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日清orマルちゃん?うどんorそば?
Tapirの原理と見方

同じような記事を何遍か書いてはいるのですが、もっと噛み砕いてTapirの原理と見方を教えて欲しい」というご要望を頂きました。

噛み砕くには商品数を最低限とせざるを得ない為、陳腐に見えてしまう事が怖かったのですが、もしかしたら「味の向こう側」があるかもしれない?と勇気をもって噛み砕き切ってみます。

簡単の為「本当では無いが嘘でも無い」程度にデフォルメしていますので、悪しからずご了承下さい。

※1.分析結果は店の業態や政策、地区等によって異なって来ます。

日清orマルちゃん?うどんorそば?

うどんどん兵衛、そばどん兵衛、赤いきつねと緑のたぬき、一見類似しながらも、コンビニですら絞り込んでいないのではないか?と思われるド定番のライバル商品同士です。

みなさんはライバル関係そのままに「日清にしようか?マルちゃんにしようか?※2」と思って買い物をしますか?それとも「うどんにしようか?そばにしようか?」と思って買い物をしますか?

売場(マーケット)とどのように向き合い、取捨選択をしている顧客が多数派なのか

顧客が取捨選択をしているのであれば、私たちの取捨選択(採用/不採用)や陳列方法も多数派顧客のそれに倣うべきでは無いのか?

陳腐かもしれませんが、それがTapirの基本テーマです。

※2.私の場合、特売がブランド縛りで実施される為この買い方になります。この時うどんとそばは同時に買います。

第一章:Tapirの原理

取捨選択か否か = 似たようなものか別物か

取捨選択という利用行動は「ある時は赤いきつねを買い、またある時にはうどんどん兵衛を買う」といった期日を隔てた併買として定義されます。

何故取捨選択をするのかと言えば、その人にとってその商品が比較対象として充分「似たようなもの」「近しいもの」3だからです。

それ以外の「そばどん兵衛しか買わない」、「赤いきつねと緑のたぬきを同時に買う」といった利用行動は、先の取捨選択の定義に該当しません。

何故取捨選択をしないのかと言えば、その人にとってその商品が比較にならない「別物」相対的に「遠いもの」3だからです。

「そばどん兵衛しか買わない」のはそばどん兵衛だけに別格の価値を認めているからですし、「赤いきつねと緑のたぬきを同時に買う」のは野菜と肉のように双方に対する認識が別物だからこそです。

3.今回の場合は「用途・機能として」近い/遠いという形に近いですが、商品/カテゴリーによっては「ライフスタイル的に」近い/遠いという形を取ります。

ID-POSデータを使えば取捨選択をした人/しなかった人が利用行動で分かります※4から、日清とマルちゃんを別物と思っている人が多いのか、それともうどんとそばを別物と思っている人の方が多いのかが分かります。

4.地理的/時系列的取捨選択できない顧客が出てきてしまうのを極力避けるよう、集計条件(店舗(品揃え)等)への配慮が必要です


別物と思っている人の割合を測ってみる

数字が大きくなる程 遠い” とした方が観念上も計算上も分かり易い為、取捨選択した人では無く、2つの商品間で取捨選択しなかった人の割合をID-POSデータから測ってみます。

距離と同様、数字が大きくなる程 ”遠い”、小さくなる程 ”近い” と解釈できます※5
それが次の図です(距離行列表と言います。Tapirのダウンロードタブからダウンロード可能です

※5.理屈上商品相互どちらから見ても等価 ∧ 最小値が0%、最大値が100%です

表からは(自分と自分の組み合わせの0%を除き)一番”近い”組み合わせが赤いきつねとうどんどん兵衛(86.64%)、二番目に”近い”組み合わせが緑のたぬきとそばどん兵衛(91.21%)であるという構図が読み取れます。

※6.私の利用の仕方の場合(知りたがりの人のみ参照の事)

前出※2の通り日清/マルちゃんを特売の有無で取捨選択し、うどん/そばを取捨選択せずに同時に買う為、”取捨選択していない人”としての私一人のID数は以下のように計上されます。

このように一人の顧客であっても利用行動(併買)により複数の商品に対してID数=1が計上される事から、ID数はほとんどの帳票で明細計とマーケット計が一致しません。

因みに私は全ての商品を利用している事から、距離行列表の分母としては全ての2商品の組み合わせに対してID数=1(マーケット参加者)で計上されます

これを分かり易く可視化する為に、まず一番近い赤いきつねとうどんどん兵衛をくっつけ、次に二番目に近い緑のたぬきとそばどん兵衛をくっつけ。。。と、マーケットが一つに収束するまでくっつけて行ったのが次の図です(デンドログラムと言います。Tapirのダウンロードタブからダウンロード可能です

うどん同士(86.64%)の方がそば同士(91.21%)より”近い”ので、縦方向に低い位置でくっついている事が分かります(黄色線)。


横方向では、三番目に近い(93.59%)みどりのたぬきとうどんどん兵衛が隣り合い、最も疎遠な(97.65%)赤いきつねとそばどん兵衛が両端に分かれるという並び順(≒関連順)になっています。


この構造にID数を紐付けて、各種計算を加えたものがTapirの帳票です。

Tapirの帳票
横と縦の違いはありますが、商品がデンドログラムの「並び順」通りに並んでいます。
デンドログラムの線の色分け(前図の赤と黄)がseg_f、seg_n(後述)のグループの違いになっています。

章:Tapir帳票の見方と活用

以下、帳票の主要項目の意味合いと、どのような業務に活用されているかの用途について、順を追って説明して行きます。

seg_f、seg_n

seg_f=マーケット・セグメントfar(遠い)、seg_n=マーケット・セグメントnear(近い)の略です。

先程のデンドログラムを、取捨選択の平均値で水平に切った時にできるグループがseg_n、取捨選択があまり発生しなくなった高さで水平に切った時にできるグループがseg_fです※7

