微睡み

 ライールはその日、カヴァーリアと二人で研究室にいた。

 その部屋の主であるサディルナ・ウェルズは、上階であるファーレン大祭司に呼ばれ、朝から留守にしている。以前の彼女は、自身の起居するこの場所に終日居るのが常だったが、五ヶ月前に起こった事件以降、研究室を空ける時間が増えている。

 カヴァーリア・ダーガードは、机に積み上げられた各地からの報告書を確認し、その中身を集約する作業をしている。ライールは傍らに立って、その作業を補助をしていた。

 カヴァーリアは、教会における神官、すなわち司教職にあることを示す、紫色の長衣を纏った年若い女性である。肩口で切り揃えた髪と広い額、きりりとした眉が印象的な彼女は、週に二度程度、サディルナの元で学びつつ、その職務の補助をしている。

 カヴァーリアが通うようになって半年間、他ならぬ彼女の手によって整然とした状態を維持され続ける書斎には、今やライールの作業場所も存在する。山積みにされた本と書面に占拠され、机の表面さえ覗けなかったこの場所に、それだけの空間があったことにライールは未だ驚く。

「ライール、君の後ろの棚の二段目から、ナーザの地図を取ってくれないか。左端にある、少し大判の」

「これでいい?」

 紐で綴じられた束を棚から引っ張り出して差し出すと、「ありがとう」とカヴァーリアはにっこり笑った。ライールがカヴァーリアを知ったのは、彼女がここに来るようになってからだが、和やかでさっぱりした気性の人物で、ライールは彼女と共にいるのを苦にしたことがない。また、彼女の存在は、ライールの職務に大きな変化を齎してくれた。ライールは最近まで、研究室の中でもこの書斎については、サディルナの許可無く出入りすることも、置かれた文物にみだりに触れることも許されていなかった。それが今では当然のように主不在の部屋に居座って、あれこれ作業を行っている。

 サディルナはカヴァーリアを受け入れて以来、それまで自分一人で行っていた膨大な業務を、機密性の高い部分とそれ以外に分離して、後者の一部をカヴァーリアに任せるようになった。その後、サディルナが研究室を空けがちになり、結果として日中他部署に派遣されるのが常であったライールが、留守居をする時間が増えた。ライールに単に自分の世話をさせるのではなく、出来る限り広い経験を積ませたい考えを持つサディルナは、その状況を気に病んでおり、それに気付いたカヴァーリアが、サディルナに提案をした。

 それは、カヴァーリア自身に割り振られた業務を更に細分化し、作業的な部分をライールに任せたいというもので、サディルナは大祭司の許可を受けてその提案を受け入れた。随分と思い切った変化だったが、ライールに無為な時間を過ごさせるよりましだと思ったのだろう。

 ライールは何かと器用なうえに実直な性格で、単純作業だろうが頭脳労働だろうが、義務を果たすことを苦にしない。研究室の外で様々な職の人々と接しながら雑務をこなすのも楽しいが、サディルナが気にするようには、研究室で彼女のためにだけ過ごすことを気にしていなかった。自分がサディルナのために出来ることが増えたことは嬉しく、彼女達の仕事の一端に触れられることは興味深かった。

 サディルナの研究が素精に関するものであることは確かだが、その内容の多くは教会の関係者、特に司祭のみが触れられる機密的な側面が強く、ライールはその本質に触れることを許されていない。そのため、サディルナの職業人としての側面をライールが理解しきれているとは言い難かったが、その一方で、カヴァーリアの能力はライールにとって明快だった。

 次々届けられる大量の報告書を整理し、捌いていくカヴァーリアの指示は明確で、ライールに割り振る作業の内容も、当たり障りがないと同時に効率的で無駄がない。ライールが思うに、カヴァーリアは神の官僚たる神官の中でも、かなり優秀な部類に入るのではないだろうか。加えて人柄も良いのだから恐れ入る。

