色のない町
冬の栃木県葛生町
CREATE:2:43 02/09/08 Update:2019/11/28
思い出のローカル線 信沢あつし
Memories of railroad A.Nobusa
CREATE:2:43 02/09/08 Update:2019/11/28
思い出のローカル線 信沢あつし
Memories of railroad A.Nobusa
葛生町を抜けたところの小さなトンネルに、次々とダンプが飛び込み、飛び出してくる。その脇を全速力で自転車で行く。次のダンプに抜かれる前に早くトンネルを抜け出すために。反対側車線に目をやると、年配の人が乗った自転車が我関せずと、のんきに走っている。
数年後、今度は日鉄羽鶴専用線の脇を抜けて、出山鍾乳洞を目指す。あまり広い道ではないが、すれ違いは充分に出来る。のんきに走っていると突然、巨大なダンプが顔を出した。タイヤの高さが、2m以上はある。道の真中で、お互いに止まる。隣りに乗っている彼女と目をあわせて、そのまま無言のまま、リアウインドウを覗く。左手は無意識にバックにギヤを入れ、手前の工場の前の広いところまで走っていく。「あれは、こっちが下がるしかないよね。」大きなタイヤが二つ、車の脇を通りすぎるのを待ってから、そんな言葉が出た。
葛生の町は、モノクロだった。古いが立派な木造瓦葺の家の脇には必ずといって言いほど蔵がある。街を抜ける道路もそう広くはなく、そんなところにも歴史を感じさせる。そして、黒い板張りも、白い石灰が飛び散り、モノクロのグラデーションになっていた。
歩道橋から見ると、モノクロのグラデーションとなって続いている黒い瓦の向こうに、鉱山が見えた。山頂を削り取られた山の裾には、大きな煙突から煙を上げている大きな工場。古い家並みと工場のコントラストも、飛び散った石灰で、色はモノクロのグラデーションだった。
トラックは鉱山と古い町を結んで引切りなしに走っていた。トラックの積荷が飛び散り、葛生の町を石灰の町にしていた。そして、そんな町を撮りたくなって出かけた時の写真がこれだ。白っぽい町は、冬の日差しを浴びて光のコントラストをつけていた。
葛生は色のない町、人の存在を感じさせない町。この時のイメージだ。あまり人気のない寒々とした駅で帰りの電車を待つ。そんな孤立感が良かった。夕日がまぶしく照らしているホームに電車が着くと何人かの人が降りてきた。そんな中を一人逆行して電車に乗り込む。私は葛生の人ではなかった。孤立していた。
そんなモノクロの葛生も、春になれば暖かい空気に包まれる。白と黒の中に咲く花と新緑は際立って美しい。そして冬に向かって色のない町になっていくのである。
昭和50年3月17日に行き、7月22日にも行き、そして12月26日と、春休み、夏休み、冬休みの最初の日は葛生だった。それだけ葛生は見所があったこいうことだ。近年でも、思い出したように「葛生にでも行くか」と出かけることがある。
2019/11/28 信沢あつし