2018年度 第3回NSP 浜村武氏(Curtin University・国際交流基金フェロー)

投稿日: Oct 10, 2018 1:4:55 AM

日時

2018年12月1日(土)15:00-17:00

場所

名古屋大学教育学部2F 第三講義室

発表

浜村武氏(Curtin University・国際交流基金フェロー)

タイトル

ビッグデータと社会・文化心理学

概要

ビッグデータの分析は、膨大なデータを駆使することで既存の研究活動を活発化させ、さらには従来の社会科学の研究手法では難しかった研究課題を可能としうる。ビッグデータ分析そしてデータサイエンスの発展は、社会・文化心理学の研究にどのような効用をもたらすのであろうか。このプレゼンテーションではまずビッグデータを用いた社会・文化心理学の代表的な研究事例をレビュー。そして文化心理学の中でも特に文化の変遷の研究におけるビッグデータの分析の効用について、我々が行なっている研究を例として詳しく考察する。具体的にはビッグデータを用い集団間関係の変遷(研究1)そしてanxietyの長期的な変遷(研究2)を分析する試みをご紹介する。

開催報告

2018年度第3回の名古屋社会心理学研究会では、Curtin Universityの浜村武氏に話題提供いただいた。近年、アメリカ社会では「Generation Me」として、自己愛の増加や共感性の低下といった若者の自己中心化が指摘されている。また、多くの人々は、社会のグローバル化に伴って人々の個人主義化が進んでいるという素朴な信念を有していると考えられる。しかし、これらの心理学的構成概念の時代変化が体系的に実証されている例は少なく、研究目的に適うデータを入手することがそもそも困難である。

浜村氏は、これまでに文化変化をテーマとしたさまざまな研究を行ってきたが、今回は、近年注目を集めているビッグデータを用いた研究事例について発表した。研究1では、Google Trendsにおける「不安」「心配」というネガティブ語の検索数が、3月〜6月に特に都市部で増加することが示され、「五月病」現象の存在が示唆された。また、それらの語の検索数の多い都道府県は、心理的ストレス得点(K6)も高いことが示された。さらに、都道府県単位の住居流動性がネガティブ語の検索数と関連していることが明らかとなった。

研究2では、外集団に対する感情表出という社会心理学の古典的テーマについて、ニューヨーク・タイムズ紙の過去100年余りの記事データベースを用いた研究が紹介された。研究では、感情辞書(LIWC)によって、記事中の国名と共起する単語に対する感情カテゴリーのコーディングが行われた。その結果、第二次世界対戦時や日米貿易摩擦問題時において、日本に対する否定的言及の割合が高まっていたことや、否定的言及とアメリカ国内の失業率が関連していたことなどが明らかとなった。

これらの研究事例から、社会心理学、特に文化心理学の研究領域における、ビッグデータの活用可能性が示された。とりわけ、従来の方法では実証することが難しかった、文化と人々の心の時間的変化を捉えるという点において、ビッグデータを用いたアプローチの有用性が示唆された。質疑応答では、収集したデータ(Googleでの検索結果など)が、心理学の諸理論が前提とする人々のこころを適切に反映しているかどうかという妥当性に関する問題や、ビッグデータから得られた知見の一般化可能性に関して、非常に活発な議論が行われた。

参加者:43名

(文責:名古屋大学教育発達科学研究科 博士前期課程 澤田昂大)