 そんな神官として高い適性を持つカヴァーリアが、わざわざ別職種である司祭に転向しようとしている。その理由が、カヴァーリアが恩人と慕う司祭、ダイルグ・シリングの存在だというのだから、ライールはげんなりしてしまう。ダイルグに振り回される人間は、一人だけで間に合っているというのに。

 その彼女がふいに作業の手を止め、視線を上げた。ライールもつられて顔を上げる。

「カヴァーリア、どうかした?」

 カヴァーリアは書斎の閉じた扉をじっと見つめている。ライールは位階のない徒弟に過ぎないため、職務上はカヴァーリアに敬語を用いるべきなのだが、彼女自身の希望に応じて、敢えて砕けた話し方をしていた。

 ライールには扉と壁しか見えない方向を凝らすように見て、カヴァーリア言う。

「奥の方で、何かあったようだ」

 カヴァーリアは僅かながら素精干渉能力を有しており、その第六感によって物事を感じ取る。その様子にライールは馴染みがあった。ライールの亡き祖父・グレイは優れた素精干渉者であり、今のカヴァーリアと同じような反応を示す時があった。

「『あの時』、みたいな?」

 声に緊張が滲ませたライールに、カヴァーリアは「いや、あんな大勢を巻き込んだ騒ぎじゃない」と、力強く頭を振った。

「だが場が乱れた気配がした。良くないことが起こったのは確かだ。弱ったな、私ではこれ以上わからない」

 カヴァーリアが立ち上がって扉に向かったので、ライールも続く。

 研究室の戸口を開くと、回廊と居並ぶ扉の内と外に、様子を窺う人々の姿が見えた。その多くは緑色の衣を身につけた司祭だ。カヴァーリアと同様、能力によって異変を感じ取ったのだろう。

「もしかして、火事とか?」

「あり得るが、それにしては煙の匂いがない」

 確かに、と周囲を見回すと、人々の顔は一様に緊張を孕んでいた。二人同様、五ヶ月前の出来事を連想しているのだろう。カヴァーリアは眉根を寄せた。

「何があったか気になるが、サディルナ様が御不在なのに、研究室を空けるわけにもいかない。困ったな」

 ライールも同じ気持ちだった。視界には、二人と同じく不安な面持ちで囁き合う者と、状況を知るべく何処かへ去る者の両方がいる。

「すみません、何があったかご存知ですか」

 奥からこちらに向かってきた助祭に、カヴァーリアが声を掛ける。彼は不安そうに頭を振った。

「奥の方で何か暴力沙汰があったようです。大祭司様がどうのとも聞いたのですが、はっきり分かる者がいなくて……」

 カヴァーリアとライールが目を見合わせた。このヴィールダルトに、最高位の司祭である大祭司は三人いる。

「どちらの大祭司です?」

「すみませんが、私もわかりません」

 助祭は頭を下げ、知り合いのところへ歩み去った。

 その大祭司がルヴェスト・ファーレンなら、彼はライールにとって直接の知り合いだ。何より、サディルナは朝から彼の所へ赴いたのだ。

「ライール、私はちょっと奥に行って様子を探るから、君は戻って―――」

「ダーガード神官!」

 早足で視界に飛び込んできた神官が、カヴァーリアに向かって鋭い声を上げた。堅い表情で庭を突っ切り、二人へ近付いてくる。

 ライールの胸が不安にざわめく。

「ライズ、どうした。一体何があったんだ」

 カヴァーリアの知己らしい男は、「ここに居てくれて良かった」と大きく息をついた。表情は厳しいままだ。

「すまんがカヴァーリア、急いで診療所に行ってくれ。君がリジェットかい?」

 強ばった頷きを返すと、彼は言った。

「君も同行してくれ。ウェルズ司祭が怪我をして、意識を失っておられる」


 診療所は徒歩で十分程度離れた、大聖堂にほど近い場所にあった。診療所といっても、四、五の棟を連ねた集合住宅のような規模があり、ライールがかつて住んでいた街のものより余程大きい。

