効率 ✕ 兵力”と考えます。

兵力差を補う武器効率を売価と見るか、ポイントと見るか、何と見るかには様々な解釈、方法が考えられますし、マーケットに兵力そのもの(新商品)を投入すると言った手も考えられます。

ここでは考え方の一例として陳列繋がりで、シンプルにフェイシング数だけを武器効率と見立てて考えてみたいと思います。

どんなに売れない商品であっても、取り扱うと決まれば必ず1フェイスが与えられます。

全商品が1フェイスの売り場であった場合、これは売れない商品に対して過剰に強力な武器が与えられ、売れる商品に対して不当に非力な武器が与えられているのと同じ状態です。一般に売れる商品程戦線が維持できずに欠品を生じさせたりするという弱者に有利な仕様なのです。

また決められたスペースの中で、ある商品のフェイシング数を増やすという事は、別の商品のフェイシング数を減らす事を意味しますので、弱者としてはこれを利用しない手はありません。

”戦力 = フェイシング数 ✕ ID数”と見れば、敵に勝つ為のフェイシング数として

(敵フェイシング数 ー 自増分フェイシング数)✕ 敵ID数 ≦(自フェイシング数+自増分フェイシング数)✕ 自ID数

が成り立ちます。

ここでは極単純に、減らされた後の敵のフェイシング数を1で固定とすれば、最低限”敵ID数 ≦ 自フェイシング数 ✕ 自ID数"となります。 

これを最初の敵である「コカ・コーラザ・タンサン・レモン」に当て嵌めてみれば、”自フェイシング数  ≧ 842 ÷ 592 ≒ 1.4 ” で、最低2フェイスを確保すれば良いことが分かります。

ここに更にPOP、単品ポイント、単品クーポン等の策を施せば、それ以上の武器効率の向上が期待できます。

局地戦では敵を正確に見定めたピンポイント攻撃が重要ですし、今の段階で盟主「サントリー天然水スパークリングレモン」に気づかれ、睨みを効かされるのも得策ではありませんから、フェイシング数の増強と同時に「コカ・コーラザ・タンサン・レモン」の利用者842人に絞って密かに、しかし一気呵成に極めて強力な単品クーポンを打つと言った手も考えられます。



「コカ・コーラザ・タンサン・レモン」を完全平定できたと仮定すると、あくまで理論上ですが、兵力(ID数)は1,380人となります(併買者が居ますので、理論上であっても単純和にはなりません)。

兵力の揃ったこの段に至ってはじめて、如何ともしがたい戦力差のあった「サントリー天然水スパークリングレモン」への挑戦権が生まれて来ます。

この時”自フェイシング数  ≧ 3,408 ÷ 1,3802.5で各個撃破に必要なフェイシング数は3となります。



最初からいきなり「サントリー天然水スパークリングレモン」に戦いを挑む事を考えた場合の必要フェイシング数は”自フェイシング数  ≧ 3,408 ÷ 592 ≒ 5.8 ”で6ですから、それよりは大分現実的な策になったと言えるでしょう。

現実問題この国内における真のNo.1となる為には、安定シェアである「サントリー天然水スパークリングレモン」のID数の√3倍迄を最終的には取りたいところです。

このように現実の戦場を知る事で正しい布陣を敷き、現実の敵を知る事で正しい宣戦布告相手と布告順が認識できれば、あとは様々な戦術を尽くして戦力差を埋め、各個撃破をして行くのがブランドスイッチの技術と実務です。

本ホームページで「単品ポイント」「単品クーポン」のように敢えて”単品”政策を例として挙げる事が多いのも、絨毯爆撃のように物量に任せた強者の戦略よりも、よりプリミティブで具体的故に汎用的な、弱者の戦略 = 各個撃破を意識してのものです。

以上、ブランドスイッチの技術と実務でした。