2014年度 第4回NSP 石黒 格 氏(日本女子大学)

投稿日: Dec 15, 2014 12:28:22 PM

日時・場所

12月13日(土)15時〜17時

名古屋大学教育学部 2F 第3講義室

発表者

石黒 格 氏(日本女子大学)

題目

日本人の社会関係はどう変わったか

発表

新たなコミュニケーション・メディアの登場と普及は、それを用いる人々の社会関係を変化させたとされる。近年も、人々の社会関係や、社会関係に対する態度は変化したと論じられてきた。「無縁社会」といった言葉が人口に膾炙したように、それらの論は多くの場合、「我々は大切な何かを失った」という悲観的なトーンをもつ。

一方で、近年になって普及したICTのインパクトについて、メディア研究者や社会学者は、コミュニケーションのフラット化や人間関係の選択可能性の増大など、豊かな可能性を論じてきた。これらの論に依拠すれば、社会関係は質的には変化したが、その変化を単純にネガティブと評することはできないことになる。

北米では、GSSなどを用いた、実証的な根拠に基づく議論が続いているが、人々の孤立を指摘する報告がある一方、大きな変化、特にネガティブな変化は確認されないという論も強い(Fischer, 2011)。では、日本の状況はどうなのだろうか。本報告では、1990年代初頭からの変化について、(1)統計資料の収集、(2)二次分析、(3)再調査という複数の方法を用いて検討した結果を報告する。

報告者の現在進行形のプロジェクトに関する報告であるため、方法論的な問題点や展開可能性まで含めて、多くの議論をいただきたい。

開催報告

ここ20年で情報通信技術 (Information & Communication Technology; ICT) は著しい発展を遂げ、私たちの生活に広く浸透している。これに伴い、私たちの社会関係にはICTの影響による何らかの変化がもたらされたと考えられる。こうした変化を捉えるには、ICT普及前の環境における人々の社会関係との比較が不可欠である。しかし、これには方法的な制約が問題として立ちはだかる。石黒氏は、既存のデータの二次分析や再調査との比較を通じて、ICTが社会関係の純化を促進し、関係性の格差構造が変動するというリサーチクエスチョンを実証的に検討している。

発表では、ICT普及以前に行われたネットワークサイズに関する調査 (ニッセイ基礎研究所, 1994:「都市生活と家族に関する意識調査(朝霞・山形調査)」) と同様の調査を、ICT普及後の現代において実施し、その比較結果が示された。分位点回帰分析の結果、非選択的関係である親戚・職業関係では全体的に近距離の関係が減少した一方、友人のような選択的関係では分布の上部のみで遠距離関係の増加が明らかとなった。また、若者における友人関係の拡大という年齢の交互作用効果も明らかとなり、これらの変化がICTに起因する可能性が示された。

質疑応答では、ネット上のコミュニティへの参加といった、必ずしも関係に帰属されないコミュニケーションに与えるICTの影響や、関係流動性や人口構成比などのICT以外の代替説明、時代の変化や個人の主観に伴う友人の定義の変化による影響、分位点回帰分析の解釈について、活発な議論が行われた。

参加者:43名

※この回は、東海心理学会との共催でした。

(文責 : 名古屋大学大学院教育発達科学研究科 五十嵐研究室 博士前期課程 白木優馬)