『むすびめ2000(にせん)』創刊号より

1991年7月

いろいろなことを『むすぶ』ことを願って、この通信を発刊します。図書館と、日本で生活している外国人、日本語が中心言語でない日本人、その暮らしや毎日をよいものにしようとネットワーキングしているグループの人々、いろいろな言語で書かれた本、雑誌、新聞、ビデオや情報、どんな言語のものがどこにあるかの所在情報、その資料の入手の方法についての情報、それら全部の『むすびめ』となることができれば、という思いを込めています。西暦2000年までには、さすがの日本も単一民族国家の幻想を脱皮し、多民族、多文化国家として動きだしているだろうし、図書館が、そのインフラストラクチャーとしてしっかり機能しているはずだ、そう願いたいというおまじないの気持ちを2000にこめました。どうぞ、いろいろな形で参加してください。

『むすびめ2000』発刊の辞

【内なる国際化】この数年、日本在住外国人の増加に呼応して・関連の図書や雑誌・新聞の特集、テレビ番組やシンポジウムなどが、大変な勢いでふえています。大都市圏、工業地帯では、好況日本の人手不足と、国際的な労働力の移動先という要素がかみ合い、アジア全域から研修生などの労働者として、また入国管理法改正後は、ビザの心配のない日系南米人の人々が、工業地帯の周辺に集住し、家族を呼び寄せて生活を始めています。「あなたのとなり」に外国人が住んでいたり、電車で隣り合わせたり、といった「内なる国際化」現象が、あっという間に日常茶飯事になってしまいました。重い歴史的経緯をもつ在日韓国・朝鮮人、在日中国人の人々の、余りに長い間放置され、解決されないまま山積している生活上、人権上の諸問題に対する環境も、この数年少しずつ変化してきました。外国人登録問題のように、最近やっと解決の第一歩がしるされたものもあります。上記のニューカマーの人々の存在が、在日の人々の問題を見えない構造にしてきたこれまでの手法に再検討を迫っていることは確かです。国連は1993年を「世界の先住民のための国際年」とすることを決めました。日本政府が、アイヌの人々の民族文化伝統の保持をどう保証するか、施策がどのようなものになるのかは、オールドカマー・ニューカマーにかかわらず、民族的マイノリティとその文化伝統保持に対する日本の姿勢を見る格好の試金石になる様に思います。

【教育-医療-救急-警察】暮らしの様々な場面で、外国人との共生を目指す動きが出てきています。1990年代は、日本の多文化社会化、多民族化の時代の幕開けとしてしるされることでしょう。例えば、教育、医療、社会保障、雇用、救急、警察、刑務所、裁判所など、毎日の暮らしへの密着度、緊急性が高く、意思の疎通が最重要である現場では、多くの困難を抱えながら、次々と工夫を凝らした対応処置が進んでいます。前述の本や新聞の報道の多くは、これらの機関、民間の援助団体、草の根グループなどによる、多言語マニュアルの作成や、通訳スタッフの確保の苦労などを伝えています。地方自治体の広報や生活ハンドブックの多言語版を含むと、この数年、外国人を対象とした資料は相当刊行されてきています。これらは、東京都生活文化局国際交流部外事課編『平成元年度外国語刊行物一覧』のような資料で、部分的に把握できますが、配布対象を限定する場合も多く、全貌をつかむのは大変困難です。仮に、地域の図書館が収集し、利用に供する事ができれば、資源の有効活用につながるのではないでしょうか。

【図書館と外国人】地方自治体が国際化政策を作るとき、図書館がその機能の一端を担うという例が余りありません。それは、図書館が政策決定者の生活の一部では.ない事、少なくとも、外国人の生活に必要な機関だと言う認識があまりない事を示すように思われます。図書館が、地域の国際化政策、いわゆる多文化サービスの拠点の一つとして機能する(可能性を持つ)という事を、国際化政策の立案担当者に理解してもらう必要を感じます。図書や雑誌という目に見える物を住民の生活範囲に置く事の実効性を、資料費、人件費獲得のためにも、外国の事例を含めて、説明して行きたいものです。最近、あるアジア図書専門の書店に「工場でタイ人を15人雇っているのだが、彼等の読める小説とか、読み本なんかありませんか。」という電話があったそうです。今は、食住の手当でいっぱいのニューカマーも、次第に生活者として、小説を読んでくつろぎたい、故国のニュースを知るために雑誌、新聞を見たい、と考え始めます。子供がいる人は、日本語が上達し日本文化を吸収するわが子に、その民族の文化伝統を伝えられるものを必要とします。必ずしも読書の習慣を持つ人だけとは限りませんから、(入手の困難は図書以上かも知れませんが)インドなどの娯楽映画、イスラムや南米の音楽カセットなどAV資料も人気を集めるでしょう。多文化サービスと簡単に言いますが、図書館にとっては、資料の言語が余りに多岐にわたる事(入手、整理)や、直接のコミュニケーションの不安が、どうしても障害になる少し気の重いサービスです。さらに、言語の多様性だけでなく、日本在住の長さや背景など利用者によって様々なニーズを知る必要もあります。明日からできるサービスにむすびつく情報は、未だごくわずかです。ですが、できるだけ具体的な情報や知識、知慧の、紙上交換会の場として、小さな一歩を踏みだそうと思っています。どうぞ、ご愛読、ご参加くださいますようお願い申しあげます。

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