※今回は日本社会心理学会 会員研究交流活性化支援制度の助成を受けて実施されました。
開催報告
2025年度第3回の名古屋社会心理学研究会では、早稲田大学の小塩真司氏により、パーソナリティ研究の知見を基盤とした研究の発想や、そのメタ的な構造についてご発表いただいた。
小塩氏はまず、現在のパーソナリティ心理学において支配的なBig Fiveが、当初は理論の欠如や生物学的説明の不足といった批判を受けつつも、膨大なデータの蓄積によって理論的なプラットフォームとなった経緯について説明した。その上で、心理尺度は本来測定すべき現実(人生の満足度や精神疾患の有無など)を効率的に捉えるための代理エンドポイント (surrogate endpoint) であるという視点を提示し、研究者がある意味で「楽をする」ために尺度を用いているという自覚を持つべきであることや、研究において現実世界を反映した変数を組み込むのが重要であることについて強調した。
次に、小塩氏自身がこれまでに携わった研究をメタ的に振り返る枠組みとして、A-C-M-M (Association, Control, Moderation, Mediation) モデルを用いた説明がなされた。関連 (Association) においては、孤独感と自意識の関連の再検討など、複雑なモデルを組まずとも未検討の領域やギャップを埋めることの意義が語られた。統制 (Control) においては、単純な相関関係から第三変数の影響を取り除くことの重要性が示され、具体例として、時代・年齢・コホートを分離した時間横断的メタ分析による、日本人の自尊感情や情緒不安定性の時代変化に関する知見が紹介された。さらに、調整 (Moderation) においては、関連の強さが条件によって変化する現象として、居住地域の外国人比率が個人の勤勉性と排外意識の関連を調整する知見や、時代によって勤勉性の社会的望ましさが変化しているという研究結果が示された。媒介 (Mediation) においては、感謝が自尊感情に与える影響を負債感が媒介し、さらにそのプロセスが年齢によって調整されるという複雑なメカニズムの検証例が報告された。また、個人のパーソナリティと居住地域のウォーカビリティや犯罪発生率との関連といった、社会生態学的アプローチの有用性についても言及された。
フロアからは、心理学が目指す理解と、企業やAI技術が志向する予測との乖離についての質問や、将来的にAIが回答者の代理として尺度に回答する可能性、また尺度が「楽をする」ためのツールであるならば、研究者コミュニティ外のステークホルダーに対してどのように妥当性を説明すべきかといった点について質問がなされ、心理学の独自性や社会における心理学者の今後の役割について、活発な議論が展開された。