お客様ニーズが見える ID-POS分析。
先般のFAQ ブランドスイッチの流出計が一致しない & ブランドスイッチ戦略の考え方について ですが、「カットされてしまった商品を再採用してもらいたい。」という目論見と試みの中から出て来た、お問い合わせであると言う事が分かりました。
該当商品がカットされてしまったのが大分以前であった為、現在のマーケットにおいては何とも言えない部分がありますが、分析してみた結果、少なくとも取り扱いがあった頃の市場環境においては、明らかにカットしない方が、(お客さんの為になるので)小売業さんの為にもなる 状況にありました。
復活提案に当たっては最低限、分析メニュー「ニーズの見える化 」の指標である、 目的範囲と選択範囲 、重点レコメンド の3つについてはご理解頂く必要がありますので、ここでなるべく平易に解説させて頂きます。
前回に引き続き「フジッコ」ブランドを題材とし、「おかず畑 ひじきと豆のサラダ」がカットの憂き目にあった商品だと仮定します。以降の分析表は「おかず畑 ひじきと豆のサラダ」の終売日迄の13週間で集計したニーズの見える化 の集計結果だとお考え下さい。
可読性の為、同じ分析表を繰り返し再掲して行きます。
明らかにカットしない方が、(お客さんの為になるので)小売業さんの為にもなる 根拠を、回りくどいようですが、三段論法で示して行きます。
まず、「おかず畑 ひじきと豆のサラダ」が属している 目的範囲(f5)についてです。
目的範囲は、この範囲に属する商品を選択肢としている人 が、他の範囲に属する商品を、余り選択肢としていない※事 を示す、非併買率 から算出された範囲です。
という事は、この範囲(f5)を形成している「フジッコ おかず畑」シリーズを、来店の目的 ないしは 、売り場の利用目的 としている人が居る(ブランドが確立されている)という事です。
※.各商品の利用者全員が、一律同様の利用行動を示す訳ではありません。
この範囲(f5)の利用者率は8.58%と、当該マーケット内においてはそれ程大きくはありませんが、売り場から 目的そのもの が失われてしまえば、それを目的としている人達は、その目的を他店で果たす しか無くなってしまいます。
それは、「おかず畑 ひじきと豆のサラダ」を再採用する正当性を強化します。
【補足】
一般に、自分の購入目的内の商品が安売りされれば食指が動きますが、自分の購入目的外の商品が安売りされても、食指が動く事は余りありません。
よって、マーケットセグメントの定義※上、目的範囲は、当該マーケット内で相対的に、マーケットセグメント(別のマーケット)を形成していると言えます。
以降、実感を増す為に、目的範囲 ⇨ マーケットセグメント と言い換えて説明して行きます。
※.エリヤフ・ゴールドラット博士によるもの。
次いで、「おかず畑 ひじきと豆のサラダ」が属している 選択範囲(f5_n9)についてです。
選択範囲は、「今日はどれにしようかな?」あるいは「こっちは家にあるから、今日はこっちで!」と、その範囲内での 選択 が、平均以上に行われている※事を示す、非併買率の平均値 から算出された範囲です。
という事は、この範囲(f5_n9)内の選択肢の一つである「おかず畑 ひじきと豆のサラダ」は、一つの 選択肢の塊 すなわち ニーズ を形成している商品の一つであるという事です。
以降、実感を増す為に、選択範囲 ⇨ ニーズ と言い換えて説明して行きます。
※.各商品の利用者全員が、一律同様の利用行動を示す訳ではありません。
マーケットセグメント(f5)の利用者のニーズは、大きくf5_n8と、f5_n9という異なる2つのニーズに別れています※。
売り場から ニーズそのもの が失われてしまうのであれば、そのようなニーズを持つ人達は、そのニーズを他店で満たす しか無くなってしまいます。
それは、ニーズ中の選択肢の一つである「おかず畑 ひじきと豆のサラダ」を再採用する正当性を更に強化します。
※.当然、個人の中に両方のニーズを持っている人も居れば、片方にしかニーズを感じない人も居ます。
各マーケットセグメントを代表する人気No.1の選択肢に、重点レコメンド1st が振られます。各ニーズを代表する人気No.1の選択肢に、重点レコメンド2nd が振られます。(既に重点レコメンド1stが存在するニーズ内の選択肢に、重点レコメンド2ndが振られる事はありません。)
これは、各ニーズに対する 選択肢が1つしか無い、最低品揃え を意味しています。
この最低品揃えの利用者数の単純和が、マーケット計の利用者数に満たない場合、採用順※1昇順で、単純和がマーケット計の利用者数を満たす選択肢まで、重点レコメンド3rd が振られて行きます。
これは、各ニーズに対する選択肢が1つづつでは、実際に満たせない人たちが居るという現実に基づいた、最低品揃え※2です。
※1.詳細については、別途【算出根拠】採用順 を御覧ください。
※2.それでも顧客は併買をしますから、ニーズを完全に満たすという事はありません。一方で、真に全員のニーズを満たそうと考えれば、ほとんど全商品が、最低品揃えとなってしまいます。(重点の意味が無くなる。)
ニーズ(f5_n9)には3つの選択肢が品揃えされており、「おかず畑 ひじきと豆のサラダ」には、3rdレコメンドが振られています。
これは「ごぼうと豆のサラダ」or「ひじきと豆のサラダ」という選択が、利用者からしてみれば、当該ニーズにおける 最も重要な二択 である事を意味しています。
以上の事から「おかず畑 ひじきと豆のサラダ」は、売り場同士の拡縮の問題があったとしても、再採用すべき (カットする商品は別にある)という結論となります。
【補足】
一つの考え方として、利用者率の小さなニーズに対しても、最低限 選択 を提供しようと考えれば、最低選択肢数は2※1となります。
尚「ジャムの法則」では、最適選択肢数を7±2、すなわち最低最適選択肢数を5、最大最適選択肢数を9としています。この事から、売場面積を充分取れる前提における最低選択肢数は5となります。その場合においても、最大選択肢数は9※2に留めなければ、ニーズ中からの選択を放棄し始める顧客が増えるという事を、ジャムの法則は示唆しています。
※1.コンビニエンス商品のように、選択肢数が1つであっても「あって良かった!」となるニーズ、「スーパードライ350ml」のように、単一の選択肢から成る圧倒的なニーズも存在します。
※1.この事実は、商品のカット(余剰な選択肢のトリミング)に活かす事ができます。
極めて雑な言い方をすれば「売れていない」から、あるいはバイヤーの感性上「似たような商品がある」からでは無いでしょうか。
ここまで見て来たように、顧客視点から見れば、問題は、単に「売れている/売れていない」だけにあるのではありません。また、2つの商品が「似ているか/似ていないか」は、バイヤーが決めるものでも、あなたが決めるものでもありません。
現実問題、カットした商品の再採用というのは「自分の過去の決定を覆す」事ですから、余程のメリットの無い限り、精神的な面でも極めてハードルの高い提案です。
今後このような憂き目に合わない為には、自社商品が「マーケットセグメント/ニーズを形成しているか?」、その中における「重点商品は何か?」「選択肢数は幾つか?」を、商談前に必ず確認しておきたいところです。
これは貴社とお取引先小売業さまの為のみならず、売り場と貴社商品を利用して下さっている 顧客に対する義務 だと私は考えています。