いよいよレセプションの時間が迫ってきた。
マレーシアではこういうイベントでも、芝居などの公演でも、夜の部の開始時間は8時か8時半だという。
その日の最後のお祈りを終えてから、参加できる時間なのだそうだ。
ナショナル・アート・ギャラリーのエントランスでは、係の人達が受付の準備やら、テーブルや料理のセッティングを始めていた。
僕はVIP控え室に連行されるのだろうか?
しばらく会場をうろうろしていると久貝さんがやってきた。
「どうやら控え室はなくなったみたいです。館長が病院に行っていて、もしかすると遅れるかも知れないのです。そうなると、副館長が挨拶をします」
「ええっ! 僕の挨拶の館長様の名前を言うところはどうなるのですか?」「今、確認してきます」
久貝さんは慌ただしく、ギャラリーの担当者のところに戻っていった。
そして「これが副館長の名前です。館長が来なければ、この名前で挨拶をして下さい。」
「それは、いつ決定するのですか?」「判りません」
「ええっ! 僕はどの人が副館長なのかも知りませんよ」「大丈夫です。私が合図します」
全ては、久貝さんの合図が頼りだった。
「佐藤さんはこの四つの椅子のうち、右から2番目に座ります」と席順を教えてくれた。そこまで決まっているのか、午前中からリハーサルをしただけのことはある。
しばらくすると、久貝さんが「館長が戻りました。予定通りです」と言って、少し安心している。
館長が入場してきた。
僕は館長の動きを注意深く見ていた。いつ座るのだろうか? 館長はいろんな人に挨拶をしながら、そのうちのひとりを中央の椅子に案内して座らせた。
「ええっ!」しかも打ち合わせで決まっていた席順ではなかった。
僕はすぐに久貝さんを見た。久貝さんも首をかしげている。近づいてきて「ここに座っても大丈夫です」と言ってくれた。館長が座るはずだった席だ。とりあえず、席に着いた。何とも居心地が悪い。
久貝さんは、右端のアロハシャツのおじさんが座っているところに、リハーサルでは座るはずだった国際交流基金の磯ヶ谷さんに事情を説明している。事情などないのだが。
MCの女性が開式の挨拶を始めた。そして「まずは、プレジデント・オブ・SVPの佐藤博昭氏の挨拶です」と言った。
「ええっ! プ、プレジデント?」肩書きは代表ですと伝えていたが、プレジデントとは。
とにかく挨拶をしなければならない。僕は準備した原稿をゆっくりと読み上げた。時々は正面を向かなければと思っていたが、下書きが手書きで、どこまで読んだか見失いそうで怖かった。
その後、館長の挨拶が終わると、問題のプレゼントだった。
MCの女性は「ここで日本の作家の皆さんからプレゼントがあります」と言った。館長は大げさに驚いたような身振りをしていたが、リハーサルをしていたことも知っている。
久貝さんは、僕らからのプレゼントをきれいに包んでくれていた。まさか、この手ぬぐいがこんな公式な場でプレゼントになるとは。
レセプションの最後は館長と僕がポスターにサインをする儀式だった。大勢のカメラマンが写真を撮っていたのだが、何かに載ったのだろうか?