2015年度 第3回NSP 塚本早織氏(名古屋大学大学院環境学研究科)

投稿日: Oct 21, 2015 2:15:47 AM

日時・場所

10月17日(土)15時〜17時

名古屋大学教育学部 1F 大会議室

発表者

塚本早織氏(名古屋大学大学院環境学研究科)

題目

集団間態度の形成における心理的本質主義の役割

発表

移民や難民受け入れについての問題が昨今取り沙汰されているが,人はなぜ,どのような場合に,どのような他者を「外集団」の一員とみなして集団間態度を決定するのだろうか。発表者の研究は,心理的本質主義という素人理論を元にしたカテゴリー認知から,集団間態度の形成プロセスを明らかにすることを目的としている。心理的本質主義によると,社会的カテゴリーの属性は本質の有無によって規定されるため,内集団と外集団の差異は過度に強調されて認識される。このように顕現化された集団間の境界線に関する認知は,時にステレオタイプを助長し,特定の集団に対する排他的態度が形成される要因となる。本発表では,心理的本質主義に関する実証的研究の結果を通して,外集団他者に対する態度形成の認知的背景を紹介したい。アメリカ留学中に得た知見や心理的本質主義の文化的基盤についての話題にも触れ,実際社会の問題や課題に対するアプローチについても広く議論したい。

開催報告

心理的本質主義とは、社会的カテゴリー認知について、「カテゴリーには根本的で核となる本質が存在し、カテゴリーはその本質を基準に分類される」と信じる際に用いられる認知的枠組みである。心理的本質主義の適用は、ステレオタイプの確証や集団間差異の強調につながりやすい。そのため、心理的本質主義のはたらきを理解することは、偏見などのネガティブな集団間態度の形成を理解するための重要な鍵となる可能性がある。塚本氏は、心理的本質主義が偏見形成を助長するメカニズムについて、国際比較などの手法を用いた多面的な検討を行っている。

当日の発表では、塚本氏が行った4つの実証研究が報告された。研究1では、内集団に心理的本質主義を適用しやすい者ほど、個人間の差異を集団間の差異へと一般化しやすいことが示された。研究2では、実験的に操作された内集団への心理的本質主義が、ナショナリズムが低い者において、外集団への差別的態度を高めることが示された。研究3では、日本人とオーストラリア人のサンプルを対象に、対人認知の文化的特徴が心理的本質主義の適用に影響していることが示された。研究4では、北米サンプルを対象に、国民性の認知次元のひとつである文化的価値観が、移民受け入れに対する態度を規定することが示された。

質疑応答では、心理的本質主義研究とプロトタイプタイプ理論の関係、集団の認知を喚起しない対象者(障害者など)や流動的なカテゴリー(若者、高齢者など)への本質の認知、内集団への態度形成における心理的本質主義の機能、人以外のオブジェクトに対するカテゴリー認知と心理的本質主義との関係、心理的本質主義の形成における動機づけの機能、心理的本質主義と偏見の分離可能性などについて、活発な議論が行われた。

参加者:23名

(文責:名古屋大学大学院教育発達科学研究科 五十嵐研究室 博士後期課程 佐藤有紀)