2015年度 第1回NSP 村山綾氏(日本学術振興会特別研究員 / 関西学院大学文学部)

投稿日: Apr 21, 2015 6:4:42 AM

日時・場所

4月18日(土)15時〜17時

名古屋大学教育学部 1F 大会議室

発表者

村山 綾 氏(日本学術振興会特別研究員 / 関西学院大学文学部)

題目

刑事事件の被害者・加害者に対する一般市民の判断

発表

発表者のこれまでの研究から、評議での専門家‐非専門家コミュニケーションは、行動的・心理側面のいずれにおいても専門家の影響が非常に強いことが示されてきた(村山・今里・三浦, 2012; 村山・三浦,印刷中)。このような結果を踏まえた上で、本発表では、法の専門家ではない一般市民が、刑事事件の被害者、加害者に対してどのような印象を持ち、法的判断を行うのかというテーマのもと行った質問紙実験の結果を中心に紹介する。また、人のもつ公正世界信念や道徳基盤がそのような判断に影響する可能性について検討した研究結果についても触れる。発表を通して、司法場面を対象とした心理学研究(特に実験研究)のあり方についても議論したい。

開催報告

専門家と非専門家(一般市民)が法的判断を下す裁判員裁判は、刑事事件の被告人の処遇を決めることから、きわめて重要な意思決定場面といえる。その一方で、裁判員裁判は施行されてから日が浅く、日本における心理学的研究の蓄積は未だ十分とはいえない。発表者の村山氏は、主に実験的な手法を用いて、一般市民が刑事事件の被害者や加害者に対して抱く印象がどのように変化するのか、法的判断がどのような心理学的メカニズムにより導かれているのかについて、先駆的な検討を行っている。

発表では、評議場面において、非専門家である一般市民は、たとえ専門家が意図せずとも、専門家の主張に影響されやすく、専門家と同じ意見であった場合には、その確信度が高められることが明らかとされた。また、加害者は将来的に罰を受けるべきという因果応報的な世界観 (内在的世界信念) は、加害者に対する非人間化を促し、厳罰志向を強めることが明らかとなった。さらに、道徳基盤が嫌悪的な感情反応を媒介する形で法的判断(罪責認定)へと影響を及ぼす可能性が示された。これらの知見は、評議コミュニケーションおよび法的判断において、専門性をもたない一般市民がどのような心理プロセスに基づいて意思決定を行っているのかを、多面的・多角的なアプローチによって明らかにしたものである。

質疑応答では、公正世界信念尺度の測定概念が、加害者・被害者という二項関係が成立した文脈に固有のものなのか、個人が抱く一般的な世界観として測定されるものなのかといった疑問点や、専門家・非専門家に対して本研究の成果をどのように還元していくのかについて、活発な議論が行われた。

参加者:32名

(文責:名古屋大学大学院教育発達科学研究科 五十嵐研究室 博士後期課程 玉井颯一)