2017年度 第2回NSP 竹村幸祐氏(滋賀大学経済学部)

投稿日: Oct 10, 2017 6:52:11 PM

日時

2017年12月16日(土)15:00-17:00

場所

名古屋大学教育学部2F 第3講義室

発表者

竹村 幸祐 氏(滋賀大学経済学部)

タイトル

集合的問題解決の一環としての相互独立性

概要

本発表では、文化心理学の中心概念のひとつである「相互独立性」が、協力行動とどのような関係を持つかを分析した研究を報告します。相互独立性とは、自他を切り離して考える傾向を指し、国や地域による差がある(e.g., 北米で東アジアより高い)ことが知られています。こうした国・地域の差は「文化」、すなわち、ある種の集合現象の中で生じていると仮定されてきました。しかしながら実際には、集合プロセスの中に相互独立性を位置づけて理解しようとする試みは、これまで十分になされてはいませんでした。発表者は、協力関係の中で相互独立性が果たす役割に注目することで、これに迫ろうと考えています。

この研究では、2種類の協力行動に注目しています。ひとつが、資源獲得における不確実性への集合的対処としての共同分配への協力(Kameda, Takezawa, Tindale, & Smith, 2002)です。もうひとつが、集団意思決定への協力(e.g., 提案行動; Kameda, Tsukasaki, Hastie, & Berg, 2011)です。これらはいずれも、集団メンバーが相互に独立である時に十全に機能するはずで、ここで相互独立性が一定の役割を果たすと考えました。発表では、漁業者を対象とした社会調査や大学の部活動についての調査の結果を報告します。

開催報告

2017年度第2回の名古屋社会心理学研究会では、滋賀大学経済学部の竹村幸祐氏に話題提供いただいた。発表では、「集合的問題解決の一環としての相互独立性」というテーマで、社会関係の中で相互独立性が果たす適応的な役割について、3つの調査研究の結果が報告された。

竹村氏は、ナイーブには集団での協力行動に結びつきにくいとみなされる個人の相互独立性が、実際には集合的な意思決定場面におけるエラーを低減する役割を果たし、資源獲得の不確実性の高い環境における相互扶助への志向性と強く結びついているという仮説の下、大規模調査のデータに基づく緻密な検証を行っている。研究1、研究2では、漁業や農業を生業とする地域コミュニティの人々を対象とする郵送調査を行い、資源獲得の不確実性の高い漁業従事者は、不確実性が相対的に低いそれ以外の職業従事者と比較して、相互独立性と相互扶助行動との関連を強く示すことが明らかとなった。研究3では、大学の部活・サークルを対象とした調査を行い、民主主義的な意思決定システムを持つと想定される文化系の部活・サークルでは、階層的な意思決定システムを持つと想定される体育会系の部活・サークルと比べて、相互独立性が集団内協力により強く結びついていることが明らかとなった。竹村氏の研究は、相互独立性が、不確実な状況下での資源獲得を目的とするコミュニティでの一般交換を促進することを実証した点、さらにフラットな意思決定システムの下で、相互独立性が集団内協力をより促進しやすくなる可能性を示したという点で、非常にユニークであった。

フロアとのディスカッションでは、相互独立性と協力行動との関連の強さがコミュニティレベルと個人レベルとで異なる可能性、所属コミュニティの属性やサイズの影響、資源獲得の不確実性への対処行動の進化的意味など、さまざまな観点から活発に議論が行われた。

(文責:名古屋大学大学院教育発達科学研究科心理発達科学専攻研究員 加藤仁)