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ジャムの法則・松竹梅の法則|選択肢の科学

表題を「選択科学のあり得ーる?」にしようか逡巡しましたが、もういい歳なので自重しました。

商品の採用やカットにあたって、顧客に提示する選択肢の数を規定できないものか?と考えている最中に見つけたのが掲題の二つの法則です。

法則のあらましを以下に記しますので、詳細に興味のある方はお手数ですがググってみて下さい。

ジャムの法則

人間は選択肢が多過ぎると「どれにしようか?」という選択自体を放棄してしまい勝ちであるという法則で、決定回避の法則とも言われます。

コロンビア大学のシーナ・アイエンガー教授というが、24種類のジャムの試食コーナーと、6種類のジャムの試食コーナーとでは、集客は前者が多いものの、最終利用者が後者の方が多かった(利用者率で10倍)という実証実験結果を契機とし、最適な選択肢の数を 7 ± 2  と提唱したものです。

松竹梅の法則

「低価格、中価格、高価格」、「小容量、中容量、大容量」、「甘口、中辛、辛口」といった 3つ の選択肢があった場合、多くの人は真ん中を選んでしまい勝ちだという法則です。

選択に要する意思決定負荷が少ないという側面と共に、真ん中に自身にとって有利なもの(例えば粗利の高いもの)を持って来るという戦術的側面があります。

毛色は少々違いますが、確かに3という数字は収まりも良く、直感的にはその位から選択できれば良いかな?という気もして来ます。

しかし、ジャムの法則(7±2)には矛盾します。

一般的反論

商品によって異なる

嗜好品ほどより多くの品揃えが必要な筈であり、ジャムとは異なるというものです。

一方で、ニッチなもの程1SKUでも存在していれば「助かった!」と思ったりもするものです(イメージとして横浜在住の静岡人にとっての「しぞーかおでんの粉」)。

本当に嗜好品ほどより多くの品揃えが必要なのでしょうか?

によって異なる

ジャム好きであればより多くの品揃えから選びたい筈であるというものです。

が、スーパーマーケット、ドラッグストア、ホームセンターといったチェーンストアは、あくまでも”マス”を狙った”標準化”がキモであり、かのサム・ウォルトンさんも私のウォルマート商法で書いた通り、どちらかと言えば最も層の厚い”ビギナー層”を狙った商売です。

よってこの反論は私たちには該当せず、人によって異なる事は明白ながら、やはり平均±σ を狙うべきです。

だからこそ、平均±σ = 7±2 なのか?3なのか?を知りたいです。

私的に困った点

私的には7 ± 2 あるいは3が、どこに適用できる数字なのかが明確で無い、故に拠り所にしたくてもできない点が大問題です。

ジャムの法則と言うからにはカテゴリーでしょうか?
カテゴリーという括り自体が各社バラバラな上、ジャムで3はおろか7 ± 2 SKUというのは現実問題いささか少なします(サブカテゴリーですら余りお目にかからないような?)。

私たちの意思決定の物差しが、価格や容量と言った松竹梅の範囲に留まら無い気がする点も、どこの中にその数字を適用すれば良いのか?という疑問を更に深めます。

顧客は実際どう選んでいるのか?

BiZOOPeTapir_MK は、カテゴリーのSKUを顧客が売り場で実際に選んだ選択肢のウィンドウ(seg_nと言います)毎に分ける事が出来ますので、Tapir_MK で選択肢の数は実際のところ7±2なのか?3なのか?それはどこの中での話なのか?はたまた嗜好品ほど品揃えが必要なのか?を見て行きたいと思います。

コモディティーの代表をそのものズバリ「ジャム」とし、嗜好品の代表を果物繋がりで「ワイン」としてみます(データ的に「ジャム」には蜂蜜やあんこと言った「パンに塗りそうなもの」全て含まれていました)。

選択肢のウィンドウはカテゴリー平均の併買者率を上回るか否かによって導き出されるものですので、ここでは同じ平均値で同列に比較ができるよう「ジャム」と「ワイン」を個別にでは無く、あたかも一つのカテゴリーのように混ぜ込んで分析してみます。