 そこは教会で働く者達のための医療機関であると同時に、一日数千に及ぶ巡礼者に何事かあった場合、処置を行う場所でもあった。それほど膨大な数の老若男女が日々訪れれば、昏倒する者も、不調に崩れ落ちる者も後を絶たないのである。

 ライール達が案内されたのは教会関係者が使用する区画の一室であり、そこに四つ並んだ寝台の一つに、サディルナは横たわっていた。瞳は伏せられ、敷布に広がる黒褐色の髪の上を、白い包帯が一周している。

「今は眠っているが、意識は一旦戻っているから、安心していい。その時に不調は訴えなかったそうだ」

 ウォザリグ医師はそう説明した。神官でも司祭でもない彼は、白い長衣を身に纏っている。

「殴られた時か、勢いで倒れた時に、打ち所が悪くて意識を失ったのだろう。少なくとも表面の怪我は大したことはない」

 ウォザリグの言葉の一から十まで、ライールには納得が行かない。

「殴られたって、誰に? 一体どうして」

「ファーレン大祭司を暴漢から庇ったと聞いているが、細かい事情は知らない。詳しいことは、シリング司祭に聞いてくれ。ウェルズ司祭をここに運び込んだのも、彼女の意識が戻った際に付き添っていたのも、彼だ」

「そのシリング司祭は、どこにいるんです」

「ウェルズ司祭が目を覚まされたので、大祭司に報告に行かれたよ。そのうち戻るだろう」

 噛みつく調子を抑えられないライールに対し、ウォザリグは極めて淡々としている。

「強く頭を打った場合、内側の損傷が問題だが、そこはシリング司祭が素精的に見て、深刻な負調は見られないと保証した。だから、さほど心配は要らないだろう。ただ、暫く安静にしておいた方がいい。何かあれば呼んでくれ」

 そう言って医師は去り、カヴァーリアは事の詳細を確認すべく部屋を出て行った。残ったのは、眠るサディルナとライールだけだ。

 サディルナは出掛けた時と同じ司祭服を着ていたが、楽にするためだろう、緩められた襟から普段見えない首元が露わになっていた。落ち着いた寝顔に苦痛の色はなく、伏せられた睫と整った鼻筋が際だって美しい。しかし額から頬骨にかけて、倒れた際に負ったのだろう擦り傷が痛ましく、頭部の包帯は、嫌でも異常な事態を知らせてくる。

サディルナは繊細な見た目に反して驚くほど頑健で、ライールは一年以上彼女の側にいながら、彼女がちょっとした不調で寝込む様子すら見たことがなかった。そのライールは、横たわるサディルナを前に自分でも驚くほど動揺しており、彼女の肩を揺さぶってその目を開かせたい衝動に駆られていた。しかしそんなことを出来よう筈もなく、寝台の脇に据えられた椅子に、ただ力なく座り込んでいる。

「ライール、大丈夫か?」

 そのまま、どのくらい時間が経っただろう。カヴァーリアが戻ってきて、彼に水飲みを差し出した。

「おかえり、カヴァーリア」

「それを飲んで少し力を抜きなさい。医師は大丈夫と言われたし、ダイルグ様が問題ないと仰ったのだから、きっと心配ないよ」

「……ダイルグ様に会えた?」

「いや。だが幸い、事情を知った人間から話を聞けたよ」

 「教えて」と身を乗り出すと、カヴァーリアは口元に指を置いて、彼を手招きした。サディルナの枕元から離れ、空の寝台に椅子を移動する。

「今日起きたことについて、箝口令が敷かれているんだ。私は君をサディルナ様の身内と思っているので話すが、内密にできるか?」

 ライールが頷くと、カヴァーリアは真剣な様子で口を開いた。

「ファーレン大祭司とサディルナ様を襲った暴漢の正体は、レストバー司祭だ」

 ライールは目を見開いた。

「レストバー、司祭? ……本当に?」

「事実だそうだ。彼が大祭司に殴りかかったところを、サディルナ様が庇われたらしい」

 ライールはその話に、咄嗟に怒りより驚愕が勝った。暴漢と聞いて、それが教会関係者とは想像していなかった。

「理由はわからない。お二人が立ち話をしていらしたところに現れ、幾らか言葉を交わしてから、激昂して手持ちの杖で殴りかかったそうだ。遠くから見ていた者が幾らかいたが、彼は最初からどこか様子がおかしかったと」

