【設計因子】
植物の精油には,抗菌,防虫,消臭など様々な機能が報告されています
木材にも精油の成分が含まれており,同様の作用・効果が期待されます
香りの機能を設計するには,その放散特性(量と時間)を明らかにする必要があります
空気中の化学物質による健康被害が懸念されるようになり,各種建材での調査が進められています
調査には小型チャンバーを用いて,揮発性有機化合物の放散特性を測定する手法が採られています(チャンバー法)
この手法を用いて合板からのアセトアルデヒドの放散特性を計測し,気中濃度との関係を調べた報告があります *1)
空間での気中濃度の実測値は,チャンバー法の放散特性から求めた計算値とよく一致しています
木材の精油成分についても,チャンバー法を用いて放散特性を計測すれば,空間での濃度を推定することが可能となります
現時点ではデータが十分ではなく,木の香りを活かした製品の設計指針を明らかにするのは難しい状況です
【耐腐朽性】
腐朽菌への耐性に関するデータはいろいろと報告されています
試験材を腐朽菌により分解させ,質量減少率を測定した結果は以下の通りです *2)
(いずれも心材のデータを示しています)
樹種 オオウズラタケ カワラタケ ウスバタケ 減少率(%)
イチイ 0.8 0.8 1.9
カヤ 0.0 1.3 0.5
イヌマキ 19.8 4.4 6.3
モミ 28.3 4.5 1.0
ウラジロモミ 4.2 0.9 2.7
アオモリトドマツ 21.0 8.7 6.8
トドマツ 0.7 1.9 0.0
シラベ 10.6 2.0 0.0
カラマツ 12.1 1.4 0.0
エゾマツ 20.1 11.7 6.4
アカエゾマツ 17.5 13.9 5.9
トウヒ 17.2 5.3 1.1
トガサワラ 7.2 1.3 1.0
ツガ 20.6 2.2 1.7
アカマツ 8.0 7.0 2.4
アカマツ 1.2 2.5 0.0
アカマツ 13.1 3.6 1.2
ヒメコマツ 2.0 2.3 1.5
クロマツ 3.2 5.4 6.0
スギ 4.8 5.5 0.5
スギ 0.0 2.2 0.0
スギ 0.0 0.8 0.0
コウヤマキ 0.0 0.9 0.0
ヒノキ 0.0 4.2 0.0
サワラ 0.0 1.5 0.0
ネズコ 0.0 0.4 0.4
アスナロ 0.0 0.8 0.0
ヒノキアスナロ 0.4 2.6 1.7
ドロノキ 23.4 39.1 35.7
ヤマナラシ 18.7 38.2 34.9
オニグルミ 7.4 5.7 1.1
サワグルミ 12.2 23.6 31.7
ミズメ 9.4 15.1 0.0
シラカンバ 38.1 28.3 16.3
マカンバ 23.1 13.8 0.0
アカシデ 26.1 20.5 20.6
アサダ 15.2 7.8 0.0
クリ 3.1 3.6 1.3
スダジイ 2.7 5.1 2.1
ブナ 14.3 15.9 14.3
ブナ 30.3 17.5 17.5
ブナ 13.1 17.4 10.7
ブナ 23.8 15.0 14.0
ブナ 32.1 24.9 10.7
イヌブナ 29.2 31.2 36.6
アカガシ 3.9 3.3 1.4
シラカシ 1.2 4.0 2.9
ウバメガシ - - -
イチイガシ 1.8 2.2 0.6
クヌギ 1.0 3.0 0.0
ミズナラ 20.3 24.8 2.7
ミズナラ 17.2 11.2 0.0
ミズナラ 20.4 11.2 1.9
ミズナラ 15.8 12.1 0.0
コナラ 4.0 7.1 0.0
ハルニレ 24.1 30.1 11.6
ケヤキ 0.0 12.3 2.1
