【室内濃度の試算】
木材から放散される香り成分の室内濃度を試算してみます
設計指針でご紹介したチャンバー法の測定について,JIS-A1901に規定があります
「建築材料の揮発性有機化合物(VOC),ホルムアルデヒド及び他のカルボニル化合物放散測定方法ー小形チャンバー法」
本法を用いた無垢木材からの抽出成分の放散速度は,以下と報告されています *1)
TVOCの放散速度(7日後の値,複数例は最大値)
・ヒノキ 5000ug/m^2h
・スギ 1000ug/m^2h
・アカマツ 280ug/m^2h
(樹齢:50~70年,心材,人工乾燥,含水率:10~15%)
それぞれの樹種に含まれる主要な抽出成分は以下の通りです
主要成分と比率
・ヒノキ γカジネン 42.3%
・スギ δカジネン 67.4%
・アカマツ αピネン 69.3%
両者より,主要成分の放散速度を算出すると以下となります
主要成分の放散速度(推定値)
・ヒノキ γカジネン 5000×0.423≒2100ug/m^2h
・スギ δカジネン 1000×0.674≒670ug/m^2h
・アカマツ αピネン 280×0.693≒190ug/m^2h
成分毎の放散速度は不明なため,あくまでも目安とお考え下さい
放散速度が一定で,他の部材への付着や吸収を無視できる場合,気中濃度は以下で計算することができます *2)
C = R*L/n
C: 気中濃度 ug/m^3
R: 放散速度 ug/m^2h
L: 負荷率 m^2/m^3(単位容積当りの施工面積)
n: 換気回数 /h
部屋(室内高:2.5m)の天井全面(面積:Sm^2)に木材を使用した場合の室内濃度を試算してみます
負荷率 S/(S×2.5)=0.4/m
換気回数 0.5/h(シックハウス新法で定める回数)
気中濃度(質量比)
・ヒノキ γカジネン 2100×0.4÷0.5=1680ug/m^3
・スギ δカジネン 670×0.4÷0.5≒540ug/m^3
・アカマツ αピネン 190×0.4÷0.5≒150ug/m^3
気中濃度(体積比,20℃/1気圧時)
・ヒノキ γカジネン 1.68×22.4÷204×293÷273≒0.20ppm
・スギ δカジネン 0.54×22.4÷204×293÷273≒0.064ppm
・アカマツ αピネン 0.15×22.4÷136×293÷273≒0.027ppm
心地よい木の香りの濃度は1ppm以下と言われています *3)
樹種と施工面積を適切に設計することにより,室内の濃度をコントロールすることができます
【参考文献】
1) 森林総合研究所 交付金プロジェクト研究 成果集5 (2005)
「木質建材から放散される揮発性有機化合物の評価と快適性増進効果の解明」
2) 厚生労働省 (2019)
「室内空気中化学物質の室内濃度指針値改定に対応する放散速度基準値について」
3) 谷田貝光克 材料 46巻 (1997) 10号
「におい感覚と木材」