ではどうしたら右脳を発達させることができるのでしょうか。日本文化が大きなカギになります。日本文化はすべて右脳を強力に刺激します。日本人が縄文時代以来何千年もはぐくんできた優れた伝統文化を、今見直すべきです。
具体的な日本文化の一部をいかに示します。
武芸:剣道・柔道・空手道・合気道
華道・茶道
着物・草履・下駄
日本画・書道・日本刀・陶芸
歌舞伎・能・狂言
祭り・盆踊り・夜店・花火
日本家屋・畳・床の間・日本庭園
囲碁・将棋
和食・和菓子
和楽器:琴・三味線・尺八・笛・太鼓
古典文学
国学
これらを日常生活にもっと取り入れたらどうでしょうか。私は、木刀の素振り、自宅では和服、歌舞伎や能の観劇、囲碁、和食、和菓子、古典文学などに日頃親しんでいます。
木刀の素振り
剣道はできない代わりに、毎日素振り100回やっています。上半身の筋肉が鍛えられるので気に入っています。
囲碁
囲碁は陣取りですから、左脳の論理のみならず、右脳の空間認識が必要です。ある報告では、アマチュア囲碁打ちにはほとんど認知症は見つかりません。私は病院内に囲碁クラブを作ったほど囲碁は好きです。
将棋
将棋愛好家も認知症が少ないようです。子供時代は将棋が好きでした。町では縁台将棋が盛んでした。攻撃を重ねて王を取るのは快感で、囲碁より私の性には合っています。
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和食
伝統的な和食が健康長寿をもたらすことはもう常識です。東北大学の研究によれば、1975年前後の和食が、近年の和食より健康的であることが分かってきました(都築毅)。
経済的にまだ貧しかった時代ですから、肉や乳製品は少なく、納豆や豆腐、味噌などの大豆製品や、煮物・あえ物などが良く食されました。今や、国籍不明食が横行していますが、和食の原点に戻り、和食に誇りを持つべきです。
和菓子
私は和菓子が大好きで、特にあんこが好きです。米国時代に食べ物で一番辛かったのは、あんこが入手できなかったことでした。和菓子を毎日一個食べることは何ら弊害を起こしません。和菓子には季節性があります。日本茶にはやはり和菓子です。
お茶
日本茶を良く飲む人の全死亡率が低い、発がんリスクが少ないなどのデータが続々出てきています。緑茶を毎日10杯は飲む母が執筆時点で96歳で元気なのも、お茶好きが背景にあるかもしれません。
和服
私は家ではどてら(丹前)を着ています。私の子供時代は、両親も祖父母も外出は洋服、家では和服が普通でした。亡くなった父のお下がりも含めて和服を着ていると、自然と日本人であることを自覚します。正直なところ、日本人の体形には和服が合っています。
下駄・草履
靴下では下駄は履けません。足袋が必要です。草履もよく履きました。道路がコンクリート舗装されてから、下駄が合わなくなりました。確かにこれらは靴に比べれば歩きにくいですが、風情があります。
能
650年の歴史を誇る世界最古の観劇芸術です。笛と太鼓、そして地謡(この部分を謡という)だけが背景にありながら、役者の演技ですべてを表現しますが、単純で抑制しきった演技の中に、人生への無数の示唆が与えられます。
私は退屈なら居眠りしてもいい、と言われて気軽に参加してから、あまりに深い日本的表現に惹かれ、時に震えがくるほど感動し、病みつきになっています。雑念一杯の心が無に近づきます。
狂言
古来日本人も笑い好きだと納得できます。能の前に行われるので、能を観る心の準備ができ、安心して笑えます。
古典文学
万葉集などの歌集、源氏物語などの創作、徒然草などの随筆は、世界的に見ても傑作揃いです。読めば日本文化の一端に触れます。
この1000年を見ても、これらに比肩する西洋文学作品は少ないのです。子供の頃覚えた万葉秀歌はいまでも諳んじられるのは嬉しいです。
時代小説
