2016年度 第2回NSP 吉澤寛之氏(岐阜大学大学院教育学研究科)

投稿日: Sep 28, 2016 11:54:44 PM

日時

2016年10月29日(土)15:00-17:00

場所

名古屋大学教育学部2F E・F演習室

発表者

吉澤 寛之 氏(岐阜大学大学院教育学研究科)

タイトル

社会化の担い手たちの包括的資源は子どもの社会性に反映されるのか

概要

子どもの社会化に影響する環境には、家庭、友人・仲間集団、近隣住民、学校などがあります。生態学的環境モデルにおいては、環境の構造として、子どもを同心円の中核に置き、内側から順にマイクロシステム、メゾシステム、エクソシステム、マクロシステムの4レベルの環境が想定されています。子どもの社会化に関する多くの研究ではマイクロシステム、メゾシステムにおける社会化の担い手の影響が主に検討され、エクソシステム、マクロシステムにおける担い手の影響は積極的に検討されていません。

そこで、本報告の前半では、比較的マクロな環境要因である近隣住民が、子どもの社会化に与える影響を検証した研究を紹介します。後半では、システムを構成する社会化の担い手たちの包括的な影響を横断・縦断調査のデータを用いて分析し、すべての担い手の包括的な資源が子どもの社会性の高さと共変する可能性を検証した研究を紹介します。両研究で得られた知見から、子どもの社会性を高めるうえで有効な環境のあり方を考察します。

開催報告

近年、青少年の非行の要因として、社会化の失敗という側面が注目されている。発表者は、子どもの社会性を構成する要素として認知のゆがみと道徳不活性化に注目し、地域の持つ特徴や地域に暮らすエージェント(他者)が子どもの社会化に与える影響について、社会化エージェント資源(ARMS)モデルをベースに、大規模サンプルを対象として精力的な検討を行ってきた。

発表の前半部分では、地域の持つ特徴が子どもの社会化に及ぼす影響を検討した研究が紹介され、地域の共同体としての凝集性や統制の高さ、また地域での暴力経験の程度が、子どもの社会性に影響を与えることが示された。地域の統制の高さは子どもの反社会性を抑制し、逆に地域での暴力経験の程度は子どもの反社会性を促進していた。さらに、異なる文化における検討でも、地域のもつ影響力は普遍的であった。後半部分では、地域の人々が子どもの社会化に与える影響を検討した研究が紹介された。親や友人、地域住民、教師といったエージェントの影響を検討した結果、それぞれのエージェントの持つ包括的資源の高さが、子どもの反社会性を抑制することが示された。フロアとのやり取りでは、測定の問題や、これらの研究から示唆される非行への対処策、今後の研究の展望などについて、活発な議論が行われた。

参加者:25名

(文責:名古屋大学大学院教育発達科学研究科 五十嵐祐研究室 博士前期課程 樽井この美)