【特徴】
「木の床にガラスのコップを落としても割れなかった」 という経験をお持ちの方がおられると思います
木材は細胞の間にすきまのある多孔質材料で,この隙間がクッションの役目をして衝撃を吸収します
同じクッション性のある畳やカーペットと同様,木製の床も優れた衝撃吸収力を備えています
高齢者施設の床材を木製にすると,怪我や骨折を防ぐことができるという報告があります
体育館の床については,JIS規格(A6519)により適切な衝撃加速度の値が規定されています
根太と言われる床組みと組み合わせることにより,木製の床板が撓んで体への衝撃を和らげることができます
これらはいずれも木の柔らかさに起因するもので,前者は硬度,後者は剛性という指標で表わされます
硬度とは材料表面の変形し難さを表わしたもので,木材ではブリネル硬さ,ヤンカ硬さなどの指標が用いられます(JIS-Z2101)
試験方法が異なるため他材料との比較は難しいですが,木材の硬度は金属やコンクリートの数分の1程度とされています
木材の硬度はその比重と相関があり,おもな樹種の値は以下の通りです(ブリネル硬さ)
・スギ,ヒノキ 8~11 (MPa)
・カラマツ,アカマツ 12~15
・ブナ,ナラ 13~20
塗装や表面の圧縮加工を施すと表面の硬度が上昇します
アカマツにウレタン樹脂系の塗料を施した事例では,ブリネル硬さが約30%増加しています
剛性は材料本体の変形し難さを表わしたもので,弾性率という指標で表されます(JIS-Z2101)
木材の弾性率(ヤング率)は,金属やコンクリートの数~数十分の1程度であり,おもな樹種の値は以下の通りです
・スギ,ヒノキ 7~9 (GPa)
・マツ,ブナ,ナラ 10~12
・鉄鋼 200
・コンクリート 30
木材は強度と表面の柔らかさを兼ね備えており,構造材と表面仕上げを両立できる数少ない材料と言えます
この特徴を活かすことにより,家屋や内装材,家具や建具など様々な部材に使用されています
【設計要件】
樹種,木取り,圧縮加工や塗装の有無などにより表面の硬度が決まります
樹種,木取り,加工の有無などにより撓み強さが決まります
樹種ごとのブリネル硬さとヤング率は“設計の指針”に,床材の衝突加速度については“機能性の試算”に記載しています
【留意点】
木材は粘りのある粘弾性材料のため,荷重の速度や履歴に注意する必要があります
木製の床にテーブルや椅子の脚など長時間の荷重が掛かると,表面の凹みが戻らないことがあります
木材は異方性の材料であり,切り欠きや目切れ部からの割れ・ささくれなどにも注意する必要があります
【参考資料】
特徴
・山田正 材料 28巻 (1979) 312号
「木材の力学的性質」
・沢田稔 材料 12巻 (1963) 121号
「直交異方性材料としての木材の弾性及び強度」
・山田正 京都大学農学部演習林報告 34巻 (1963)
「木材の粘弾性」
・佐伯浩 材料 22巻 (1973) 241号
「木材のFractography」
・落合陽ほか 木材学会誌 Vol.63 (2017) No.6
「木材の割裂破壊耐力推定のための基礎的研究」
・吉原浩 木材学会誌 52巻 (2006) 4号
「木材および木質材料の特性評価における破壊力学の適用」
・宮島寛 北海道大学農学部 演習林研究報告 22巻 (1963) 2号
「木材の硬さに関する研究」
・2015年版建築物の構造関係技術基準解説書追補
「許容応力度及び材料強度」
・田中勝吉 林学会雑誌 1926巻 (1926) 34号
「木材硬度試験」
・谷内博規ほか 岩手県林業技術センター研究報告 9巻 (2001)
「軟質針葉樹材の表面硬化技術の開発」
設計要件・留意点
・林野庁HP (2017)
「科学的データによる木材・木造建築のQ&A」
・三浦研 日本建築学会計画系論文集 79巻 (2014) 698号
「特別養護老人ホームの床が転倒・転落骨折に及ぼす影響」
・土井正ほか The Annals of physiological anthropology 12巻 (1993) 1号
「木質系床材の性能評価法に関する研究」
・小野英哲ほか 日本建築学会論文報告集 187巻 (1971)
「体育館の床の弾力性に関する研究 その2」
・小野英哲ほか 日本建築学会構造系論文報告集 358 巻 (1985)
「居住性から見た床のかたさの評価方法に関する研究 その1」
・末吉修三 森林科学 29巻 (2000)
「体にやさしい木造住宅」
・岡島達雄ほか 日本建築学会論文報告集 246巻 (1976)
「建築仕上げ材料の感覚的評価に関する研究 その2」
・冨田隆太ほか 日本建築学会技術報告書 13巻 (2007) 26号
「住宅内の転倒時を想定した直張り木質フローリング材の頭部衝撃緩衝効果に関する検討」
・小野英哲ほか 日本建築学会論文報告集 321巻 (1982)
「安全性からみた学校体育館床の硬さに関する研究」