2013年度 第3回NSP 金政祐司氏(追手門学院大学)

投稿日: Dec 24, 2013 12:49:17 AM

※今回は東海心理学会および名古屋大学PhDプロフェッショナル登竜門との共催です。

日時

12月14日(土) 15:00~17:00

場所

名古屋大学教育学部 2F 第3講義室

発表者

金政 祐司 氏(追手門学院大学)

発表内容

私は、これまで主に青年・成人期の愛着スタイルが親密な対人関係や適応性にどのような影響を及ぼすのかについての研究を行って参りました。青年・成人期の愛着スタイルとは、幼少期での愛着対象との相互作用での経験が基盤となって形成され、漸次的に変容する可能性を秘めながらも個人の行動や思考を方向付けることで確証的に維持されていく自己や他者への信念や期待として捉えられるものです。このような自己や他者への信念や期待が、親密な関係においてどのように作用するのかについて、大学生と母親のペア、恋人のペア、熟年夫婦のペア、友人ペアという4つのペア調査の結果に基づき、愛着関係とそれ以外の関係との境界線という観点から研究発表をさせていただきたいと思います。また、最近行った大学生、青年期後期社会人、成人期前期社会人を対象とした調査から、自己や他者への信念や期待が、個人が社会に対して抱くイメージを媒介して将来への時間的展望に影響を及ぼすというプロセスについての多母集団同時分析の結果を紹介させていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

報告

ペア調査に基づく「青年・成人期の愛着関係とそれ以外の関係との境界線」に関する研究と、大学生サンプルと社会人サンプルの比較に基づく「愛着スタイルが社会へのイメージおよび時間的展望に及ぼす影響」に関する研究についての発表であった。

愛着スタイルの根底にある愛着の二次元、親密性回避と関係不安は、自己および他者への信念や期待として捉えられるものである。まず、研究1では、愛着二次元が、関係内の自己および相手の感情経験を介して、双方の関係への評価に影響を及ぼす媒介モデルが提案された。青年・成人期の愛着関係と定義される親子関係、恋愛関係、夫婦関係の3つの愛着関係と、青年・成人期の愛着関係とは定義されていない友人関係との間で、このモデルの比較検討が行われた。各関係に関してペアデータを収集し、上記の媒介モデルの検討を行った結果、3つの愛着関係においては、仮説モデルの一部が支持され、「関係不安は、自己と相手の関係内のネガティブ感情を喚起させることで、双方の関係への評価を低下させ、結果的に関係の良好さや継続性を危険にさらす」という愛着の自己成就予言のプロセスが働いていることが示唆された。しかし、友人関係では、愛着関係でみられた媒介過程が認められなかったことから、そこに愛着関係とそれ以外の関係との境界線が存在する可能性が示された。

研究2では、内的作業モデルは、自身の置かれた世界や環境をどのように捉え、また、個人が将来のシミュレーションや行動のプランニングをどう行うのかに影響を与えるという理論的背景から、愛着二次元が、個人が社会に対して抱く社会イメージを媒介して将来の時間的展望に影響を及ぼすというモデルが提案された。そこで、大学生、青年期後期社会人、成人期前期社会人を対象とした調査データに基づき、上記の検討を行った結果、いずれのサンプルでも仮説のモデルは支持され、愛着二次元は社会イメージを介して、将来の時間的展望に影響を及ぼしていることが示された。

これらの研究結果を踏まえ、今後はより妥当性の高い測定や幅広い研究対象の選定を行っていく必要性が説明された。また愛着の予測し得る範囲や、社会イメージの形成過程での測定誤差などについて活発な議論が行われた。

参加者:約40名

(文責:教育発達科学研究科 五十嵐研究室 博士後期課程 加藤 仁)