2018年度 第2回NSP 寺嶌裕登氏(名古屋大学教育基盤連携本部)

投稿日: Sep 13, 2018 12:42:35 AM

日時

2018年10月13日(土)15:00-17:00

場所

名古屋大学教育学部2F E・F演習室

発表

寺嶌裕登氏(名古屋大学教育基盤連携本部)

タイトル

心理的な脅威としての不確実性の認知とそれに対する自己防衛

概要

ある人が、物事を理解したり、意思決定をしたりするときに十分な情報が得られないと、その人は確信できない曖昧な感覚、すなわち不確実性を感じます。しかし、あらゆる不確実性が同じようなものとして認知されるわけではありません。くじを引くときの結果に関する不確実性は楽しいものですが、その一方で、悲観的な人は自分の将来に関する不確実性を考えると、気が滅入ることでしょう。また、道行く赤の他人の情報が不足していたとしても、気にも止まりません。以上のように、不確実性に下位分類が存在することを踏まえ、これまでの研究では、不確実性を、単に情報の不足として認知される情報的不確実性と、心理的な脅威として認知される不確実性脅威に大別することが提案されています (Van den Bos & Lind, 2013)。

本発表では、不確実性の中でも主に自己概念に関する不確実性や人間関係に関する不確実性などを取り上げ、これらの不確実性が不確実性脅威として認知される条件について検討した研究について紹介します。また、不確実性脅威から引き起こされる自己防衛的反応についても紹介します。そして、以上の研究から、集団主義文化の理解に関して得られる示唆について論じます。

開催報告

2018年度第2回の名古屋社会心理学研究会は、名古屋大学特任助教の寺嶌裕登氏に話題提供いただいた。寺嶌氏は、「何らかの事象に対して、確信を持てない曖昧な状態」を表す不確実性(uncertainty)をテーマに、特にその状態が個人にとって脅威となる場合(不確実性脅威)を取り上げ、自己防衛や補償といった反応に関する検討を行っている。

今回は、不確実性脅威に影響する要因として、文化差に焦点を当てた研究を中心に発表が行われた。研究1では、集団主義と個人主義に着目し、集団主義文化では人間関係に関する不確実性(関係不確実性)が、より強い脅威となる可能性が明らかとなった。日本人サンプルに対しては、関係不確実性の記述を求めることが不確実性脅威の喚起につながり、個人を自己防衛や補償へと動機づけることが示された。研究2では、不確実性管理モデルを用いて、対人関係上の不確実性を低減する機能をもつ信念として、義務に注目した検討が行われた。分析の結果、不確実性脅威が高まっているときには、義務遵守・違反に対してより敏感になることが示され、個人の不確実性脅威の低減に、義務が重要な役割を果たす可能性が示された。続いて、寺嶌氏が最近収集した国際比較データの検討を通じて、対人関係上の不確実性を管理する上で重要となる要因について議論が行われた。

フロアでのディスカッションでは、不確実性の下位区分の定義的弁別や、研究1の統制群の位置づけ、文化比較の方向性などについて、活発な議論が行われた。

参加人数: 23名

(文責:名古屋大学大学院教育発達科学研究科博士前期課程 澤田昂大)