『新来・定住外国人がわかる事典』「図書館行政」より

□駒井洋編集者代表『新来・定住外国人がわかる事典』(明石書店、1997) p. 204-205、迫田けい子「図書館行政」より

昨今の、日本における外国人住民の増加は著しい。彼らと自治体との関わりを語るとき、自治体の公権力の行使の側面はよく取り上げられるが、非権力的な行政サービスのひとつといわれる図書館について言及されることはあまりない。

公立図書館とは、図書館資料と図書館職員である司書とを通じて、文化的教養的役務を提供する行政機関である。自治体の施設は、あくまでも住民の福祉の増進を図るために存在し、それを利用することは住民の当然の権利である。利用を望む誰にでも、無料で公開されている公立図書館とは、基本的人権の中の、言論・表現の自由および学習権を、公的に保障するものである。その理念をここに紹介しておこう。

公共図書館は、その利用者が、あらゆる種類の知識と情報をすみやかに入手できるようにする、地域の情報センターである。

公共図書館のサービスは、年齢・人種・性別・宗教・国籍・言語あるいは社会的身分を問わず、すべての人が平等に利用できるという原則に基づいて提供される。理由は何であれ、通常のサービスや資料の利用ができない人びと、たとえば言語上の少数グループ(マイノリティ)、障害者あるいは入院患者や受刑者に対しては、特別なサービスと資料が提供されなければならない(ユネスコ公共図書館宣言 1994年)。

図書館の代表的団体としては、IFLA(国際図書館連盟)と日本図書館協会があり、それぞれ多文化社会図書館について検討している。IFLAとは図書館の国際組織である。

その活動のひとつに多文化社会図書館サービス分科会がある。ここで1987年に採決された、『多文化社会/図書館サービスのためのガイドライン』は、地球上に住むすべての人びとに、差別されることのない公平な図書館サービスが提供されることをめざす、と優れた指針を有している。

日本図書館協会は、日本の図書館の全国組織である。ここから1995年に出版された『公立図書館の任務と目標 解説』増補版の中に、「だれでも」公共図書館を利用できるようにすることをめざす多文化社会図書館サービスの定義が掲げてある。また、協会の中の障害者サービス委員会のもとに、多文化・識字ワーキンググループが組織され、関西を中心に活発な啓蒙活動を行っている。

多文化社会図書館サービスとは、民族的・言語的・文化的少数者(マイノリティ)を主たる対象とする図書館サービスのことである。ここでいうマイノリティには、外国で生まれ育って、日本の文化にあまりなじんでいない外国籍の人はもちろん、国籍は日本であっても、異なった文化的・言語的背景をもつ人が含まれており、こうした人びとに対して、学ぶ要求・知る権利・読む自由を、各人の母語による資料や情報の提供で保障していこうというものである。

アンケートによれば、このような理念で日々運営されている公立図書館は、外国人住民にもよく利用される施設の中でトップクラスにある。しかし自治体行政においてはなぜか関心が薄い。さらに日本での公立図書館側の外国語資料や外国人利用者の受け入れ体制も十分とはいえず、サービス自体まだ緒についたばかりである。外国人への情報提供や教育の問題には、図書館の本来の役割を限定的にとらえず、地域の情報センターとして外国人ともコミュニケートできる場所としてとらえ直すことも重要である。

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