2024年度 第1回NSP 

髙野 了太氏(名古屋大学)

日時

2024年6月22日(土)15:00-17:00

場所

名古屋大学教育学部2F 第3講義室

発表者

高野 了太氏(名古屋大学大学院情報学研究科)

発表タイトル

畏敬の念の心理・生物学的基盤

要旨

満天の星や雄大な自然、自然災害、アート、偉大な人物などに接した際、広大無辺な何かを感じて自己のちっぽけさを自覚し、同時に世界観・価値観が更新される。こうした感情反応は近年、心理学や神経科学などの領域で「畏敬の念(awe)」として実証的に検討されはじめている。発表者はこれまで、心理学実験・調査を基本としつつ、脳機能イメージングや生理反応計測、自然言語処理解析など多様なメソドロジーを用いて、aweの構造や機能を調べてきた。本発表ではその一連の成果について紹介する。

開催報告

2024年度第1回の名古屋社会心理学研究会では,名古屋大学大学院情報学研究科の高野了太氏に話題提供いただいた。今回は,「畏敬の念 (awe)」について,心理学だけでなく,脳科学,生理学など様々なアプローチによる研究知見が紹介された。 

はじめに,fMRIを用いた神経表象に関する研究が報告された。実験では,通常のAmusement,Fear条件に比べ,awe条件において左側の中側頭回の活動のレベルが低いことが示され,「自身をちっぽけな存在だと感じる」ことが,既存のスキーマを「手放す」プロセスと関連している可能性が示唆された。 

次に,awe感情生起時の生理反応の時系列データに関する研究が報告された。実験では,映像視聴時の主観的感覚,瞳孔系,皮膚コンダクタンスについて測定が行われ,awe条件において瞳孔系の拡張と収縮が激しく行われていることや,視界が開けるようなシーンを見た際に特に発汗量が増加することなどが示された。awe感情体験時の交感神経の働きは先行研究で一致していないとされており,瞳孔系に関する時系列データによってawe経験が交感神経の活性化と不活性化の両方に関連していることが当該研究の結果から示された。 

最後に,心理学的な観点からaweについて検討した研究について報告が行われた。VRを使用してawe感情を生起させた場合,ラバーハンド錯覚が生じやすくなることが示され,awe感情によって自他の境界線が溶けるような感覚が生じている可能性が示唆された。また,awe感情に関する自由記述をトピックモデルで解析し,トピックの生起頻度と,尺度によって測定されたawe感情の関連を検討した研究についても報告が行われ,トピックごとに関連するawe感情の側面が異なることが示された。 

フロアからは,awe感情喚起に用いられた映像刺激に関する質問や,awe感情を持っていることの進化的意義についての質問,awe感情がどのような社会的効果をもたらすのかについての質問などがなされ,活発な議論が展開された。 

文責:名古屋大学教育発達科学研究科 博士前期課程 山田怜生

参加者:30