2023年度 第2回NSP 

唐沢 穣氏(名古屋大学)

日時

2023年1216日(土)15:00-17:00

(東海心理学会との共催)

場所

名古屋大学教育学部大講義室

発表者

唐沢 穣氏(名古屋大学)

発表タイトル

行いよりも人格を非難したくなる心理―道徳判断における人物主義とその基礎にある心理過程 

要旨

「罪を憎んで人を憎まず」という原則は、一般的な倫理基準として洋の東西を問わず広く行き渡っていると考えられる。ところが実際には、「非難すべきは行為者の人格」という観点が刑事司法のプロセスにすら反映されている可能性についての指摘がある。ましてや一般人の道徳判断においては、望ましくない人格を排除しようとする動機が、日常的文脈における非難や懲罰に影響を与えることは珍しくない。本発表では、こうした人物主義的な道徳判断が、道徳違反行為に対する評価に与える影響と、その基礎にある心理過程を明らかにすることを試みた実証的研究について報告する。因果関係の推論と反実仮想の関係や、作為と不作為の対比なども考慮に入れながら、感情、動機、認知の各過程について考察する。心理過程に関する理論的な議論だけでなく、違反行為への対処に関する実際的な示唆についての議論にも期待したい。 

開催報告

社会生活において、他者やその属する集団についての評価・判断といった情報処理がどのように行われているか、という社会的認知の問題は、社会心理学の中でも大きなトピックの1つである。発表者の唐沢氏は、社会的認知の分野において数多くの先駆的な知見を発表し、長きに渡って当該研究分野を牽引してきた。今回の発表においては4つの研究を通じ、犯罪が行われた際の量刑の規定要因や、不道徳な行為が行われた(あるいは、道徳的な行為が行われなかった)際の原因帰属先としての個人の道徳性の役割についての知見の発表がなされ、行為に関する他の情報や意図性などの条件によって人物の道徳性の影響の程度が異なることから、人が(不)道徳的な行為を判断・非難する際に法の専門家のような合理的推論と直感的な人格非難の両方を併用するという対人判断のプロセスに関するモデルが提示された。また、道徳的な人格非難が行われる原因として、社会集団に損害を与える可能性のある人格を排除しようとする心理的メカニズムの存在が指摘された。

フロアからは、一般的な社会生活の文脈において個人の道徳性に関する判断が同様のプロセスで行われるかどうかといった知見の生態学的妥当性に関する質問や、裁判員裁判のように実際に他者の不道徳的行為に関する判断が行われるような状況に対する知見の一般化可能性に関する質問がなされ、活発な議論が展開された。

報告者:名古屋大学教育発達科学研究科 研究生 佐名龍太

参加者:43