【吸放湿量の導出】
木材は道管・仮道管など中空で長い細胞の連なりが束状に集合した構造となっています
細胞内部の空間であるこれらの内腔は,膜孔などの開口により縦横・相互に連通しています
JISZ2101に規定されている吸湿量の評価条件では,木材中の水分は木部との結合水として存在しています *1)
この結合水は主に木部の実質を介して,気体の蒸気は内腔と開口を介して木材の内外を拡散・移動します
物質の拡散度合いはFickの法則に従い,定常状態ではその流束が濃度勾配に比例します
この比例係数は拡散係数と呼ばれ,環境や構造で決まる吸放湿のしやすさを表しています
関連する木材の物性として,木部の比率と表面エネルギー,内腔と開口の大きさなどが考えられます *2,3)
【組成・構造との関係】
影響を与える因子を明らかにするため,国産広葉樹を対象として24時間吸湿量と組成・構造との関係を調べました *4,5,6)
国産広葉樹では,道管の管孔性,相互壁孔の大きさ,放射組織間の壁孔,軸方向の独立柔組織,柔組織のストランド長と関連性が見られました
道管の管孔性については,早材の道管が大径で明瞭な環孔性より,早・晩材で径の均一な散孔性の樹種が,より吸湿量の多い結果となりました
相互壁孔の大きさについては,樹幹方向に連通する壁孔が小径の樹種が,より吸湿量の多い結果となりました
放射組織間の壁孔については,放射組織の壁孔が明瞭で道管が相互に連通している樹種が,より吸湿量の多い結果となりました
軸方向の独立柔組織については,柔組織が集まらず木部繊維の間に不規則に分布する樹種が,より吸湿量の多い結果となりました
柔組織のストランド長については,樹幹方向の柔細胞の連なりが長い樹種が,より吸湿量の多い結果となりました
また,文献で指摘されている比重や抽出成分との明確な関連性は見られませんでした
今回の解析で抽出された項目は光学顕微鏡による段階評価であり,その順序や独立性は必ずしも正確ではありません
より定量的な解明は今後の研究課題と考えます
【参考文献】
1)「東北-中部・中国および四国地方産材の吸湿性試験」
蕪木自輔ほか 森林総合研究所 研究報告 No.216(1968)
2)「木材中における水の拡散」
横田徳郎 材料 21巻 220号 (1972)
3)「針葉樹材中における水の拡散係数の理論式による計算」
横田徳郎 林業試験場研究報告 173号 (1965)
4)「材の化学組成およびパルプ化試験」
米沢保正ほか 林業試験場研究報告 253号 (1973)
5)「日本産主要木材の材構成割合について」
平井信二 東京大学農学部木材材料学第一教室業績 第159号 (1960)
6)「広葉樹微細構造」
森林総合研究所 日本産木材識別データベース