「……あの人は、暫く休んでいるんじゃなかった?」

 カヴァーリアは「そうだ」と神妙に頷いた。

「レストバーはここふた月ほど、自宅に伏せって登庁していなかった。彼はあの、『神木消失』に居合わせた一人なんだ」

 五ヶ月前、大陸に広がる『教会』の総本部ヴィールダルトにおいて、世を揺るがすひとつの事件が起きた。その中心となったのは、ヴィールダルト大聖堂の傍らに立つ、樹齢数千年と言われた大樹である。

 その神木は今生きる人々が生まれるよりずっと以前から、そこに存在していた。教典に何の位置づけがあるわけでもなかったが、聖堂の天井に届く高さと、人が十数並んでも囲いきれない幹の偉容、どの季節にも緑の生い茂るその豊かな姿から、教会に関わる全ての人々の信仰の対象となっていた。

 それは、巡礼の人々が正門から聖堂へと列をなし、聖職者が辺りを行き交う、いつもどおりの正午のことだった。日は高く、空は晴れ渡っていた。聖堂の鐘の音が時を告げんと高らかに響いたその瞬間、何百もの人々の眼前で、神木と称えられてきた大木が、跡形もなく消え去った。

 ただ消えたと言う者もいる。粉々に砕けたそれが、光を弾くのを見たと言う者もいる。共通して言えるのは、一度の瞬きの後、そこには何もなかったということだ。倒れたわけでも、朽ちたわけでもなく、ただはじめから、この世に存在していなかったかのように。

 一拍の後、誰かが金切り声を上げた。茫然自失から返った人々は、次に恐怖に襲われた。脱力して座りこんだり、その場で泣き喚く者はまだ良かった。反射的にその場を逃げだそうとした者が、動けぬ人々を押しのけ、蹴り飛ばし、門へと向かった。その流れとは逆に、聖堂に向かう何も知らない巡礼者は引きも切らない。人々は押し合いへし合い、狂気と恐怖と暴力を伴った混乱は、その瞬間を見た者も、見ていない者も含めて拡大した。

 その時の恐慌は、聖職者達を今日まで悪夢のように苛んでいる。女神の愛と恩恵を説く教会に喚き声と怒号が響き、怪我人は数十に及んだ。死者が出なかったのはただの幸運だと、誰もがそう考えた。

 この教会に、あの日の混乱を忘れることが出来た者はまだいない。中には正気を疑うその消失の瞬間を、まさしく目の当たりにした者もいた。その場に居合わせた三十余名の神官と二十余名の司祭のうち、半数が不調を訴え、七名は職を辞し、十名が復帰できていない。レストバーはその一人だった。

「ライールはレストバーを知っているんだな」

「一応、くらいだけど」

 徒弟に過ぎないライールは、聖職者、とりわけ内向きの勤務の多い司祭に詳しいわけではない。ライールがレストバーを認識しているのは、至って単純な理由からだ。

「彼はファーレン大祭司やサディルナ様に、敵対的なことで有名な人物だからな」

 ライールはサディルナと共にいた際、レストバーに偶然遭遇したことがあるのだった。ライールの記憶にある彼は、神経質な挙動が印象に残る老人だ。ただ鉢合わせになっただけのサディルナに、明白な嫌悪と侮蔑の眼差しを向け、彼女を「神秘の冒涜者」と吐き捨てた。彼が確かに杖を突いていたことを、ライールは思い出す。

