ワ州連合軍
United Wa State Army
ミャンマー最強の少数民族武装勢力
国連の「少年を募集し使用する紛争当事者リスト」に入っている
ワ族は中国雲南省南部、ミャンマー・シャン州、ラオス北部に約70万人住むモン・クメール系民族。ミャンマーの少数民族の中ではパラウン族にもっとも近く、モン族の遠戚にあたる。近年まで首狩りの風習があったことで有名だが、他の民族にも首狩りの風習はあり、ワ族に関する情報が極端に少なかったためにことさら強調されているきらいがあるという。辺境の地にあるため、これまで中国にもイギリスにもミャンマーにも直接支配された経験がなかったが、1950年代に中国共産党との内戦に破れた中国国民党がワに流れてきて、大陸奪還の根拠地とされた。国民党が撤退した後、1970年代には中国共産党の支援を受けるビルマ共産党(CPB)の支配下に置かれた。CPBの兵士の8割がワ族だったと言われている。この頃から中国人がワ丘陵地帯を行き来するようになり、急速に中国文化が浸透し始めた。
パオ・ユーチャン
1989年、ビルマ共産党(CPB)がワ族、コーカン族の下級兵士の反乱により崩壊すると、CPBのワ族兵士はすぐさまワ州連合軍(UWSA)を結成。鲍有祥 (パオ・ユーチャン)がUWSPの総書記とUWSAの総司令官の座に就いた。件の経緯からUWSP/UWSAには中国人幹部が多く含まれ、CPB時代より多数の歩兵を有していたことから、CPB崩壊後に結成された4つの武装勢力の中では最強の武装勢力となった。
同年、高度な自治権と引き換えに政府と停戦合意を結ぶ。迅速に停戦合意が結ばれた背景には、前年ミャンマーの都市部で大規模な民主化運動が発生し、中国・タイ・インドの国境地帯に逃れた学生・労働者と少数民族武装勢力との間で同盟を組む動きが見られたため、これを事前に寸断する意図があった。
また同年、かつては敵対していた同じワ族の非共産党系武装勢力・ワ民族軍(Wa National Army:WNA)と合併。政府と協力して麻薬王クンサーの軍隊・モン・タイ軍(MTA)と戦い始めた。UWSP/UWSAの領土である南部の飛び地は元はWNAの陣地で、WNAと合流したゆえに「連合軍」と称しているわけである。
現在、UWSAはミャンマーの少数民族武装勢力の中で最大の兵力を擁し、彼らが支配するワ自治管区は政府も国軍も自由に立ち入れない事実上の独立国になっている。ミャンマーには自治区は6つあるが「自治管区」となっているのはワだけ。「ワ州」を自称しているが、憲法上は州ではなく、「自分たちにも州と同様の地位を与えるべき」という政治的主張にすぎない。
以降、ワ州には中国からの投資が増大。鉱山や天然ゴムのプランテーション開発、都市建設などが進んだ。自治管区内では中国語が通じ、中国のSIMカードが使え、通貨は中国元となっている。同じく中国と関わりの深いミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)とは兄弟分の関係にある。2011年9月6日にはあらためて政府と停戦合意を結んだ。
シャン州の他の地域と同様、以前よりワ州でもケシ栽培が盛んだったが、モン・タイ軍(MTA)崩壊に協力した功績により、当地での麻薬生産・取引を政府から黙認されたUWSAは、政府が本格的に麻薬撲滅に乗り出した90年代でも、麻薬生産を増加させた。またより安価に安定的に生産できる覚醒剤の生産にも手を染め、1990年代初頭、UWSAは”アヘン栽培から遠ざける”名目で、ワ族住民を北部丘陵地帯からタイと国境を接する南部の飛び地に移住させたが、実際には件の飛び地を麻薬取引の拠点にするためだったと言われている。ただし中国政府からは麻薬を中国に入れないように度々注意喚起されている。
2003年5月29日、アメリカ政府麻薬取締局はUWSAを麻薬取引組織と認定し、2005年1月24日にはニューヨーク東部地区連邦検事と麻薬取締局ニューヨーク支局がUWSAの幹部8人を麻薬密売容疑で起訴した。パオ・ユーチャンはロー・シンハン、クンサーに次いで3代目麻薬王と呼ばれることがある。
またワ州では中国からラオス経由で兵器を輸入する他、中国から技術支援を受けて中国製兵器のコピーを生産しており、携帯型防空システム(MANPADS)、迫撃砲、ロケットランチャー、さらには軽戦車やヘリコプターまで生産している。パンカンにはヘリポート、レーダー、ミサイル基地がある。中国から供給されている兵器の性能からして、省レベルではなく、国家レベルの指示によるものであることが確実視されている。
また中国の黙認の下、タアン民族解放軍(TNLA)、アラカン軍(AA)、シャン州軍北部(SSA-N)、カチン独立軍(KIA)などの武装勢力に兵器を供給している。ワには利益が出ない安価で、しかも絶対安全確実なため、武装勢力はこぞってワから兵器を買いたがるのだという(ただしKIAは50口径の機関銃の提供を受けているだけ。カチン族はキリスト教徒が多いので、中国がその忠誠心に疑惑を向けているからだとされる)。UWSAは一度も国軍と戦ったことがないので、中国も内政干渉にならないと考え、黙認する/しないで影響力を保っているということかもしれない。
2017年4月19日には、中国の支援を受けて、UWSA主導で全国停戦合意(NCA)未署名の7つの少数民族武装勢力をまとめ、連邦政治交渉協議委員会(Federal Political Negotiation and Consultative Committee: FPNCC)を結成し、パオ・ユーチャンが議長に就任した。
2021年のクーデター以降は中立を守り、沈黙を保っている。既に完全な自治権を有するワ州が、ビルマ族同士の内紛である今回の政変に加担する積極的な理由は何もない。またUWSAはミャンマー国内の各空港に乗り入れしているエア・サルウィン(旧称ヤンゴン航空)、メイフラワー銀行、アジア・ウェルス銀行を所有しており、中国と同じく”コントロール可能な混乱”を望んでいるだけで、国軍崩壊までは望んでいないものと思われる。反対勢力を国軍の支配地下で金持ちにして、失うものを持たせ、反抗させなくするというのが国軍のやり口に、UWSAも乗っかっているというわけである。