2018年度 第1回NSP 白木優馬氏(神戸学院大学心理学部)

投稿日: May 01, 2018 12:27:4 AM

日時

2018年5月26日(土)15:00-17:00

場所

名古屋大学教育学部2F E・F演習室

発表

白木 優馬 氏(神戸学院大学)

タイトル

感謝による恩送りを支える心理的メカニズム

概要

他者から受けた親切を別の第三者に返報することを恩返しに対比して恩送りと呼びます。恩送りは新たな恩送りをもたらし,次々と連鎖していく可能性があります。こうした恩送りには,親切行為の受け手が感じる感謝の感情が重要であることがわかっています (Bartlett & DeSteno, 2006)。つまり,(1) 親切が受け手の感謝を喚起し,(2) 喚起された感謝が新たな親切を促すことで恩送りが生じています。ただし,これまでの研究では,この恩送りのプロセスにおける前半,後半のそれぞれにおいて未検討な課題がありました。 そこで本発表では,受け取った親切に伴うどういった側面に対して私たちは感謝をしているのか?なぜ感謝が喚起されると私たちは第三者に対して親切をおこなうようになるのか?という二つの問いについて検討した三つの調査・実験について報告し,そこから明らかになる心理的メカニズムについて紹介したいと思います。

開催報告

2018年度第1回の名古屋社会心理学研究会では、神戸学院大学の白木優馬氏に話題提供をいただいた。白木氏は、ある個人から利他行動を受けた個人が、別の他者に対して利他行動を行う現象である「恩送り (pay it forward)」について、質問紙実験やオンライン実験を用いて検討している。

今回の発表では、恩送りを促進する要因として、特に「感謝」に着目した研究が紹介された。研究1では、利他行動を受けた際の感謝と負債感の喚起要因の検討を行い、感謝は利他行動の価値によって喚起される一方、負債感は利他行動のコストによって喚起されることが示された。研究2では、クラウドソーシングサービスを利用したオンライン調査を行い、関係性欲求が感謝と恩送りを媒介することを示した。これらの研究からは、利他行動を受けた際に、その行動に価値を感じると感謝が喚起され、それによって関係性欲求が生じることで別の他者に対する利他行動が生じるという、恩送りが生じるメカニズムが示唆される。白木氏の一連の研究は、進化的には生き残りにくいとされる恩送りを支える複雑な心理的メカニズムの一つを明らかにし、恩送りが生じやすい条件を示唆している点で非常に興味深い。

フロアでのディスカッションでは、感謝を喚起するための実験的操作に関する議論や、感謝が持続的に効果を持つ可能性、関係性欲求が利他行動を促進するプロセスに関する議論など、様々な観点から非常に活発な議論が行われた。

参加者:33名

(文責:名古屋大学大学院教育発達科学研究科博士前期課程 古橋健悟)