「あの人がサディルナを嫌ってるのは知ってる。大祭司様を良く思っていないってことも。だからって……」

 レストバーは老齢ではあるが、立派な体躯を持つ男である。凶器をもって渾身の力で人を殴りつければ、相手を死に至らしめることもあり得ると、本人にだって想像がつくだろう。それとも彼はファーレンを、もしくはサディルナを、本当に殺すつもりだったのだろうか。

 カヴァーリアは頭を振った。

「レストバー司祭は、さほど評判の良い人ではない。とはいえ女神に仕える身で、単なる好悪の情で人を殺そうとすることはないだろう。やはり、普通の精神状態ではなかったということじゃないか」

「気を病んでたからって、それが一体、何だって言うんだ」

 ライールは怒りに息を震わせた。

 サディルナを敵視するレストバーに、ライールは悪い印象しか抱いていない。しかし『神木消失』という信じがたい現実を目の当たりにして、心身の均衡を崩した者達の一人としては、同情を抱いていた。だがそんな気持ちは、その男がサディルナを殴りつけ、怪我を負わせたという事実の前では、当然に雲散霧消する。

 カヴァーリアは気遣わしげにライールを見た。

「すまない、私が余分なことを言った。君はサディルナ様のことを考えればいいと思う。それ以外は、他の者が考えればいいことだから」

 労る声の響きに、ライールの心が羞恥に痛む。

「俺が教えてくれって言ったんだ。カヴァーリアが謝ることないよ」

「そうか。なら、気にしないことにする。この話は一旦止めよう」 

 彼女の穏やかな笑みを見て、ライールの心は幾分落ち着いた。

 カヴァーリアはライールと十も歳が離れていない筈なのだが、聡明なだけでなく、いつも思い遣りに満ちていて、見習わねばと思わされる。今日、彼女がいてくれなければ、どうなっていただろう。この教会において立場もなく、碌に縁故もないライールには、サディルナのために一人で何をすることも出来ない。

 元の場所に戻ろうとしたところで、ライールの視線の先に僅かな身じろぎが見えた。横たわった人の瞼が開かれ、焦がれた新緑が覗く。

「―――サディルナ!」

 ライールは手にしていた椅子を擲ち、枕元へと駆け寄る。半身を起こそうとしていたサディルナが、彼を見てビクリと身体を震わせた。続けて痛みを堪えるように肩を竦め、ぎゅっと目を閉じる。

「サディルナ、痛いの?」

 ライールは寝台の傍らに膝をつき、側頭部を片手で押さえるサディルナを見上げた。サディルナと目が合うと、彼女はライールがこれまで一度も見たことがない、怯えた表情で彼を見た。

 どこか様子がおかしい。

「サディルナ……?」

 サディルナは目を見開き、一言も発しないまま、ライールとカヴァーリアを交互に見た。身を守るように薄い掛布を引き寄せる。

 ライールは戸惑いながら言った。

「大丈夫だよ、サディルナ。ここは医務室だ。俺とカヴァーリアしか居ない。他に誰もいないから安心して」

 サディルナは、レストバーに暴力を振るわれた衝撃を引き摺っているのではないか。そう考え、ライールは掛布を握りしめるサディルナの手に、安心させようと手を伸ばした。

 その手は、ぱしりと無情に払いのけられた。

「あなた、だれ」

 弱々しい呟きを、ライールは聞き逃さなかった。呆然とサディルナを見上げる。彼女は、完全に他人を見る目でライールを見ていた。

「どうなさったのですか、サディルナ様」

 見かねたカヴァーリアが近付くと、サディルナはますます身を萎縮させた。二人を警戒するようにしながら、目を忙しく動かして、室内の様子を窺う。ここにいる者への、明らかな恐怖を浮かべて、彼女は言った。

「ここは、一体どこなの。あなたたちは、だれ」