ヤマグワ 0.5 0.9 1.2
カツラ 5.4 3.2 0.0
ホオノキ 4.2 1.7 0.0
クスノキ 0.9 3.7 4.8
タブノキ 10.1 2.9 0.2
イスノキ 5.1 5.2 0.0
ヤマザクラ 5.8 14.2 1.1
イヌエンジュ 5.2 9.8 1.1
キハダ 8.1 11.0 0.0
モチノキ 25.9 13.1 1.3
イタヤカエデ 13.6 20.2 19.5
トチノキ - - -
シナノキ 20.8 35.0 32.5
オオバボダイジュ 23.5 30.3 26.3
ヒメシャラ 22.8 17.7 9.9
ハリギリ 16.7 18.9 9.2
ミズキ 34.9 23.6 22.3
シオジ 8.8 11.2 4.6
ヤチダモ 22.7 14.9 10.0
アオダモ 24.9 34.8 21.4
キリ 0.0 3.9 0.0
コジイ 15.6 13.7 2.0
オオバヤナギ 16.5 40.6 11.3
コバノヤマハンノキ 31.8 26.8 16.6
フサアカシア - - -
ヤマハンノキ 33.3 25.5 17.4
平均 12.5 11.6 6.7
(複数記載の樹種は産地違い)
【防蟻性】
シロアリによる食害耐性に関するデータもいくつか報告されています
イエシロアリの飼育槽内に試験片を21日間放置した後の質量減少率は以下の通りです *3)
(国産・心材のデータのみを抽出しています)
減少率(%) 樹種
0~1 該当なし
1~2 ヤマハゼ
シャジャンボ
カヤ
ベニヒ
タイワンスギ
2~5 ムクロジ
コバンモチ
ツバキ
サクラツツジ
5~10 ニガキ
アカガシ
ランダイスギ
ベイヒ
10~20 ミズナラ
チシャノキ
カナクギノキ
ヒサカキ
20~40 ネムノキ
ブナ
クマノミズキ
イロハモミジ
ハシドイ
イヌガヤ
アカトドマツ
ベイツガ
40~70 ハルニレ
コバノトネリコ
クマシデ
アサダ
イヌツゲ
サザンカ
ハナカガシ
ヤマグルマ
ヒガンザクラ
ヤマガキ
トキワガキ
クロバイ
ベイマツ
ダイマツ
70~90 ミヤコダラ
イヌシデ
カゴノキ
クロガネモチ
エゴノキ
クワ
バリバリノキ
イヌガシ
クロキ
90~100 オヒョウ
コシアブラ
ダケカンバ
シウリザクラ
トカチヤナギ
ケマハンノキ
エゾコブシ
オオヤマザクラ
リンボク
ユズリハ
アオモリトドマツ
アカエゾマツ
エゾマツ
アカマツ
【設計指針】
精油成分の機能を活かすには,以下のような工夫が有効です
・耐腐朽性を高めるには
スギ,ヒノキ,マツなどの針葉樹,クリ,シイ,カシ,ナラ,クスノキなどの広葉樹を選定
・耐犠牲を高めるには
スギ,ヒノキなどの針葉樹,ハゼ,カシ,ナラなどの広葉樹を選定
【参考文献】
1) 鈴木他 木材学会誌 62巻 6号 (2016)
「木質材料の小型チャンバー法の測定結果を用いた実大空間におけるアセトアルデヒド気中濃度予測」
2) 林業試験場研究報告 No.319 (1982)
「木材の性質一覧表」
(試験条件は旧JIS-Z2119による,温度・湿度・放置時間は不明)
3) 高橋旨象 木材工業 29巻 11号 (1974)
「建築用主要樹種の耐蟻性」
(試験条件の詳細は不明)
関連JIS
・放散特性試験
JIS-A1901
「建築材料の揮発性有機化合物(以下,VOC),ホルムアルデヒド及び他のカルボニル化合物放散測定方法-小型チャンバー法」
・耐朽性試験
JIS-Z2101 NO.26
「木材の試験方法」
https://kikakurui.com/z2/Z2101-2009-01.html
・耐犠牲試験
JIS-K1571
「木材保存剤-性能基準及びその試験方法」