2014年度 第3回NSP 黒川雅幸 氏(愛知教育大学)

投稿日: Oct 28, 2014 6:38:25 AM

日時・場所

10月25日(土)15時〜17時

名古屋大学教育学部 1F 大会議室

発表者

黒川雅幸氏(愛知教育大学)

題目

もったいない感情に関する研究

発表

「もったいない」とは日本において長い間受け継がれてきた倹約の精神であり,モノが豊かではなかった時代においては,倫理として教育されてきた。モノが豊かな時代になっても,環境破壊を最小限に抑え,資源利用を持続的に行うために,今なお「もったいない」をスローガンに掲げた活動は様々なところで見られる。

ところで,ある対象への金銭,時間,労力といった投資をし続けることが損失になると分かっていても,それまでの投資を惜しみ,投資をやめられないということがある(埋没効果:sunk cost effect)(Arkes & Blumer, 1985)。例えば,ダム建設や道路工事といった公共事業にも該当するケースはあるだろう。この経済的な不適応行動に影響しているのは「もったいないと感じることであると考えられる。埋没効果は低次の動物や子どもには観察されない現象であると指摘されており (Arkes & Ayton, 1999),「もったいない」と感じることは比較的高次な活動であると推察できる。

本発表では,「もったいない」を認知的感情として捉え,感情としてもつ機能や,「もったいない」と感じやすい個人差,発達的変化に関する研究などについて報告したいと思う。

開催報告

2004年にノーベル平和賞を受賞したWangari Muta Maathai氏が,日本の「もったいない」という言葉に感銘を受けたと話したことは記憶に新しい。黒川氏は,もったいないという事象や経験に関する知見がない中で,もったいないを「対象に付与した主観的価値が,十分に発揮されることなく,無駄に終わってしまうことを惜しむ感情」と定義し,その特性や心的機能や発達的変化の解明を試みている。

当日の講演においては,もったいない感情,およびもったいない感情特性を測定する自己報告式尺度が最初に紹介された。もったいない感情尺度は,価値の損失,価値あるものの未発揮,再利用・再生利用可能性の消失,投資分の未回収,無駄な出費という,5因子から構成されている。続いて,もったいない感情および感情特性の心的機能や発達的変化について,調査や実験の結果が紹介された。もったいないという感情の喚起や感情特性は環境配慮行動,食べ残しを少なくするという行動と関連することが示された。これらのデータから,もったいない感情の機能は,自己制御に基づく行動の改善を促進することであるという提案がなされた。また,黒川氏は,もったいない感情の5因子に関する評価に必要な認知能力の発達という観点から,小学校低学年・中学年や専門学校生を対象とした調査を現在行っており,その最新の結果が報告された。

質疑応答では,「もったいない」が認知的評価そのものであるか,感情であるか,また他の類似する概念とは異なるかについて,今後の展望までを踏まえた活発な議論がなされた。

参加者:22名

(文責:名古屋大学大学院教育発達科学研究科 五十嵐研究室 博士前期課程 鈴木伸哉)