2023年度 第3回NSP 

松本 友一郎氏(中京大学)

日時

2024年3月16日(土)15:00-17:00

場所

名古屋大学教育学部E・F演習室

発表者

松本 友一郎氏(中京大学)

発表タイトル

職場における本音の抑制についての検討 ―組織のsilenceはいかにして維持されるのか―

要旨

職場におけるコミュニケーションはメンバーにとって安心や励みにもなりうるが、本音の抑制はストレッサーとなりうることがわかっている。また、メンバー間で互いに本音を抑制することは、一方で、組織の安定につながるかもしれないが、他方で、本当は誰も望んでいない規範の維持につながるかもしれない。ここでは、職場における本音の抑制について3つ発表する予定である。1つ目は、本音の抑制に関わる要因について行った質問紙調査による検討である。この調査では、組織風土等との関連を分析した。2つ目は、本音の抑制を自己報告以外で測るために取り組んだIATによる検討である。仕事に対する顕在的態度と潜在的態度の組み合わせにより分析を試みた。3つ目は、組織におけるsilence(沈黙)が維持される仕組みについて、多元的無知をベースとした検討である。横断調査だけでなく、新卒社会人を対象として、入職時と入職1年後の縦断調査も行った。これら3つを通して、本当は話したいことまで抑制されない組織について考えてみたい。

開催報告

発表者の松本氏は組織心理学を専門とし、主に医療・看護といった対人援助職におけるストレス要因やバーンアウトの過程に関する数多くの知見を発表してきた。今回の発表においては職場におけるストレスやバーンアウトの要因としての「本音の抑制」に焦点を当てた3つの研究知見が紹介された。第1の研究では本音の抑制が起こる過程に、他者からの要求に応えて自己制御を行おうとするメカニズムや、組織の風土などといった環境要因が影響を及ぼしている可能性が示唆された。また、第2の研究では本音の抑制とIATを用いて測定された業務への潜在的態度および自己報告による顕在的態度の組み合わせの関連性について検討がなされ、業務における不服な状態を表出できなかった経験が業務に対する顕在的態度と関連していることが示された。第3の研究では本音の抑制が行われる原因として、個々人は本音の表出にネガティブな態度を有していないものの、他者はそうではないと考える多元的無知が生じているとの仮説が検証され、組織の構成員が(自分は有していないが)自己の属する組織や日本社会全体が、本音を表出することはネガティブなこととする価値観を有すると考えており、それが本音の抑制という行動をもたらす可能性が示唆された。

フロアからは、職場という限定された状況下におけるバーンアウトと、より広範な社会的状況で発生する対人摩耗との関連性についての質問や、本音の抑制において自己制御が具体的にどのような役割を果たしているかという認知・情報処理の過程に関する質問がなされ、活発な議論が展開された。

報告者:名古屋大学教育発達科学研究科 研究生 佐名龍太

参加者:25名