もっと気軽に、多文化サービス

□足立匡子 「もっと気軽に、多文化サービス」(図書館を知りつくすためのQ&A 7)『図書館雑誌』90(12), 1996.12. p.1014.より

Q 多文化サービスというのは、誰のためのどんなサービスですか。

A 日本では文化の上での多数派は、日本語を話し日本文化に最も親しみを感じる人です。多文化サービスは、多数派に属さない人にもその人の必要性や興味にあった資料を提供して、図書館利用の障害を取り除こうとするものです。

Q そうすると、日本語ができない外国人のためのものなんですか。

A 必ずしもそうとは言えません。何世代も日本に住んできた中国人、韓国・朝鮮人は日本語が話せます。でも自分の祖国や民族に関心を持っているでしょう。逆に日本国籍があっても、中国から引き揚げてきた人、外国で子ども時代を過ごした人などは日本語が話せないこともあります。日本語が話せても、興味があるのは日本のことより永く暮らしていた外国のことかもしれません。

Q すると、私のように日本人で、日本にしか住んだことのない人は、とりあえず関係ないようですね。

A ところが、これもそうとは限らないんです。Qさんが他の文化を持つ隣人についてもっと知りたいと思ったとき、手助けできるような資料が最寄りの図書館になくてはならないんです。これも多文化サービスの重要な一側面です。

Q では、外国人に日本語の資料を提供したり、日本人に日本語の資料を用意したりするわけですね。

A はい。身近な図書館に行けば、地域に住む文化的少数者のための資料があり、日本語の蔵書の中にもその人たちの文化が反映されて、初めて多文化サービスが成立します。複数の文化が共存しようとする現在の日本では、どこの図書館にも求められるサービスではないでしょうか。

Q 何から始めたらいいでしょう。

A 地域にどんな人が住んでいるか調べます。外国人登録の数をまず把握します。それから、地域にある関係団体、学校、教会、外国人のための支援団体などを訪問します。図書館のほうから出かけていって、地域の外国人住民が、日常生活の中でどんな情報や資料を必要としているか、話を聞いてみましょう。対象となる人たちが図書館というものになじみがなさそうだったら、公共図書館というのは無料で誰でも気軽に使えるところで、プライバシーも守られる、ということも説明します。

来日して間もない人のためならば、最も必要とされ喜ばれる資料には、出身国の新聞、雑誌、子どもの本、料理の本や旅行案内などの実用書、日本語学習書など日本についての本、気楽に読める小説などがあります。視聴覚資料なら、字が読めなくても楽しむことができます。親の文化を受け継いでいくために、子どもには祖国のことばで書かれた資料が必要です。何世代も日本に住んできた人がいる地域では、その人たちの文化について日本語で読める資料も必要になります。

Q でも、外国語資料の整理のことを考えると気か重くて……

A そもそも整理する必要があるか考えてみてください。資料を提供することが重要なのですから。利用しやすく受入整理も重圧にならないやり方を考えてください。雑誌なら、個々の雑誌の識別ができて巻号の表示がわかれば大丈夫です。図書の分類も、日本語資料より桁数を少なくするとか、収集規模によっては別置するだけで分類しないとか、いろいろ方法はあるはずです。コンピュータ処理できない言語の資料でも、貸出返却とバーコードから資料の特定さえできれば実用上問題はありません。図書の表紙のコピーをとって、バーコード番号順に並べておくだけでも役に立ちます。とにかく、整理をきちんとしなくても立派にサービスをすることはできるのです。

Q 外国語が得意でない私にも多文化サービスができるでしょうか。

A もちろんです。私たちの仕事は、資料を求めてやってくる人のお手伝いをすることです。たとえ、つたない外国語で利用者とやりとりすることになっても私たちの役割に変わりはありません。利用者は、Qさんが外国語を話すからではなく、自分のほしい資料との橋渡しをしてくれるから、やってくるのです。司書としてできる仕事をしてください。