2019年度第3回NSP 石井敬子氏(名古屋大学情報学研究科)

投稿日: Dec 04, 2019 2:19:38 AM

日時

2019年12月14日(土) 15:00-17:00

場所

名古屋大学教育学部2F 第三講義室

発表者

石井敬子氏(名古屋大学情報学研究科)

タイトル

感情認識の文化・社会生態学的要因による影響

概要

日常のコミュニケーションにおいて、相手が何を言っているかのみならず、非言語的な情報、例えば相手の表情、声のトーン、ポーズ等の理解が不可欠である。発表者はこれまでそのような非言語的な情報に含まれる感情の認識に着目し、そのような感情認識に当該の文化において日常的な慣習や社会生態学的な要因がどのような影響を与えるのかについて調べてきた。本発表ではその一連の成果について紹介する。

開催報告

2019年度第3回の名古屋社会心理学研究会では,名古屋大学大学院情報学研究科の石井敬子氏に話題提供いただいた。今回は,感情認識を主なテーマとして,文化や社会生態学的要因に焦点を当てた研究や,文化と遺伝子多型との関連を検討した研究など,広範な視点から発表が行われた。

はじめに,発話の情報処理様式における文化差の研究報告が行われた。実験では,感情的な形容詞によるVocal Stroop課題が用いられ,アメリカ人が意味情報を重視する一方,日本人は語調情報を重視していることが明らかとなった。また,アメリカ人においても,社会的なつながりの損失に伴う悲しみを喚起した状態では語調の干渉を受けやすくなることが示され,関係志向性との関連が示唆された。次の研究では,日本におけるニート・ひきこもり傾向のある若者を対象とし,これらの関連について検討が行われた。その結果,ニート・ひきこもり傾向の強さは,語調情報への注意を弱めることが示された。

次に,社会生態学的要因として住居の流動性を取り上げ,向社会行動および不安,ストレスとの関連を検討した研究が報告された。まず,向社会行動に関して,流動性が低い都市に暮らす個人ほど,その都市に対して無条件に協力する傾向が高いことが示唆された。また,ストレスに関して,住居流動性が高い個人は,新しい居住地での生活に対して不安やストレスを感じており,笑顔の消失に対して敏感であることが予想される。実験の結果,住居の流動性が高い人ほど笑顔の消失に対してより敏感であるという仮説が支持された。また,プライミングによって流動性を操作した場合でも,同様の結果が得られた。

最後に,文化と遺伝子多型の関係に関する研究が紹介された。これらの研究領域で近年指摘されている再現性の問題に触れつつ,特定の遺伝子多型と文化規範的行動との関連を示唆する知見が複数紹介された。

これらの研究事例から,広範な心理過程に文化・社会生態学的要因が影響していることが示された。フロアからは,これらの認知心理学的手法を用いた研究によって,ダイナミックな過程であるコミュニケーションについて検討を行うことの意義や限界点,また,異なる文化・社会生態学的要因が独立に影響を与えている可能性などについて多くの質疑があり,活発な議論が行われた。

(文責: 名古屋大学大学院教育発達科学研究科 博士前期課程 上田皐介)

参加者数:33名