山本周五郎でも藤沢周平でも、好きな時代ものを読むのも日本文化理解に役立ちます。登場人物に感情移入するのは楽しみです。
名作
鴎外や漱石などの文豪による作品は登場人物がまさに日本人で、現代人にも通じる示唆に富んでいて、いろいろ考えさせられます。私が大好きなのが宮沢賢治です。やはり「銀河鉄道の夜」は人生を考えさせられます。
時代劇
様々な名作を自宅で観ることが可能です。侍物が好きです。
映画 七人の侍
日本の名画
小津安二郎・黒澤明はほとんど見ています。どうせなら世界的名作を観たいものです。すべての中で私が一番好きなのは、黒澤の「生きる」です。がんに直面した人間のすべてが映し出されています。
日本の思想
本居宣長は、医師をしながら、「もののあはれ」など独自の思想を展開しました。漢学に対して国学とか和学というべきではない、ただ学問でいいというのは正論です(うい山ぶみ)。
吉田松陰には大きな影響を受け、「留魂録」(処刑前夜の遺書)ほど私にとって衝撃的な書はありませんでした。「大和魂」を持ちたいと願います。
書
いい書は人生を変えます。私の書斎には、「撥雲尋道」という大きな書が掲げられています。雲を撥ねて、道を尋ねる、という私の人生哲学で、大好きな書家に書いていただきました。力強い書体とともに、漢字自体が私にいつも迫ってきます。
歳をとってからでも、書道に挑戦するのはいいですね。私もまだその可能性があります。
和風の家
自宅には残念ながら、畳の部屋や床の間はありません。あの時は今ほど和風にこだわっていませんでした。
和室では、畳の風情に気持ちが落ち着き、正座して掛け軸を眺めて別世界に引き込まれ、お茶の緑の深さに気持ちはほぐれます。
そうなると、和風の庭も欲しくなります。和住宅は魂の故郷です。
陶芸
我が国の陶芸品は世界的に高く評価されています。陶芸も脳によいことは言うまでもありません。絵画は平面、陶芸は立体です。始めるのに遅すぎることはありません。
葛飾北斎
日本画
油絵に比べれば淡泊かもしれませんが、私は日本画を見るのが好きです。油絵具を厚く塗っている西洋絵画は何か大げさな気がします。素人の単純な意見ですが、日本の人や自然は、日本画の方が合っているのではないでしょうか。
一流の画家は長生きの傾向があるだけでなく、痴呆の方を見たことがありません。何歳になっても芸術に挑戦するのは、脳全体にいい刺激となっています。
四季
日本ほど四季のはっきりした、そしてそれぞれきれいな国はないでしょう。桜が見たいと生き、散る桜に自らを重ねるのは日本人だけです。
都市に住んでいても、自然界に戻って、慰めを得、活力を持たされてまた生きてきたのが日本人です。
人間というはかない存在は、自然の一部であると信じてきたのです。そして一瞬一瞬を真剣に生きてきました。
養生
生を養う習慣が健康長寿をもたらすことを、83歳の貝原益軒は約300年前に「養生訓」としてまとめ、当時のベストセラーになりましたが、これはほとんどがいまだに医学的な真実で、私に言わせれば、大半の最新医学書よりも養生訓の方が役立ちます。
彼は「天地からいただいたもの、父母の残してくださった体であるから、慎んでよく養って、痛めないようにして、天寿を長く保つべきである」と言っています。
食餌も腹八分目、庭の散歩など心がけ、タバコは吸うな、酒はほどほどに、住まいも清潔で簡素に、と勧めています。鍼灸と薬を当てにしてはならない、病気は予防が大切だと説いています。
病気をいたずらに悩まない、もし、死に至る病の時は、天命の定めるところであって、嘆き訴えても益はない、と言いました。人生には楽しみも必要だとして、夫婦で楽器(筝と琵琶)を演奏し、良き友と交わり、読書を楽しみ、自然を楽しみ、旅行にも夫婦で出かけました。
海外からの健康法は必ずしも日本人には合いませんが、日本人には養生訓が最適であるといつも感じています。