コードに固有の意味は無く、単なる連番です。またseg_f、seg_nがそれぞれ幾つに分かれるかは、分析をしてみる迄分かりません。
※7.今回例では4商品しか無い為 seg_f = seg_n となましたが、通常は seg_f > seg_n の 大分類 > 小分類 のような構造になります。

取捨選択があまり発生しないという事は「正にそれ(seg_f)を目的にしている」という事になりますので、seg_fは来店/売場利用の「目的ウィンドウ」と言えます。

一方取捨選択がマーケット平均以上に発生するseg_nはその中で買い回りが行われている「買い回りウィンドウ」と言えます。

帳票からまず そば or うどん を目的として売場にやって来て、その中で 日清 or マルちゃん(はたまた148円 or 112円)を取捨選択しているのが、この売場(マーケット)における多数派の利用パターンである事が分かります。

多数派の利用パターンがそうであるならば、それに合わせてseg_f、seg_nでゾーニングをする事で自ずと、目的が見つけ易く、買い回りがし易くなる顧客が多くなる為、棚割やチラシといった商品レイアウト全般に用いられています※8
※8.売場の都合によりseg_f、seg_nでゾーニングする事が困難な場合、その中の一部をコーナー化してみるだけでも構いません。

陳列例

また取捨選択があまり発生しないという事は、seg_f外の商品は、seg_f内の顧客から見てほとんど興味が無い商品、seg_f内の商品から見てスイッチを狙うライバルに値しない商品であるという事でもあります。

よって例えばそばどん兵衛の単品クーポンを出す際には、そばどん兵衛が所属するseg_f =f1 の21,358人をクーポンのターゲットとしています。

各々の商品のID数は本物の顧客接点ですが、seg_n、seg_fのID数は利用行動から拡大解釈した顧客接点と言えます。

中でもseg_fのID数は、配下の商品にとっての最拡大顧客接点、販促限界接点と言えるものです。

並び順

前述の通り、デンドログラムの生成過程で関連順となっていますので、陳列やチラシのコマ割りの際に、出来る範囲で並び順の数字が近いもの同士を隣接させるといった使い方をします。

陳列例(昇順/降順いづれも可)

連番であるseg_f、seg_nのコードも結局のところ並び順の影響を受けていますが、並び順に拘泥し過ぎるとにっちもさっちも行かなくなってしまいますので、特に取捨選択があまり発生しないseg_fの単位、ダイナミックにゾーンを移動してしまって構いません(前図陳列例であれば、そばを上段、うどんを下段にする等)。


採用

マーケット参加者を最大限カバーする為に、まずマーケット中利用ID数No.1の赤いきつね(seg_f=f2所属)に1位が振られ、次いでそれとは取捨選択の少ないseg_f=f1中の利用ID数No.1である緑のたぬきに2位が振られます。

デンドログラムで見たようにうどん同士で起こる取捨選択の方が、そば同士で起こる取捨選択よりも多い為、相対的に選択性(≒代替性)の低いそばどん兵衛に3位が振られ、相対的に選択性(≒代替性)の高いうどんどん兵衛に4位が振られます。

売り手の都合である=ID数と、買い手(多数派)の都合であるデンドログラムの※9を融合する事で、最も互いの都合に適った順位になります。

※9.売り手都合による極端な販促政策等に、デンドログラムの形が誘引される事も勿論あります。

採用順昇順は、限られた単品数でできるだけ多くの人に響かせたいチラシ、エンドといった販促商品の選抜に使われます。

採用順降順は、目的ウィンドウそのものや、買い回りウィンドウ中の選択肢数をゼロにしたくない商品のカット/絞り込みに使われています。


レコメンド

採用順何位迄採用した方がいいのか?採用順何位だとカットNGなのか?順位で判断するには曖昧な部分が残ります。

そこで、 seg_f中で最も若い採用順に1st、seg_n中で最も若い採用順に2ndのレコメンドを振っています(買い回りウィンドウ中の選択肢数=1の最低品揃え)。

1st〜2nd迄の利用者率の単純和が100%を下回る場合、利用者率の採用順累計が最初に100%を超える商品迄3rdレコメンドが振られます(マーケット利用ID数をカバーする為の最低品揃え)。

レコメンド有=最低品揃えですので、全店品揃えの徹底に用いられています。

またレコメンド有=所属ウィンドウを併買効果で最も活性化する重点商品でもあります。

販促的には1stレコメンドを極力販促対象に入れたり、レコメンド付商品のフェイシング数を大きく取ってマグネット用いたりしています(下図陳列例)。

また、3rdレコメンドが多く出て来るカテゴリーは嗜好性の高いカテゴリー(好みで利用者率が分散する)と見做す事もできます。


サマリー表

今回はseg_f = seg_n となった為、seg_nサマリー表の見方について解説します。

買い回りウィンドウであるseg_nの選択肢数の過不足を、SKU数から考察します(2〜4SKU程度10)。

図から50代、60代のみうどん(seg_n=f2_n2よりそば(seg_n=f1_n1)の年代構成が高い傾向にある事が分かりますので、販促物の演出を若干50代、60代を意識したものにする事を考慮します(とは言えメイン年層である40代、30代の方が依然構成比は高い事をお忘れ無く)。

※10.興味のある方はジャムの法則・松竹梅の法則|選択肢の科学 を参照してみて下さい。

みなさまからのご質問を記事にする事や、勉強会のご用命のお陰で、私自身大分噛み砕く力が身に付いて来たつもりでおりますが、如何だったでしょうか?

少しでもみなさまの業績のお役に立てましたら幸いです。