研究紹介

(学生)

鬼崎 華Onizaki Hana

自然環境学専攻 生物圏機能学分野 久保研究室 博士課程1年

研究のキーワード:古生態学、草食哺乳類、食性

研究のテーマ~昔の草食哺乳類が何を食べていたかを知りたい!~

むかし生きていた動物がどんなところに棲んで、何を食べていたのか…こうした疑問を明らかにする分野を「古生態学」といいます。

私は、日本列島にかつて存在していた草食性の哺乳類たちが「どんな植物を食べていたのか?」を、化石から明らかにする研究をしています。

いま主に対象としているのはニホンジカです。ニホンジカは、今から約20万年前(第四紀更新世中期)にはすでに日本にいたといわれており、気候や植生、陸地面積の変化などの激しい環境変動を乗り越えて現在まで生き残っている野生の草食哺乳類です。

研究の方法~どうやって調べるの?~

私が用いる手法は大きく分けて二つあります。どちらも肉眼では見えないミクロレベルのものが対象です。


①歯石の植物珪酸体分析

植物珪酸体(別名プラント・オパール)は、植物の細胞がガラス質になったものです。一方哺乳類の口内では、歯垢(プラーク)が石灰化することで歯のまわりに歯石が生成されます。この中にはそれまでに食べた植物を由来とする植物珪酸体が保存されています。これを化学処理によって取り出し、顕微鏡で形を観察することで「どの植物を食べていたのか?」を特定することができます。


②歯牙マイクロウェア分析

動物が食べ物を咀嚼するとき、その食べ物とこすれ合うことで歯には目に見えない小さな傷がつきます。それが「マイクロウェア」です。草食哺乳類がよく食べるイネ科植物などの草には硬い植物珪酸体がたくさん含まれているため、比較的やわらかい木の葉を食べるよりも多くの傷がつきます。レーザーを用いた特殊な顕微鏡でその表面をスキャンすると、凹凸の様子を三次元的に解析することができます。これによって、その歯の持ち主が硬いものをどのくらい食べていたのか、すなわち「草と木の葉をどのくらいの割合で食べていたのか?」がわかります。

研究の発展性~絶滅の謎に迫る!~

日本列島にはかつて、ヤベオオツノジカやナウマンゾウなどの大型の草食哺乳類が存在していました。しかし約2万年前~1万年前、最終氷期最寒期と呼ばれるとても寒い時期から、現在の暖かい時期に移り変わる最中に姿を消してしまったと考えられています。このような絶滅イベントは世界的に発生したものですが、その原因が環境の変化によるものなのか、それとも人間たちの活動によるものなのか、現在でもはっきりとはわかっていません。


そこで私の研究では、ニホンジカだけではなくもう絶滅してしまった哺乳類の化石も使って、それぞれが「いつ、どこで、何を食べていたのか?」を調べていきます。そして「絶滅した大型哺乳類たちは本当に環境変動の影響を受けていたのか?」、反対に「なぜニホンジカは生き残ったのか?」といった疑問を追求していくことが今後の目標です。