2016年度 第1回NSP 栗田季佳氏(三重大学教育学部)

投稿日: Apr 25, 2016 6:49:59 AM

日時

2016年07月09日(土)15:00-17:00

場所

名古屋大学教育学部2F E・F演習室

発表者

栗田 季佳 氏(三重大学教育学部)

タイトル

視線が信念の形成に及ぼす影響

概要

私達は特定の信念(平等,勤勉など)が望ましいものだと考えているが,その学習や獲得過程については未だ不明な部分も多い。学習過程において,日常的には教示や手引書など言語的情報が重視されているが,非言語的情報も同様に重要である。例えば視線は,幼少から他者とのコミュニケーションにおいて重要な役割を担っており,物体の名前や特徴の学習に影響を及ぼす。

近年,視線は,物の名前や機能の学習だけでなく,選好の形成にかかわることが明らかとなってきた(Bayliss et al., 2006; King et al., 2011; Ulloa et al., 2015)。本研究は,他者の視線の観察が抽象的な信念の形成に影響を及ぼすかを明らかにするものである。

研究1・2では平等主義について,平等関連語に向けられた視線観察によって平等主義的志向性が高まるのかを調べた。研究3では自己制御について,自己制御関連語に向けられた視線観察によって自己制御を要する課題への取り組みが変わるのかを調べた。これまでの結果より,信念を避ける視線を観察することで,信念が弱まることが示唆されている。

進行中の研究で結論を明示できないのですが,様々な視点から議論できればと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

開催報告

2016年第1回NSPでは、昨年度、『見えない偏見の科学:心に潜む障害者への偏見を可視化する』日本社会心理学会出版賞を受賞された、三重大学の栗田季佳氏に話題提供いただいた。栗田氏は、「社会における人間の多様性に関する価値観や信念がどのように形成・学習されるか?」というリサーチクエスチョンについて、学校における道徳教育といった言語的な教示に基づく学習ではなく、他者の視線という非言語的な情報に基づく学習プロセスの検証を試みている。

今回の発表では、平等主義という抽象的な信念に対する他者の視線を観察することが、平等主義に対する観察者の選好を規定するかを検討した2つの実験の結果が報告された。先行研究では、選好形成や学習の過程において、他者の視線を観察することが重要な役割を担うことが明らかにされている。たとえば、他者の視線を観察することが、視線先の物理的なオブジェクトに対する観察者の選好を高めることが示されてきた。栗田氏の研究は、平等主義といった抽象的な信念に対する選好も、他者の視線による影響を受けるとする点がユニークであった。

実験1・2の結果、平等主義に関連する刺激から視線を逸らした他者を観察することで、観察者の反平等主義的な傾向が強まることが示唆された。フロアとのディスカッションでは、「他者の視線を向けるという行動から、どのように信念を読み取るか」や「他者の視線がもつことの規範的な意味」といった基礎的な認知的・社会的プロセスの観点から、「教育場面へのインプリケーション」といった応用的な観点まで、幅広い観点から活発な議論が行われた。

参加者:38名

(文責 : 名古屋大学大学院教育発達科学研究科 平島太郎)