カテゴリーを跨いでしまうと、多くの場合一つの選択ウィンドウに両カテゴリーのSKUが混在してしまう上、ウィンドウの数、分かれ方も変わってしまう為、通常は余り推奨できる方法ではありません
・理想的な選択状況を再現する為に、ある程度共通して品揃えされている店舗−商品の組み合わせを使っています。
・理想的な分析条件についてはID-POS分析の勘所 を、ウィンドウ分けの根拠について簡単にはQ2)なぜID-POSなのか? を、詳細にはTapir_MKによるマーケティングの教科書 をご参照下さい。
・現に存在している品揃えをベースとしている点に留意する必要があります。

表と用語の解釈<目的ウィンドウ と 選択ウィンドウ>

図は実際の分析結果から一部を抜粋して来たものです。

seg_fはこの枠外のSKUとの間で、ほとんどカテゴリー内併買=選択が発生していない事を示す単位です。

すなわち正にそれらを求めに来ている為、店舗や売り場の漠然とした利用目的の単位と言えます。ここではこれを目的ウィンドウと呼びます。

seg_nはこの枠内のSKU間でカテゴリー平均以上の併買=選択が発生している事を示す具体的な選択の単位です。ここではこれを選択ウィンドウと呼びます。

図で言えば、ざっくりとこの5SKU的なものを目的に売り場を訪れ、具体的にはスドーの3SKUもしくは まるごと果実の2SKUの中から選択を行っている人が多いという解釈になります。

各選択ウィンドウ中最も利用ID数の大きいSKUは、併買効果によってウィンドウ全体を最も活性化できるSKUである為、レコメンドが振られます。

ウィンドウ毎に一品づつの2ndレコメンド迄のSKUのID数の単純和が、当該マーケット参加者の総ID数を超えない場合のみ3rdレコメンドが振られます(3rdレコメンドが振られるのはレアケース)。

要は顧客が売れ筋に集中せずバラけているカテゴリー程、3rdレコメンドのSKUが表れる為、より好みが分かれる嗜好品的なカテゴリーと捉える事ができます(3rdレコメンドのSKU数がワインと同数だった分析結果を見て「ジャムも結構嗜好品なんだよなぁ〜」と今更。。。)。

・分析結果そのものは、ここで概観するにはやや大き過ぎたため、以降では主にカテゴリー毎、ウィンドウ毎集計した結果を示します。
・元となる分析結果は、本項巻末にダウンロード可能なEXCEL形式で掲載させて頂きます。

選択ウィンドウ内のSKU数は松竹梅の法則に近似する

図ではワインの利用者率が23.95%に対してジャムの利用者率が78.72%と、ジャムの方が相対的にコモディティーなカテゴリーである事を示しています。

それに対してSKU数は44SKUと多いワインですから(人が恣意的に品揃えしているとは言え)、これがより嗜好性の高いカテゴリーの特徴の一つなのかもしれません。

カテゴリー内の選択ウィンドウ数(seg_n数)はワインがf1_n1〜f7_n17の17ウィンドウであるのに対して、ジャムがf8_n18〜f13_n28の11ウィンドウであり「嗜好品ほどより多くの品揃えが必要」の真意が、SKUの豊富さよりも、選択ウィンドウの豊富さにあるのでは無いか?と推察されます。

そう言えば「品揃えの豊富さとはSKUの豊富さでは無く、用途・機能の豊富さである」という言葉を何処かで聞いた覚えがあります。

それに呼応するように各選択ウィンドウ内のSKU数は、ワインが平均、標準偏差(ばらつきの平均)ともにジャムを下回っており、まとめれば「嗜好品ほどマーケットの嗜好を隈無くカバーする為に多くの選択ウィンドウを必要とするが、こと選択ウィンドウ内で買うSKUについては、コモディティー以上に顧客の中では定まっている」という事になろうかと思います。


但し平均と標準偏差の関係は、四捨五入してしまえば共に 3±1 であり、松竹梅の法則の3に近似します。

各選択ウィンドウ(seg_n)における実際の値を見ても、最小値が2SKU、最大値がワインで4SKU、ジャムで5SKUですから、ジャムのf8_n19、f13_n28の2つの選択ウィンドウ以外は、この範囲内に収まっています。

