図書館の多文化サービスとは

□『すべての人に図書館サービスを:障害者サービス入門』(日本図書館協会

障害 者サービス委員会編 日本図書館協会1994年刊)より(一部改訂)

Q. 多文化社会図書館サービスとはどんなサービスのことですか?

A. 多文化社会図書館サービスとは、民族的、言語的、文化的少数者(マイノリティ)を主たる対象とする図書館サービスです。日本社 会は ながらく「均質な 文化、民族」によってなりたつ社会とされてきましたが、いまこうした認識が歴史的にも、現状としても誤りであることが、明らかになりつつあります。

日本におけるマイノリティとしては、歴史的な経緯をもつ在日韓国・朝鮮人、中国人をはじめとして、近年急速に増えた外国人労働者、 インドシナ半島からの 難民、「アジアからの花嫁」、中南米出身の日系人などの外国籍の人々をまずあげることができます。また、アイヌ、海外成長日本人、「帰化」して日本国籍を とった人、中国帰国者などの中には国籍は日本であっても、異なった文化的、言語的背景をもつ人が多数存在します。

こうした日本におけるマイノリティの知る自由、読む権利、学ぶ権利を資料・情報の提供によって保障していくのが多文化社会図書館サー ビスであり、さらに は同時にその地域のマジョリティを含む全ての住民が、相互に民族的、言語的、文化的相違を理解しあうための資料、情報の提供もその範囲に含む奥行きと広が りをもつサービス概念です。

(より詳しくは本サイトの→図書館の多文化サービスも ご覧ください)

Q. 障害者への図書館サービスとのかかわりは?

A. 多文化社会図書館サービスを考える上で、障害者サービスとのかかわりを考えることは重要です。国際図書館連盟の多文化サービス分 科会 も障害者への サービスを考えるセクションから発展しました。

障害者に対する図書館サービスの原則とは、「障害者であるがゆえに図書館の利用に際して不利益があってはならない」ということと、 「そのためには障害者 独自の条件を反映した施設・設備、資料、人的サービスが必要である」ということです。これは多文化社会図書館サービスにもそのままあてはまる視点です。ま たこれらのグループは、日本社会の中で多くの抑圧を受けてきたという点でも、共通性を持ちます。民族的、言語的、文化的少数者であるがゆえに図書館利用に 際して不利益があってはなりません。そしてそのためにはマイノリティの条件を反映した施設・設備、資料、人的サービスなどが必要なのです。

Q. 外国人への図書館サービスで留意すべき点は?

A. 多文化社会図書館サービスの対象のうちでも外国人に対するサービスは具体的なイメージをつかみやすいと思います。大切なのは、地 域の 外国人について よく知ることです。カウンターでの応対に加えて、ときには地域の外国人支援グループの話を聞くことなどにより、地域に住んでいる人々の思いと生活を知って いくことが、サービスの一番の指針です。またPRもとても大事です。「外国人は図書館は利用できないと思っていた」「外国語の本がリクエストできるとは 思っていなかった」といった声をよく聞きます。地域の支援グループとの連絡は、PRという観点からもぜひ行いたいものです。

Q. どのような資料が必要でしょうか?

A. 必要とされる資料は、個々の状況に応じて異なりますが、いままでの事例では、日本語を学習するための図書や、母語で読むことので きる 小説や雑誌、新 聞、それに子どもに自国の言葉・文化を伝えるための図書、などがよく利用されています。

Q. 施股・設備などの面では?

A. 利用案内や館内標示を日本語と他の言語の併記にしたり、館内のサインをわかりやすいシンボルにすること、などが考えられます。

Q. 人的サービスとしては何が考えられるでしょうか?

A. 本来的には、ある言語の資料の提供に際しては、その言語を十分に理解できる職員を配置するのが望ましく、最もよいのはその言語を 母語 とする職員を採 用することです。しかし、そのような職員がいない場合でも、カウンターの応対で、ゆっくりとわかりやすい日本語で話すこと、カタコトの英語でもおそれずに 話すことによって、かなりの対応ができます。

【参考文献】

深井耀子『多文化社会の図書館サービス:カナダ・北欧の経験』青木書店、1992。

補記

多文化社会図書館サービスについて、もう少し詳しく知りたい方は、下記の文章もぜひご覧ください。

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