2014年度 第1回NSP 佐藤剛介氏(名古屋大学学生相談総合センター)

投稿日: Jul 14, 2014 3:47:43 AM

日時・場所

7月12日(土) 15:00~17:00

名古屋大学教育学部 1F 大会議室

発表者

佐藤剛介氏(名古屋大学学生相談総合センター)

発表

「社会不安の文化差に対する社会生態学的アプローチ」

幅広い比較文化研究の展開により、人々の心理・行動傾向に文化的差異が存在することが、多くの心理学研究者に認識されるに至りました。そういった文化的差異の説明として最も多く用いられている説明原理は、「人間とはどのような存在なのか」に関する人々の信念の違い、つまり文化的自己観の差異です。臨床心理学や精神医学の比較文化研究によって発見された社会不安の文化的差異も、同様に文化的自己観による説明がなされています。今回の発表では、社会不安の文化的差異を説明する環境要因に注目した研究を発表させて頂きたいと思います。社会環境要因の一つである関係流動性(当該環境における対人関係に関する選択肢の多寡、Yuki at al., 2007)に注目した社会生態学的アプローチによって、社会不安の文化差や地域差を説明できるかについて検証した一連の研究をご紹介します。皆様から多くのご意見をいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

開催報告

佐藤氏は、「拒絶感受性」や「対人恐怖傾向」など、他者との関係の中で相手の視点や迷惑に過度に注目する不安傾向の文化差を、社会生態学的環境の違いによって説明することを試みている。また、社会生態学的環境の指標として社会や社会状況に存在する対人関係における選択肢である「関係流動性 (relational mobility)」に注目しており、既存の対人関係を失っても、代替可能な関係が存在する高関係流動性の社会では、社会不安を高くもつ必要性が相対的に低いという予測を、国際比較研究により検討している。

まず研究1では、関係流動性が拒絶感受性の文化差を予測するのか、日米比較を通して検討された。その結果、関係流動性の高いアメリカ人は、関係流動性の低い日本人に比べて、低い拒絶感受性を示した。また、媒介分析の結果、国間の関係流動性の差異が、拒絶感受性の国間の差異を媒介していることも確認された。研究2では、社会不安の指標として「対人恐怖傾向」の文化差を日加比較により検討した。その結果、研究1と同様に関係流動性の高いカナダ人は、関係流動性の低い日本人よりも、低い対人恐怖傾向を示した。さらに、研究3では、国内の地域間の関係流動性の差異によっても、対人恐怖傾向の差異が説明されることが明らかにされた。

従来の研究では、文化的自己観の文化差を所与のものとし、社会不安の文化差が生起するメカニズムに対しては、トートロジカルな説明が与えられていた。これに対して、社会生態学的アプローチは、人間が社会環境への適応を試みた所産として、心理・行動傾向に文化差が生じたとする説明を可能にする。ディスカッションでは、国や地域などの文化レベルを明確に定めた上で、個人レベルの関係流動性を測定すること、関係流動性を適切に操作するための手続きを開発することの必要性が議論された。

参加者:34名

(文責:名古屋大学大学院教育発達科学研究科 五十嵐研究室 博士後期課程 玉井颯一)