3±1の選択幅をオーバーし、更には全SKUにレコメンドが付いた為カットも望ましく無い選択ウィンドウ=f8_n19の内訳は図のようになっていました。

ワインと一緒に分析していなかったら、併買者率平均の上昇により、惜しくも2ndレコメンドを逃した採用順29位に近い採用順31位のつぶあんトッピングが別の選択ウィンドウに分化した可能性はありますが、その場合つぶあんトッピング1SKUの選択ウィンドウが生まれ、やはり3±1の範囲を越えてしまいます。

まあ常に理想的なデータで分析できるケースも多くは無いでしょうし、売り場面積という制約がある以上、1SKUのみの選択ウィンドウを良しとせざるを得ないのもまた事実です。

嗜好品も豊富な選択ウィンドウは持つにしても、だからと言って限られた売り場面積の中、数少ない利用者に対して多くのSKUを割り当てるは経済合理性に反しますから、嗜好品程(特に利用ID数の少ない)選択ウィンドウ内のSKUは自ずと厳選し、絞り込む必要があります。

顧客視点から見れば3±1で、ど選択ウィンドウにも最低2つは選択肢が存在する事が理想なんでしょうが、実務視点では選択肢=1と、カテゴリー構成や取り扱いのバラつきを許容する 3±2 の方が法則とするには現実的でしょうね(関係ないけどジャムの法則の振れ幅も±2ですし。。。)。

【おまけ】ジャムの法則はどこに

ジャムの法則に敬意を表し、何処かにそれを適用できる箇所はないかと数字を見渡していたところ、1つだけ見つけました。

たまたまですがジャムの数値中、正にシーナ・アイエンガー教授の試食実験のジャムの種類数=6に一致しているものがありました。

残念ながらそれはジャムの種類数では無く、顧客がジャム売り場を利用する目的の数=カテゴリー中の目的ウィンドウ数(seg_f数)なのですが、これだけがワイン、ジャム共に7±2のレンジ内に入っています(ウィンドウ内SKU数は平均はレンジ内に入るが、標準偏差が大き過ぎる)

ゴンドラと違い、試食という特殊な舞台装置を前にした場合、顧客の目には個々のSKUがそれぞれ別の利用目的に映ってしまうのかもしれない?と、こじつけついでに上手いこと言い切ってしまうと ー

カテゴリーが7±2の範囲内で、明確な利用目的を顧客に提示していい場合選択自体を放棄する顧客が多くなる(ビギナー程、明確な利用目的の発見から入る)

と言ったところでしょうか。

余談ながら、個々のSKUがそれぞれ別の利用目的に映るという観点からすれば、チラシ紙面やwebページのアイキャッチ数なんかにジャムの法則が使える気がします。

あり得ーるの法則

ここまでで得られた結果を、強引にまとめ上げれば以下のようになります。
目的ウィンドウ数7±2についてはおまけの域ですが、法則とは得てしてそんなもので、私たちが欲しいのは一定の拠り所です。

1)品揃えの豊富さとはSKUの豊富さでは無く、選択ウィンドウの豊富さである

2)嗜好性の高さは顧客の選択ウィンドウの豊富さに表れる
  逆に言えば、嗜好性の高いもの程、選択ウィンドウが豊富なくてはならない

3)選択ウィンドウ内の選択肢(SKU)数は嗜好性の高さと共に絞り込まなければならない

)カテゴリーの選択ウィンドウ内の選択肢(SKU)数の目安は 3 ± 2 SKU

)カテゴリーが顧客に対して明示すべき売り場利用目的ウィンドウ数の目安は7 ± 2ウィンドウおまけ

どうです?

あり得ーる気がするでしょ?w

本当に大切な事

実は本項で一番大切な事は、顧客はデータに表れてしまう程の、それぞれの目的ウィンドウ、選択ウィンドウを持っているという事実です。

例え7±2の目的ウィンドウがあったとしても、それが売り場で気付かれ易いよう目的別になっているか?

3±2のSKUがあったとしても、それが顧客が相互に選択可能なウィンドウに入っているか?

が本当に大切な事です。

参考資料

今回記事の元となった実際の分析結果です。

必要に応じダウンロードして御覧下さい。

ジャムの法則・松竹梅の法則